第二十二話 世界の叫び(プラマイゼロ)
1
ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
機神マクベスの爆発とともに制御を失った『記憶のカプセル』。
そこから解き放たれた少年・ゼロの「死にたい」というあまりにも巨大な絶望のエネルギーが、漆黒の津波となって月面記憶銀行の最深部を呑み込んでいく。
『――あぁぁぁぁぁぁっ……!! 止まらない……僕の悲しみが……世界を壊してしまう……っ!!』
ゼロが頭を抱えて叫ぶ。
黒い絶望の波動は大気圏を突き抜け、青い地球へと届こうとしていた。これが地球に降り注げば、全人類が精神を破壊され、一晩で自滅する。
「させ……ない……ッ!!」
アキ・パパニカは膝を折りそうになる激しい重力に耐え、ゼロへ向かって一歩を踏み出した。
「アキ! 無茶だ、その黒い波に触れたら心が砕けるぞ!」
血まみれのカムジが叫ぶが、アキは立ち止まらない。
「ゼロも……サラも……地球のみんなも……本当は死にたいわけじゃない! 誰も自分の気持ちを受け止めてくれなかったから……一人で苦しかっただけなんだ!!」
アキの目から血の涙が溢れる。
「俺が受けて立つ……! お前の絶望も、寂しさも……俺が全部聞いてやる!!」
2
「ギィィィィィィーーーーーッ!!」
アキの覚悟に応えるように、ポン・ペロペが膨張した身体でアキの前に立ち塞がった。
ポンは全身の毛穴から、これまで地球と月で食べ続けてきた無数の子供たちの『大切な思い出の記憶(光)』を噴出させ始めた!
キラキラキラキラ……ッ!!
「な……んだ……この光は……!?」
カムジの目が見開かれる。
ポンの体内から放たれたのは、アキやサラ、そして名もなき子供たちが持っていた「初恋」「家族の温もり」「友達との笑顔」――奪われたはずの美しい感情の結晶だった。
バチバチバチバチッーーーーーッ!!
ゼロの「黒い絶望」と、ポンの放つ「希望の光」が正面から衝突する。
プラスとマイナス。絶望と希望。二つの相反する巨大な感情が交錯し、空間全体が眩い白光に包まれていく!
『――温かい……? なに……これ……? 僕の『死にたい』が……溶けていく……?』
ゼロの瞳から涙がこぼれ落ちる。
ポンの食べた思い出の光が、ゼロの数十年に及ぶ深い孤独を優しく包み込んでいった。
「ペロペ……お前……っ!!」
光の渦の中で、アキは見つめていた。
無数の記憶の光を放出し切ったポン・ペロペの泥の身体が、ゆっくりと光の粒子となって解けていくのを。
(第二十二話・完)




