第十八話 選択の拳
1
「世界を……滅ぼすか……それとも……」
ルクレツィアから突きつけられた衝撃の真実。
地球を満たす『死にたいノイズ』の正体は、月面記憶銀行の最深部に封印された最初のエラー少年『ゼロ』の絶望。そして、子供たちの記憶は、その絶望を相殺するために燃やされている――。
アキ・パパニカの腕の中で、ポン・ペロペが震えていた。
この怪物を救えば、サラの記憶を取り戻せば、世界はゼロの絶望に呑まれて崩壊する。
「……ハハ……なんだよそれ……」
アキは膝をつき、力なく嘲笑した。
「誰かの犠牲の上にしか成り立たない平和なんて……そんなの……偽物じゃないか……!」
「いいえ、完璧なシステムです」
ルクレツィアが冷ややかに答える。
「少数の犠牲で多数が平穏を得る。これこそが人類の到達した最適解。さあ、悟りなさい。そのナキリムシを渡し、あなたもここで『幸福な人形』となりなさい」
「断る……ッ!!」
アキは力強く立ち上がり、涙を拭った。
「誰かを犠牲にしなきゃ生きていけない世界なら……そんな世界、俺がぶっ壊してやる!!」
「愚かな……!」
ルクレツィアの目が凍りつく。彼女が手をかざすと、玉座の周囲の水面から無数の高圧プラズマ兵器が立ち現れ、アキへ一斉に照準を合わせた。
「言葉で理解できないなら、その存在ごと消去するまでです!」
2
ドドドドドドドッーーーーー!!
放たれる熱線の嵐!
アキはボロボロの鉄パイプを構えて正面から突っ込んだ。
「アキーーーッ!!」
背後のエレベーターから、血まみれのカムジ・チャモロが飛び出してきた。
処刑部隊のドールを返り討ちにし、満身創痍の状態で追いついてきたのだ。
「カムジ! 無事だったのか!?」
「当たりめぇだ! 妹の記憶を取り戻す前に死ねるかよ! アキ、ルクレツィアに集中しろ! 攻撃は俺が弾く!!」
カムジは拾った敵の大型シールドを前に掲げ、アキの前方に立ちはだかった。
強烈な熱線がシールドを削り、カムジの腕の肉を焼き切っていく。それでもカムジは一歩も引かない。
「行けぇぇぇぇっ、アキ!!」
「おおおぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
カムジの作った一瞬の隙を突き、アキはルクレツィアの懐へと跳躍した。
アキの腕の中から、ポン・ペロペが弾丸のように飛び出す!
「ギィィィィィィーーーーーッ!!」
ポン・ペロペはルクレツィアの胸元――システムを統御するコア・クリスタルへと食らいついた!
メリメリメリッ……バリンッ!!
「なに……!? このナキリムシ……システムの感情データではなく……私自身の『制御プログラム』を喰って……!?」
ルクレツィアの表情が崩れ、胸元のクリスタルに激しいヒビが入る。
「喰らい尽くせ、ペロペ! 俺たちの奪われた心を……全部返してもらうぞーーーーっ!!」
(第十八話・完)




