第二十三話 怪物の本当の名前
1
「ペロペ……!? やめろ……! 光を出し続けたらお前が消えちゃうぞ!!」
アキは必死に手を伸ばし、崩れゆくポン・ペロペの泥の身体を抱きしめた。
けれど、指の隙間からサラサラと泥が崩れ落ちていく。
『――大丈夫だよ……アキ……』
温かく、澄み切った少年の声が、アキの頭の中に直接響き渡った。
それは今までのようなノイズ混じりの音ではなく、はっきりと聞き取れる「人間の言葉」だった。
「え……? ペロペ……お前、喋れるようになったのか……!?」
『うん……僕ね……アキがずっと抱きしめてくれたから……自分の名前を……思い出せたんだ……』
泥の仮面が割れ、中から現れたのは――透明で、けれど優しく微笑む一人の少年の魂の姿だった。
「お前は……」
『僕の名前は……ペロ。昔……あの桜の坂道で……アキと一緒に約束したんだ。『大人になっても、ずっと親友でいようね』って』
アキの脳裏に、奪われていた最後の記憶が怒涛のように蘇った。
2
12歳になる前、真っ先に「残価ゼロ」と判定され、アキの目の前から姿を消した最初の幼馴染――ペロ。
彼はナキリムシ(感情を食べる怪物)へと変貌させられてもなお、本能だけでアキの元へ戻り、アキが悲しまないようにずっと「絶望」を食べ続けてくれていたのだ。
「ペロ……! ペロだったのかお前は……!!」
『ごめんね、アキ……僕、怪物になっちゃって……上手に名前も言えなくて……』
「謝るな! お前は怪物なんかじゃない! 俺の……俺の最高の親友だぁぁぁぁっ!!」
アキは大声をあげて泣きじゃくった。
『ありがとう、アキ。僕……アキのナキリムシになれて……すごく幸せだったよ……』
ペロの姿が、眩い光の束となって月面記憶銀行の天井を突き抜けていく。
その光は、月面にストックされていた数百万もの記憶のカプセルを次々と打ち砕き、弾け飛んだ思い出の結晶とともに、地球の空へと降り注いでいった。
キラキラキラキラ……ッ!
地球の夜空に降り注ぐ、極彩色の流星群。
それは、奪われていた子供たちの「心」が、それぞれの元へと還っていく奇跡の光だった。
「あ……アキ……見てみろ……!」
カムジが空を指さす。
ゼロのカプセルが静かに光へと溶け、世界を満たしていた死滅衝動のノイズが完全に消え去っていく。
そして――次回、物語はいよいよ最終回へ!
(第二十三話・完)




