第十六話 ガラスの塔の処刑人
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月面都市アルカディアの中央にそびえ立つ『中央記憶塔』。
天を突くガラス張りの巨大タワーの内部は、静寂と冷気で満たされていた。
「ハぁっ、ハぁっ……! ここまで来れば……っ!」
アキ・パパニカとカムジ・チャモロは、満身創痍の身体を引きずりながらエントランスの自動扉を駆け抜けた。
アキの腕の中では、無数の感情ノイズを食らいつくしたポン・ペロペが、熱に浮かされたように「ギ……ギィ……」と弱々しい息を吐いている。
「油断すんな、アキ。敵の本陣だぞ」
カムジがナイフを構えた瞬間――。
パリンッ……!!
吹抜けの天井から強化ガラスを砕いて、一筋の閃光が降り立った。
白銀の戦闘義肢を光らせ、両手に高周波ブレードを握りしめた一人の少女。
「――侵入者の即時排除を開始します」
「お前は……サラサラ・クックの言っていた、月面直属の処刑部隊……!?」
少女の表情には一切の感情がない。
その胸元には、ガラス越しに青く光る『記憶結晶』が組み込まれていた。地球の子供たちから剥ぎ取った思い出を動力源として動く、人造兵器だ。
「消えろ、システムのバグども」
速い!
少女の影が揺れたかと思うと、カムジの胸元へ高周波ブレードが一直線に伸びた!
ガキィィィィン!!
「ぐおっ……!? クソ重ぇ……ッ!」
カムジがサバイバルナイフで間一髪受け止めるが、強烈な衝撃で壁まで吹き飛ばされる。
「カムジ!」
「アキ、余計な心配してんじゃねぇ! お前はペロペを連れてエレベーターへ走れ! ルクレツィアのところへ行くんだ!」
「でも……!」
「いいから行けぇっ!! 妹の記憶を取り戻すって決めたんだ……こんな人形相手に遅れは取らねぇ!!」
カムジは吐血しながらも凶暴な笑みを浮かべ、ナイフを逆手に握り直して襲いかかるドールへと躍り出た。
2
「カムジ……死ぬなよ!!」
アキは歯を食いしばり、ポン・ペロペを強く抱きしめて最奥の特別エレベーターへと飛び込んだ。
シャァァァァー……
ガラス張りのエレベーターが、急速にタワーの最上階へと上昇していく。
窓の外には、無機質な笑顔で埋め尽くされた月面都市の夜景が広がっていた。
「……アキ……」
「ペロペ!? 意識が戻ったのか!?」
胸の中のポン・ペロペが、濁った黄色い瞳を微かに開けた。
その手が、震えながらアキの胸元――文字化けした名札をそっと指さす。
『――僕……思い出してきたんだ……』
「え……?」
『――僕が……ナキリムシになる前のこと……。アキと一緒に……あの桜の咲く坂道で……遊んだこと……』
アキの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「思い出してくれたのか……!? ペロペ……お前の本当の名前は――」
ピンー……
エレベーターが最上階『最高管理室』へと到着し、静かに扉が開いた。
(第十六話・完)




