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亡霊と大陸渡り  作者: 石寺 和尚(カズナオ)
カレギア教王国1
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第7話 商人が招いた客人

「クーランさん。貴方の不思議な能力について教えていただけませんか?」


 セルヒオ氏が僕の素性を詮索し始めた。


「死霊術と呼ばれる魔法体系です。これを使う者は霊媒師と呼ばれます」


 トリルにも話した表面的な説明を返した。


「死霊術……やはり今まで聞いたことのない技術ですな」


「魔法!聞いたことのない魔法!私にも教えて!」


 セルヒオ氏の言葉にお嬢様が食いつく。


 セルヒオ氏はお嬢様を見て何やら考え問いかけてきた。


「死霊術を習得する方法を教えていただけませんか?」


「僧侶、魔術士と同じでその道の魔導師と呼ばれる方に教えてもらうことになります。僕は魔導師の資格は持っていませんので教えることができません」


「では魔導師の居場所を教えていただけませんか?」


「冒険者ギルド、騎士兵団の教諭、どちらにもいなければお手上げです」


 無論、ツァーリの顛末を見ていれば冒険者はおろか正規兵にも死霊術の使い手が一切いなかったことは分る。


 セルヒオ氏はなお食い下がる。


「クーランさんを育てた魔導師殿はどこにおられますか?」


「……御師様は隠遁された方です。お話しできません」


 僕は静かに微笑んで返答を拒否した。


 この微笑みで僕が笑ってないと悟ったのはさすがに商会の主、セルヒオ氏は話題を変える。


「ギルドの作業室で大量のポーションを作り上げたそうですな。死霊術にはそんな技術もあるのですか?」


 そこも奉公人に見られてたのか、と考えながら僕から興味を引かない方向に答える。


「そちらは魔法工芸品による技術ですよ。魔法工芸品は誰でも使え、これを作る魔法職工者キャスターは僕以外にもいます。王都ファンドルにその工房がいくつかありますよ」


 御師様の庵が最も良い工房なのは伏せて答えた。


「ふむ。まだこの街にはないが王都にはあると」


 セルヒオ氏は納得はしたようだった。


 しかし思ったより強欲なようで続ける。


「ですが現物は貴方が今持っておられる。どうでしょう。貴方の魔法工芸品を全て買い取らせていただけませんか?」


 僕は先ほどの微笑みで返した。


「借り物を売るわけにはいきません。王都から正規のルートで仕入れてください。この街に工房も作れば儲かりますよ」


「借り物でしたか。これは失礼を。しかしこの街で工房をリデンが独占。これは良い」


 少し残念そうに頭を下げるセルヒオ氏。


 そして次に声を上げたのはお嬢様だった。


「私、魔法と冒険の話聞きたい。二人とも今夜はぜひ家に泊まっていって」


 商談は破談したのだから何のメリットもない。


 本当にお嬢様の好奇心なのだろう。


 メリットがないにもかかわらずセルヒオ氏もこれに同意し、今夜の食事と寝室を用意してくれるとのことだった。


「ありがとうございます。実はお昼抜いちゃって……」


 恥ずかしそうに喜ぶトリル。


 僕はツァーリの肉を食べたけどそれが彼女の昼食を抜いた原因になってたんだね。


 ごめんね。


 その後、リデン一家、トリル、僕の五人で食卓を囲む。


 貴族の食事は思ったより普通の味がした。


 薬は盛られていない。


 お嬢様は反応の悪い僕よりトリルが気に入ったようで彼女の話に聞き入っていた。


 奥様がたしなめるお嬢様の名前はプリムラだった。


 ついにプリムラは「今夜はトリルの客室で寝る。もっと話が聞きたい」と言い出す様子だった。


 セルヒオ氏は少し考えこんだがこれを受諾していた。


 そして男の僕はトリル達とは離れた客室に案内された。


―――


 夜、昼に見えていた黒い月は夜空に紛れて隠れ、むしろ輝く星を遮る。


「起きろ、クーラン」


 デスティンの声が聞こえる。


 デスティンに言われるまでもなく、たっぷり時間がたった今でも僕は起きていた。


