第十九話 記憶の原初(ゼロ)
1
バシィィィィィィィン……ッ!!
ルクレツィアの胸のコア・クリスタルが砕け散ると同時に、最高管理室全体を覆っていたホログラム空間がバグを起こして消滅した。
「狂っています……エラー体どもが……! ゼロの絶望が解放されれば……世界は……っ」
白銀の姿を崩し、光の粒子となって消えていくルクレツィア。
彼女が消滅した瞬間、玉座の直下の水面が激しく渦を巻き、底なしの「暗黒の穴」が開いた。
ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
「うわあぁぁぁぁっ!?」
アキ、カムジ、そしてポン・ペロペの三人は、逃げる間もなく強大な重力に引きずり込まれ、タワーの最深部へと落下していった。
2
暗闇の中をどこまでも落ちていった先。
そこは、無数の蛍光ケーブルと巨大なガラス管が張り巡らされた、巨大な球体空間だった。
「ハぁっ……ハぁっ……! 生きてるか、カムジ……!?」
「なんとか……な。だが、ここは一体……」
空間の中央、宙に浮かぶ巨大な水晶のカプセル。
その内部には、全身を無数の管で繋がれた一人の銀髪の少年が眠っていた。
彼こそが、すべての始まり――最初の死滅衝動を生み出した存在、『ゼロ』。
シューーーーーー……
アキたちが近づくと、カプセルの強化ガラスがゆっくりと持ち上がり、内部の液体が排出された。
眠っていた少年・ゼロがゆっくりと瞳を開ける。その瞳は、深海のように暗く、どこまでも深い絶望を湛えていた。
『――やあ……僕を殺しに来たの……?』
ゼロの声が、スピーカーを通さず、アキたちの脳内に直接響き渡る。
『――嬉しいな……。僕、もう何十年も……『死にたい』って祈り続けていたんだ……。でも、世界が僕を死なせてくれなかった……僕の絶望を消すために、たくさんの子供たちの記憶を奪い続けて……』
ゼロの目から、一筋の黒い涙がこぼれ落ちる。
『――お願い……僕を壊して……。僕が消えれば、みんなの記憶も戻る……世界も……僕の苦しみも……全部終わりになるから……』
「ゼロ……お前……」
アキは言葉を失った。
この少年は悪魔などではない。世界を滅ぼす兵器として閉じ込められ、死ぬことすら許されずに『死にたい』と叫び続けていた、ただの被害者だったのだ。
その時、ゼロの足元から、巨大な影が立ち上がった。
『――そうはさせんぞ、エラーども』
空間の壁を突き破り、全高数十メートルの巨大な機械神(黒い迎撃アーマー)を纏って現れたのは――地球から追ってきた最高司令官、マクベス・トカチェフだった!
(第十九話・完)




