第9話 掌返し
憲兵も交えた取り調べの結果は「冒険者クーランの客室に戦士を手引きし、共に殺された女奉公人が今回の主犯」とのことだった。
セルヒオは彼女を切ったらしい。
プリムラも簡単な取り調べを受けたようだが本当に何も知らず、むしろ事実と結果を詳しく説明される側だったそうでショックを受けているようだった。
ショックを受ける感性はあるらしい。
帰る決心がつかないという彼女を気遣ってトリルが昼食は外で取ろうと提案する。
僕はどうでも良かったのだけどトリルは僕も同席させようと誘ってきた。
そして奉公人三人もお目付としてついてくる。
事情を知っていて取り調べを受けた彼らはげんなりといった顔を浮かべていた。
トリルが直感で選んだ店に入り僕、トリル、プリムラが同じ食卓を囲む。
すぐ隣の食卓に奉公人達が着く。
トリルとプリムラが注文を済ませ僕はあえてプリムラと同じものを頼む。
これなら「薬を盛ってくれ」なんて奉公人から頼めないだろう。
注文したランチが各々配られる。
僕は真っ先に一口食べあえて声に出した。
「薬は盛られてない。食べても大丈夫だよ」
こうして敵意を伝えないと誰も気づけないからね。
表情が凍り付く周りの五人、デスティンだけが笑う。
「ぶち壊しにかかってきた」
圧を発した僕以外の表情は暗い。
まぁ、僕も暗い顔してると普段から言われてるけどね。
「ごめんなさい。パパがあんな命令を出すなんて考えてもいませんでした」
「御主人様は関与しておられません。あの女奉公人が勝手にやったことです」
謝るプリムラを奉公人達が間違った方向にたしなめる。
もうプリムラも理解出来てるのにこの様子はね。
僕とプリムラの間を取り持とうとしているトリルもこのやり取りで何を言えば良いのか迷っている。
「お嬢様からは謝罪をいただきました。良くも悪くもこれ以外は要りません」
悪くも、僕はこれを付け加えることで会話を遮断して、その後は全員自分の食事を片付けた。
結局、僕に何も出来ないプリムラは家に戻ることを決め、僕たちは解散した。
―――
僕がリデン商会のロゴがある店を避けつつ保存食、松明などの消耗品を買いなおし、ギルド支部に戻ったのは夕方。
「あっ、クーランさん。依頼です」
既に来ていたトリルに掲示板の前に連れてこられる。
カレギア教王国は識字率が低く計算のできる者も少ない。
貴族階級や僕達のような魔法職以外では教育を受けた者は少数。
セルヒオのように平民が貴族に成り上がることは非常に稀なケースだ。
さて、掲示板を見ると僕とトリルを指名で依頼する物が一件、しかも依頼主はリデン商会。
僕はその依頼書を剥がし、受付に尋ねる。
「なぜこの依頼を僕に?」
内容はリデン商会の馬車を王都ファンドルまで護衛。
出発は明日朝、商人や積み荷のため馬車は護衛の徒歩の速さで六日予定。
一見まともな内容だからギルドも依頼として受諾したのだろうけど。
「クーラン殿、見事な白髪ですな」
振り向くとトリルの傍にスーツの上にリデン商会ロゴのついたマントを羽織った商人がいた。
「私が今回護衛をお願いする担当者ヤコブと申します」
商人ヤコブからこの依頼についての詳細を聞くことになる。
「御主人様はクーラン殿の提案された、王都から魔法工芸品を正規ルートで買い、誰よりも先駆けてコーリネスに工房を建て、魔法職工技術を独占する方針を正式に採用なされました」
結局それが問題にならない判断だと思う。
「そして貴方にこの依頼をする理由はいくつかありまして。一つ、あなたに魔法工芸品の知識があり良し悪しの区別がつくであろうこと」
「商人なら相応の鑑定眼をお持ちだと思いますが」
御師様謹製の魔法工芸品は王都には無いのではぐらかしてみせる。