 デスティンと同じく僕の笑いの性質に気づいていたセルヒオ氏と僕の宿泊のメリットの無さから予感はあった。


 杖を片手につかんだままシーツを被り、狸寝入りで待つ。


「デスティンさん、誰が来た?」


女奉公人メイドと戦士っぽい奴。この2人だ」


 扉を開けられてからでは遅い。


 僕は魔法を予め準備して待ち伏せする。


 時間が経ち扉が静かに開けられた。


「戦士がお前に向かい、灯りを持った女奉公人が荷物に近寄ってきた」


 デスティンの言葉に反応して僕は今日残されたあと2回しか使えない第3階位の魔法をここで切った。


「……トキシックガス」


 ポイズンブロウをある程度の範囲に展開する魔法。


 本来はこの客室より広く広がるけど今回はあえて部屋の中だけに納まる範囲に絞った。


 即効性の攻撃でもあるこの魔法で1人が倒れ女性の亡霊の声が聞こえ始めた。


 僕が跳ね起きたところで戦士が長剣ロングソードで反撃してくる。


 左の肩口を斬られた。


 殺意を向けられ瀕死の余裕のない状況で僕は笑う。


 今が暗い夜でよかった。


 狙い易いほど明るければ、装備の貧弱な僕は一撃で殺されていてもおかしくなかった。


 ベッドを戦士から離れるように壁側に転がり出る僕。


 壁に追い詰められる形になった僕を笑って、ベッドの上を踏み越えて追おうとする戦士。


 しかし僕はベッドの下に転がり込み、剣では狙い辛い状況に持ち込む。


 こうした逃げが僕の魔法を先に完成させた。


「シャドウボルト」


 ベッド下から転がり出た僕は女奉公人の遺体の近くに落ちた灯りを頼りに戦士に以前スライムにも使った影の矢を撃つ。


 殺せなかった。しかし……


「なんだこれ?見えねぇ!」


 矢の形の影が突き刺さった傷から広がり戦士の体を覆い隠す。


 単細胞のスライムには目という器官がなかったけど動物ならこの付加価値が活きてくる。


 目が見えない。


 これはそもそも狙えない。


 出口を見つけて逃げられない。


 今彼はバッグを漁ってポーションを探しているけど判別がつかない。


 そのまま毒が回って戦士は倒れ亡霊が現れる。


「お前なんなんだよ!?こんなのありか!」


「私はただ御主人様に荷物を運ぶために来ただけなのに!」


 僕は灯りを拾い戦士の遺体を漁る。


「あった。冒険者身分証。リデン商会の依頼か」


 僕が亡霊たちに視線を送ると二人は驚いた。


「なんで死体じゃなくて私達を見てるんですか!?」


 そして亡霊達は全裸であることを確認し慌てて隠す。


 僕は女奉公人の遺体を重りとして扉にもたれかけさせる。


「私の死体を道具にしないでください!」


 僕は戦士の亡霊に向き直った。


「貴方は確か……ギルドの作業室を見ていましたね」


「悪いかよ。あの道具の方はお前の私物だから取っても良いだろ」


 女奉公人より重い戦士の遺体も引きずって扉の重りにする。


 扉は簡単には開けられないだろうね。


「依頼として成功しても街中での殺人は官憲が調べます。ここで尻尾切りがあるかもしれませんね」


 この答えに戦士は押し黙ってしまった。


 僕は黙って次の襲撃に備える。


 第3階位は残り1回、この戦術はあと一度だけ、おまけに斬られたから体力の方も後がない。


 ベッドに腰かけ扉を見つめていると亡霊達が騒ぎ出した。


「痛い……痛い、痛い!」


「お前また何かしたのか!?さっきの毒か?なんだよこれ!」


 僕はわめきだす亡霊二人に視線を送る。


「今は見えているでしょう。毒ではありません。現世の亡霊は『死に続ける苦しみ』を受けることになります。亡霊は冥界への門を見つけ現世から去っていきます」


「冥界で楽になれるんですね!?すぐ行きます!」


 冥界に旅立った死霊が苦しんでないかは僕にも分からないけど二人は旅立っていった。


 壁をすり抜けてデスティンが戻ってくる。


「トリルの方は誰も来ない。安心しろ」


「僕の荷物狙いだからね。自分のことで手いっぱいだよ」

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