第十一話 カウントダウンの鐘
1
施設全体が激しく鳴動していた。
天井の崩落とともに、統治機構の無人警備ドローンが群れをなして雪崩れ込んでくる。
「アキ! 燃料は確保できたか!?」
カムジ・チャモロがナイフでドローンのセンサーを破壊しながら叫んだ。
全身泥だらけのアキ・パパニカは、重たい青光のシリンダーを両手でしっかりと抱え直す。
「取ったぞ! これで『アストラエア』が動く!」
「よし、野郎ども! ズラかるぞっ!!」
「ギィィィーーーーーッ!!」
ポン・ペロペが口から泥の砲弾を吹き出し、迫り来るドローンの群れを牽制する。
三人は崩れゆく第零解体場の通路をがむしゃらに駆け抜け、旧世界の格納庫へと飛び込んだ。
格納庫の中央で、漆黒の宇宙船『アストラエア』が鈍い光を放って静かに佇んでいる。
「アキ、燃料シリンダーを後部のメインリアクターに叩き込め! ペロペ、お前はバイパスの回路を繋げ!」
「わかった!」
アキは船体後部のハッチをこじ開け、熱を帯びたシリンダーを中央スロットへ強引に押し込んだ。
カコン……ガチィィィン!!
重厚なロック音が響き、船体全体に蒼いプラズマの脈動が走り抜ける。
『――システム起動。旧世紀型脱出艇アストラエア、メインエンジン再起動――』
『――ターゲット:月面第4領域。ブースター点火まであと120秒――』
「動いた……! 動いたぞ!!」
アキが叫んだその時、格納庫の巨大な天井扉が激しい爆破音とともに吹き飛んだ。
2
空から降り注ぐ炎と硝煙の中、無数の黒い軍用機を従えて降り立ってきたのは――統治機構総司令官、マクベス・トカチェフだった。
「どこへ行くつもりだ、エラーの子供たちよ」
マクベスの冷酷な声が、通信スピーカーを通じて格納庫全体に響き渡る。
「月は『純粋な記憶の聖域』だ。泥と感情のバグに汚れた君たちが足を踏み入れて良い場所ではない」
「うるせぇんだよ、イカレ司令官が!!」
カムジが操縦席から身を乗り出し、アストラエアの下部機関砲をマクベスへ向けて掃射した。
バババババババッ!!
しかし、マクベスの周囲に展開された強力な電磁シールドに弾かれ、弾丸は虚しく散っていく。
「我が統治機構の迎撃衛星が、すでに上空で照準を合わせている。この船が地上を離れた瞬間、分子レベルで蒸発することになる」
「ハッ……脅してんじゃねぇよ!」
カムジは操縦レバーを力任せに握りしめた。
「俺たちはな、最初から無価値だって捨てられたガキなんだよ! 蒸発だろうが何だろうが、月に一発殴り込みをかけなきゃ死んでも死に切れねぇんだ!」
「カムジ……っ!」
「アキ、ペロペ! 座席に掴まってろ! 一気に大気圏を突き抜けるぞ!!」
『――ブースター点火まで、あと10秒……9……8……――』
ポン・ペロペがアキの隣に飛び乗り、不安そうにアキの手をギュッと握りしめた。
アキはその温かい手をしっかりと握り返す。
「大丈夫だ、ペロペ。俺たちは……絶対に行く。奪われたお前の名前を、サラの心を……全部取り戻すために!」
『――3……2……1……点火!!――』
ゴォォォォォォォォォォォンーーーーーーッ!!
まばゆい蒼炎が格納庫全体を包み込み、重力を置き去りにするように『アストラエア』が地上を蹴った。
爆風の中、夜空を破って上昇していく一筋の光。
少年たちの、地球への最後の叛逆が始まった。
(第十一話・完)




