第十話 第零解体場の決戦
1
巨大なプレス機が重い金属音を響かせ、ベルトコンベアの上を無数の廃棄物が流れていく。
統治機構の直轄施設『第零解体場』。ここは12歳を超えて使い古された機械や、社会から「無用」と切り捨てられたナキリムシたちが集められ、砕かれる最果ての地だった。
「……ここが、第零解体場か……」
アキ・パパニカは天井のキャットウォークから、眼下に広がる地獄絵図を見下ろしていた。
隣にはカムジ・チャモロ、そして泥の身体を丸めて気配を消すポン・ペロペがいる。
「奥の『中央エネルギー保管庫』に、旧型船を動かす高圧プラズマ燃料がある。警備を叩き潰して一気に奪うぞ」
カムジがナイフの柄を握り直し、ニヤリと不敵に笑う。
「アキ、ペロペ。燃料を手に入れたら、俺が警備を引きつける。お前らはそれを持って『アストラエア』まで走れ」
「また一人で残る気かよ!? ダメだ、今度は全員で帰るって決めたろ!」
「へっ、甘ぇこと言ってんなよお坊ちゃん。全員で脱出するために……っ!?」
カムジの言葉が途切れた。
キャットウォークの先端、降り注ぐ火花の中に、一人の女が立っていた。
軍服の胸元をはだけさせ、両手には巨大なプラズマカッターを携えた統治機構の処刑人――マクベス・トカチェフの側近だ。
「エラー感染体および廃棄体を発見。これより解体作業を開始します」
女の冷徹な声と共に、プラズマカッターから青白い熱線が放たれた!
バチバチバチッーーーーーッ!!
「伏せろっ!!」
カムジがアキの頭を押さえ込み、間一髪で熱線を回避する。溶けた金属の天井がドロドロと床に垂れ落ちていく。
2
「ペロペ! カムジを援護しろ!」
「ギィィィーーーーーッ!!」
ポン・ペロペが弾丸のように跳躍し、処刑人の顔面に向かって泥の塊を吐き出した。
「なっ……不潔なゴミが……!」
視界を奪われた処刑人が一瞬体勢を崩す。その隙を見逃さず、カムジが地を這うようなスライディングで肉薄し、ナイフで足を払い飛ばした!
「今だ、アキ! 奧へ走れぇっ!!」
「くっ……任せたぞ、カムジ!」
アキは崩れ落ちるキャットウォークを駆け抜け、中央エネルギー保管庫の重厚なシールド扉へと飛び込んだ。
保管庫の中央に設置されたガラス管の中で、青く眩い光を放つシリンダー――高圧プラズマ燃料だ。
「これさえあれば……月へ行ける……!」
アキが非常用ロックを解除し、熱を帯びた重量級のシリンダーを両手で抱え上げたその時――。
キーーーーーーン……!!
頭の奥底で、今までで最も強烈な電子ノイズが炸裂した。
視界全体がバグのように歪み、文字化けした空間の裂け目から、聞き覚えのある声が響く。
『――ア・キ……聞こ……えますか……?』
「なっ……!? この声……サラサラ・クック……!?」
空間のノイズが晴れた場所に浮き上がったのは、巨大なモニターに映し出されたサラサラ・クックの異形なシステム顔だった。
『無駄ですよ、アキ・パパニカ君。あなたが月を目指すことすら、月面記憶銀行の予測アルゴリズムの範囲内なのですから』
「なに……!?」
『地球に残された全てのエラー(不純物)を誘き寄せ、宇宙ごと一網打尽にする……。マクベス閣下が用意された『最後の清掃プログラム』が、すでに始まっているのですよ』
ズズズズズズズ……!!
第零解体場全体が、牙を剥くような激しい振動に包まれる。
天井が割れ、巨大な宇宙迎撃要塞の砲門が、この解体場全体に向けられて固定されていく。
「ははっ……罠だと知ってても行くさ!」
アキはシリンダーを抱き締め、サラサラ・クックのモニターを激しく睨みつけた。
「俺たちが月へ行くのは、システムに従うためじゃない! お前らが奪った記憶と心を……全部叩き壊して取り戻すためだ!!」
アキは扉を蹴破り、カムジとポン・ペロペが待つ戦場へと飛び出していった!
(第十話・完)