「王都の工房で最良を教えていただくだけで構いませんよ。二つ、リデン商会は潔白です」
ヤコブの話に受付が入ってくる。
「昨夜の事件でリデン商会と冒険者ギルドの間に僅かな亀裂が生じました。これを埋めるためには貴方が直接リデン商会の依頼を受け、和解したという事実が必要なのです」
ギルド自体が陰で依頼を斡旋した可能性もあった。
リデン商会も冒険者ギルドもやましいことはないと発信したがっているらしい。
「最後は、その……プリムラお嬢様が王都に行きたいと仰られて。クーラン殿とトリル殿が護衛についてほしいとのことで」
「プリムラお嬢様が?」
驚くトリルに僕から周りの皆にも聞こえるように話す。
「低速馬車の護衛なんて一人二人じゃ無理だよ。ギルド規定最大の六人案件だね。残り四人」
正直、僕自身は面倒くさいけどギルドからも圧をかけられては仕方がない。
「分かりました。依頼は受けますが護衛人数が心もとないので増員します。それに合わせ給金を人数分に比例する形で増やしていただきますが」
「命と積み荷のため。その条件を飲みましょう」
ヤコブが僕の条件を受諾すると方々から声が上がる。
「二人分の報酬を無理に分けるより条件は良さそうだな」
「あたし、北西に用事あるからついでに受ける」
僕とトリル以外の四人はいとも簡単に集まり、僕は字の読めない一部の護衛者のために依頼書の内容と報酬額を教える。
「出発は明日朝。依頼者は王都視察のため片道だけの約六日の護衛。報酬一人500クロスを基本に増減。そして、今回は冒険者税は依頼主達の馬車に被害が及ばなければ免税、だそうです」
ギルドは絶対この依頼を僕に受けさせたかったんだろうね。
「報酬はそれなりだけど免税は良いな」
「今から買い物してくる。あたしの名前、依頼名簿に代筆して」
僕は依頼担当名簿に六人全員の名前が揃ったことを確認して、依頼書と共に受付に提出する。
僕の書類の提出を見届けたら臨時のパーティーは思い思いに散っていく。
依頼者のヤコブも去り一息ついたところで思い出した。
「トリルさん。悪いけどヒールを使ってもらえないかな?斬られてずっと痛くてね」
「今まで治療してもらってなかったんですか?」
ちょっと呆れながらトリルは2回のヒールで傷と体力を癒してくれた。
「ありがとう。僕は昼に街を出る準備は済ませていたから寮に帰るよ。トリルさんも準備をしたら早めに休んでね」
「それじゃ私も買い物してきます。絶対成功させましょうね」
途中まで一緒に歩きトリルは商店街、僕は寮へと別れた。
そこでデスティンが聞いてきた。
「寮は襲われないのか?前の襲撃者は冒険者だっただろー」
「冒険者ギルド、リデン商会の対外的メッセージの内容があれならば今夜は襲撃を気にせず眠れそうだね」
「あー。今騒ぐと逆効果だな」
デスティンは納得し少し考えた後、
「ツァーリに会ってみる。俺のことなんか聞けねーかな」
―――
「よー。来てやったぜー。割と静かだな」
「人は灯りから離れられん。我は息吹で薙ぎ払える。そして死んでからは夜が楽なのだ」
ツァーリは廃城門に構えたまま俺に応対する。
「それでお前、俺のこと知ってるんだろ?」
「知ってはいるが僅かな間だ」
「竜の僅かなって何年だよ?」
「うむ……二年ほどだったか?お前は見た目のまま三十を越えておらんらしい」
「お前がここに拘る理由ってなんだ?」
「忘れたか……自力で思い出せ」
「俺の方が原因か?……俺の記憶……あー、クーランのポーション作りに見覚えがあったような?」
「ならば行ってみろ。もとよりお前達は大陸全土を旅した者だ」
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




