第8話 プリムラと冒険者(1)
窓から微かな光が差し込む。
一睡もしなかった僕は魔法回数が回復していない。
そんな早朝に僕の客室をノックする音が聞こえ、僕の返答を待たず扉を押そうとした。
「重い?」
そんな疑問の声を発しながら無理やり入ってきたのは屋敷の奉公人達だった。
ベッドに座る僕に訝しげに見た後、襲撃者二人の死体を見て驚く奉公人達。
「死んでる!」
「はい。夜に入った盗賊です。退治しておきました」
僕は扉に進み戦士の遺体を無理やり引きずり、外に出る。
外にはセルヒオも居て僅かに眉間にしわを寄せていた。
僕には斬られた傷があるのでこれが襲撃の証拠になる。
「盗賊の一人は奉公人として侵入していたようですね。素性調査は念入りにした方が良いですよ?敵になる『人』は近くにいるほど害が大きい」
「忠告ありがとう。気を付けるようにしよう」
僕のはぐらかしにあえて乗るセルヒオは表面的には平静だったが昨日と言葉遣いは変わっているように思えた。
「いや。平静を保つなよ。取り乱した方が普通に見えるだろ」
デスティンがその様子にチャチャを入れた。
戦士の遺体を引きずり僕は屋敷の外を目指す。
「そちらの男は?」
「冒険者身分証を持っていました。規定によりギルドまで運びます」
セルヒオの問いに答えたら彼は黙ってしまった。
トリルは呼ばない、というより奉公人が邪魔して呼べない。
「戦いの経験がない人なら僕は多人数一度に殺せます」
この言葉で一斉に僕から離れるセルヒオ達。
あと1回しか使えないけど脅しにはなる。
「トリル……には会えなそうですが、いざとなれば……」
僕はトリルの無事のため釘を刺して館を出て行った。
―――
重たい遺体を引きずりギルド支部へ進む。
早朝で人通りは少ないがすれ違う人は驚いていた。
ギルド支部に入った僕は受付に戦士の身分証と遺体を押し付けた。
「冒険者クーランです。リデン邸に入り込み僕の荷物を盗もうとした盗賊を連れてきました」
身分証を見た職員達は慌てて奥に引っ込んでしまい、僕は広間で待つことになった。
僕はまだ眠れない。
ギルドも依頼を斡旋した敵の可能性はまだある。
ここが敵地だと思うと何とも心もとない。
暫く待っているとトリルがギルド支部に入ってきた。
それだけでなくプリムラ、さらにはリデン邸奉公人三人まで続いて入ってくる。
「クーランさん。なぜ一人だけで帰っちゃったんですか?」
トリル、そしてプリムラは状況を知らされていないようだった。
奉公人達は僕と目を合わせないようにしているけど。
「用事があっただけだよ。トリルさん、なぜプリムラお嬢様までここへ?」
朝日で見るプリムラはピンクの髪、薔薇色の瞳、トリルより背は低くあどけない顔立ちに嗜み程度の薄化粧。
「良いねー。お袋さん似で美人になるだろうな」
デスティンが笑って褒めるけど僕にしか聞こえない。
用事と言われて後ろに控えている奉公人達の目が泳ぐがプリムラは全く気付かない。
「クーラン、私、冒険者になりたい。魔法使ってみたい」
「お嬢様、そんなわがままを言うものではありませんよ」
プリムラはあっけらかんと笑い、そんな彼女を後ろの奉公人がたしなめる。
「トリルさんからどんな説明を受けたかは知らないけど、貴族が冒険者に夢を見るのはやめた方が良いよ」
僕も奉公人達に同調した。
「楽しそうなのに」
「……冒険者は『命を切り売りする商人』だよ。命、安くなるよ」
周囲の冒険者たちの一部には同調、自嘲して笑う者もいた。
プリムラを諫める僕の助け舟はむしろ奉公人達を黙らせてしまった。
あんなことの後ではね。
「冒険者クーラン、トリル。屍毒処理の報酬の引き渡しです」
受付に呼ばれ僕とトリルはそちらに向かう。
プリムラもそれについてきた。
