第十四話 幸福な人形の街
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「見なさい。これが完璧に管理された『感情の地獄』であり、同時に『究極の天国』です」
立体ホログラムの中で、ルクレツィアは冷ややかな微笑みを浮かべて手を広げた。
透明化した壁の奥には、無数のガラス管が敷き詰められていた。その中で青やピンク、金色に輝く結晶体――地球の子供たちから剥ぎ取られた感情と記憶が、街の照明や生命維持システムを動かすエネルギーとして消費されている。
「お父さん……お母さん……ありがとう……」
「今日のケーキ、すごく美味しかったね……!」
結晶体から漏れ出る声。それは、地球で「減価償却」され、記憶を失った子供たちがかつて大切にしていた、たったひとつの思い出たちの叫びだった。
「あいつらの思い出を……電池みたいに使ってんのかよ……っ!」
アキ・パパニカの拳が白くなるほど固く握りしめられる。
街の住民たちは、そんな犠牲のうえで供給されるエネルギーで満たされ、うつろな瞳で笑い続けているのだ。
「悲しみも、苦しみも、死滅衝動も存在しない。地球のノイズ(ゴミ)をここで美しい光に変えてあげる……これ以上の救いがありますか?」
「ふざけるな……! 記憶を奪って笑わせることが救いな訳あるか!」
「おや、理解できませんか。では――実戦でお見せしましょう」
ルクレツィアが優雅に指を鳴らした瞬間、街のスピーカーから耳をつんざくような甲高い電子音が響き渡った。
ピーーーーーーーーッ!!
「ぐ……っ!? 頭が……っ!」
アキとカムジが頭を抱えて激痛に耐える中、周りで笑っていた住民たちの表情が一変した。
彼らの皮膚が急激に灰色のボロ布のように変色し、手足が不自然な角度に折れ曲がっていく。
「な……んだと……!?」
「彼らは『幸福な住民』であると同時に、侵入者を排除するセキュリティ……月面仕様の《ナキリムシ》なのです」
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「ギィァァァァァッ!!」
かつて住民だった無数の異形たちが、狂ったような咆哮を上げてアキたちへ襲いかかってきた!
地球のナキリムシと異なり、彼らは月面の高密度エネルギーを注ぎ込まれ、凶暴な兵器へと改造されていた。
「チッ! 街の奴ら全員が敵かよ!」
カムジがナイフを閃かせ、迫り来る個体の腕を切り落とすが、傷口から不気味な光が溢れ出し、一瞬で再生していく。
「再生してやがる!? キリがねぇぞ、アキ!」
「ペロペ、下がりろ! 俺が――」
アキが鉄パイプを構えたその時、襲いかかってきたナキリムシの一匹が、アキの腕を掴んだ。
その瞬間、アキの脳内にノイズ混じりの「強い感情」が流れ込んでくる。
『――寂しい……痛い……お母さん……どこ……?――』
「っ……! こいつら……笑わされてただけで……本当は……ずっと泣いてたんだ……!」
アキの瞳から涙が溢れ出た。
ルクレツィアの「完璧な幸福」なんて嘘だ。みんな、無理やり笑顔の仮面を貼り付けられ、心の中で叫び続けていたのだ。
「ペロペ!!」
「ギィッ!!」
ポン・ペロペがアキの叫びに呼応し、アキとナキリムシの間に割り込んだ。
ポンは襲いかかってくる月面ナキリムシの胸元にそっと手を触れると、その体内に渦巻く「偽りの幸福」を、一気に口から吸い込み始めた!
(第十四話・完)




