第十五話 喰らい尽くす黒い涙
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ゴクン……ッ! ガリガリ……ガリガリッ!
ポン・ペロペが月面ナキリムシたちの体内に流れる「強制された感情エネルギー」をガツガツと食らい尽くしていく。
ポンがノイズを食べるたびに、襲いかかってきていた怪物たちの灰色の皮膚が元に戻り、瞳にわずかな正気が取り戻されていく。
「あ……あれ……? 僕……ここで何を……」
「正気に……戻った……!?」
アキは目を見開いた。
ポン・ペロペは地球の絶望だけでなく、月面で歪められた感情すらも「食べて浄化」することができるのだ。
「ギ……ガハッ……! ギィァァァッ……!」
だが、数百体ものナキリムシから一気に膨大なエネルギーを呑み込んだポン・ペロペの身体に、異変が起きた。
ボロ布の皮膚が限界まで膨れ上がり、体内から黒い光と赤紫色のノイズ線が激しく吹き出し始める。
「ペロペ! もうやめろ! 破裂しちゃうぞ!!」
アキが制止しようと駆け寄るが、ポンの身体から放たれる凄まじい衝撃波に弾き飛ばされた。
『――大丈夫……だよ……アキ……』
ポンの思考の声が、かつてないほどはっきりと、けれど苦しげにアキの脳裏に響く。
『――みんなの……苦しいの……僕が全部食べてあげる……』
『――そうすれば……アキは……笑ってくれるでしょ……?』
「ペロペ……っ! お前……自分の身体を犠牲にしてまで……!」
2
「ほう……驚きましたね。システムが注入した感情ノイズを直接捕食し、不活性化させる個体が存在するとは」
広場のホログラムの中で、ルクレツィアが興味深そうに目を細めた。
「ですが、限界です。その廃棄体の許容量はすでに限界を超えている。これ以上喰らえば、内側から自壊してただの肉の塵となるでしょう」
「自壊させるかよ……っ!!」
アキは泥と不純物を撒き散らすポン・ペロペの元へ飛び込み、激しい衝撃波に耐えながら、その小さな身体を強く抱きしめた。
「吐き出せ、ペロペ! 俺に分けろ! お前一人に抱え込ませたりしない!!」
「ギ……ギィ……ッ!?」
アキがポンの胸元に手を当てると、アキの身体を通して「月面記憶銀行の膨大なデータ」がアキの脳内へと直接流れ込んできた!
ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
アキの脳裏に閃光が走る。
そこに見えたのは、月面都市の地下深くに眠る『記憶の原初コア』の映像。
そして――そのコアの最深部に囚われている、すべての元凶となった「一人の少年の姿」だった。
「な……んだ……あの少年は……!?」
「アキ! 正気に戻れ!」
カムジがアキとポンを力任せに引き剥がし、背後から迫る追手のシールドを撃ち抜いた。
「この街のシステムを壊さなきゃキリがねぇ! ルクレツィアのいる『中央記憶塔』へ突入するぞ!!」
「あぁ……! 待ってろルクレツィア! 全部ぶっ壊して、ペロペもみんなも救い出してやる!!」
傷だらけの三人(二人と一匹)は、激しい警報が鳴り響く月面都市の真ん中を、中央タワー目指して駆け出した!
(第十五話・完)