「一人5000クロスです。受け取ってください」
「そんなに頂けるんですか」
トリルは喜んでいたが僕は違う意見だった。
「僕達が運んできたポーションの料金が合計2000クロス。バケツ十数杯を作って屍毒の蔓延を防いだのに総額10000クロス。安すぎます。ドラゴンが動いてることに納得いかない兵士が難癖を付けましたね」
僕が説明するとトリルがしょぼんとした。
「冒険者税はどうなりましたか?これだけが跳ね上がるようでは話になりませんよ」
「冒険者税?なにそれ?」
続けて受付に質問する僕にプリムラが尋ねてきた。
「モンスターは商取引しないから基本戦ってもお金を持っていない。人から依頼されてお金をもらうのが冒険者。そして商取引だから税がかかる」
「税は5000クロス相応に抑えさせていただきました」
受付から提示された書面を読み込み考えた後、トリルにも読ませる。
「この報酬と税でお願いします」
トリルが受付に答え、僕はプリムラに向き直る。
「今回のように気に入らないと思われるだけで、僕達の『命』の報酬は安くされる。もし仮に無料だったら『お前の命には1クロスの価値もない』という意味。貴族は税をもらう側で多少安定してるけど平民冒険者は、ね」
僕の答えはプリムラの幻想を傷つけて表情を曇らせた。
「魔法を使いたいなら兵団の門を叩き、国の教諭から習う方が良い。騎士爵の娘ならその資格があるからね」
プリムラをなだめ、僕は朝食に保存食の残り物を食べる。
ここに残る必要があり、待つ時間が暇だっただけの理由だけどプリムラは僕の普段の食べ物の安っぽさにも悩んでいる様だった。
皆は既にリデン邸で朝食をとっていたらしい。
ようやく空になった保存食、でも次に買うのもまた保存食。
なんてとりとめのないことを考えているとついに時が来た。
「冒険者クーラン。盗賊についての詳細が分かりました」
僕は席を立ち受付に向かう。
何のことだか知らないトリルとプリムラも付いて来てしまう。
リデン邸の奉公人三人はプリムラをどう止めれば良いか分からず残って冷や汗を流している。
「リデン邸襲撃犯の冒険者は一昨年に入会。素行は悪くギルドへの貢献もあまりなかった人物です」
「家を襲撃?え?なにそれ?」
受付の説明で初めて盗賊が家に入り込んだことを知ったプリムラが聞き返している。
「昨日遅く、リデン商会から『商談のため冒険者の手を借りたい』との依頼はありましたが当支部は内容が護衛などではなく恫喝と判断し拒否しています」
受付の言葉の真贋はともかく、冒険者ギルドはリデン商会を今切り捨てた。
「彼ら三人がリデン家の奉公人。こちらの女性がリデン家令嬢様です。」
プリムラが後ろの奉公人達を見るが彼らは外へ逃げようとし、他の冒険者に出口を塞がれてうなだれる。
僕が四人の素性を説明するとトリルが続けて受付に話した。
「私も昨夜リデン邸に泊まっていましたが私もプリムラさんも襲撃があったことは何も聞かされていなかったんです」
トリルの言葉に少し考えた受付は奉公人達を呼び寄せた。
「昨夜、物事を考えない冒険者の一人がリデン邸に泊まる冒険者クーランの荷物を盗み出そうとし、返り討ちに会い死亡しました。彼はギルドが不適切として拒否したリデン商会からの案件をギルド外で独断で受けたようですね」
受付はギルド規定に関わる事なので広間の全員に聞こえるように説明した。
冒険者の中にはベテランや勘に優れた者がいるようでギルドと奉公人達を同じ目で見ている者もいた。
人の死んだ案件なので官憲を呼ぶため職員が一人外に出された。
怪我人が遺体を引きずる話は回っていたようで官憲が来るのは早かった。
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




