第6話 屍毒の根本除去(後編)
やはり戦闘中の廃城。
僕達は一度右端に回り、デスティンが先行してツァーリに会って呼ばれるのを待った。
車のバケツは周りにはあまり興味を持たれなかった。
普通に出回ってる植物製キュアポーションは茶色だからバケツを水か何かと勘違いしたんだろうね。
そうしてデスティンが戻ってきて僕達は車を引いてツァーリに近づく。
今回はトリルも一緒に車を引いてるから周りには二人に見えている。
そしてツァーリは僕達に便乗して近づこうとする人を丁寧に殺していく。
「クーランと車を引いてる女は殺すな、だな」
近くに車を運び込み、僕が周りに呼び掛けた。
「皆さん、今からドラゴンゾンビの屍毒をあえて大量発生させます。近くにいる人は巻き込まれるので城壁門の外まで離れて待ってください」
僕の白髪を覚えている人は覚えているようで少しざわめきが起こった。
「朝に来た変な奴だぞ」
「屍毒をばらまく?馬鹿か?」
決めかねている様だった。
「ツァーリさん。城館門に膿をかけないために前進してください」
「門のためなら仕方がない。だが」
「はい。城館門に近づいたら僕達も殺す。ですね」
トリルへの説明も兼ねて微笑んで答えた。
「クーラン、お前なんで敵意、殺意を向けられて笑うんだ?変だろ」
デスティンは僕が笑っている状況は本来おかしいと感じている様だった。
トリルと車を少し離れた位置に残し僕とツァーリは並んで城壁側に進んだ。
また変なことが起こる、と確信した兵士、冒険者達は押されるように城壁門まで下がった。
「ではこれから貴方の魂を骨格に移し替えます」
「我は何かする必要があるか?」
「そうですね……とりあえず弓や魔法で僕達を殺しにかかってくる人が居たらいつも通りに息吹で殺しておいてください」
「うむ。淡々としているな、死霊術の者は。」
僕が殺されると毒の洗浄に失敗するし、トリルが殺されるのも嫌に思えた。
頭蓋骨に触れながらその魂の姿を思い描き集中、僕の頭の中に浮かんだ竜の姿を伝えてみた。
「緑色のウィンドドラゴンで雷の息吹。本来は飛べたんですね」
「うむ。当たっている。城前を離れなくなって飛ぶ機会もないが」
ツァーリは答えた後、城壁に梯子をかけ横に回りこもうとした人を今は腐敗した息吹で弾き飛ばす。
僕は今度は器になる骨格の全体像を思い描き、頭の中で魂の形が骨のパーツと連動して動く様に試す。
「時間かかるな、ぱっとやれねーの?」
「今回はツァーリさんが動くための応用が入ってるからね」
デスティンのチャチャ入れに答えながら、全身が動く様に調整した後、ポゼッションで魂を骨格に移した。
「魂を移してみました。一通り動いてみてください」
ツァーリは体を両側に一度ひねり、四肢と尾を動かし、翼を羽ばたかせ、最後に闇の息吹で懲りてない梯子からの挑戦者を撃ち落とした。
「息吹がダークドラゴンの様だが?」
「体の膿と腐敗ガスに依存しなくなりましたね。ポゼッションは成功です」
ツァーリの不満に答え、次の工程のために肉に触れる。
こっちは腐肉を原料にポイズンブロウを使えば一気に溶かしてしまえる。
一気に溶け落ち、床に汚れた膿がこぼれ、大きな毒液だまりになる。
「ほんとに毒をまきやがった」
「おい、竜が死んだぞ」
ツァーリは骨だけの姿に変わっていた。
城壁門の兵士たちがこれ幸いと進む。
しかし骨だけのツァーリが門に向き直りの闇の息吹で消し飛ばした。
「まだ動く!?殺せてないじゃないか!」
「何のためこんなことした!?」
城壁門まで下がってブーイングを飛ばす人たちに笑って答えた。
「毒の蔓延を防ぐためですよ」
僕はトリルの待つ車からバケツを二つ持って、彼女を誘った。
「あとはこぼれた毒を洗い流すだけ。手伝ってくれるかな?」
トリルもバケツを二つ持って付いて来てくれたが膿だまりの前で止まってしまった。
僕は気にせず膿を踏み歩き、ボーンドラゴンになったツァーリにバケツの一杯目を思いきりぶちまけた。
「む、我も洗うのか」
ツァーリがバケツのポーションが届きやすく体を伏せた。
僕は二杯目のバケツを浴びせ、トリルに空のバケツを渡し、中身の残ったバケツを受け取ると彼女は車へ新しいバケツを取りに行ってくれた。
大きな竜骨の全身に数杯バケツを浴びせ、残りで床の膿の上に満遍なく洗い流す。
「これで終わりです。後は関与しません」
「そうか。城館に近寄らないなら生かして返してやろう」
ツァーリと城館門前へ戻り、空バケツだけの荷車を引いて僕達は城壁門へと別れた。
「お前、城に興味はねーのか?」
聞いてくるデスティンにトリルにも聞こえるように答えた。
「城を欲しがってるのは国。冒険者は基本別物だよ。冒険者ギルドで報酬をもらおう」
備品の返却と作ったキュアポーションの用途説明のため、僕たちはギルド支部に戻った。
―――
ギルド受付で顛末を話したが、正式な報酬額を出すのは明日、とのことだった。
本当に毒の蔓延が止まったのかの確認、キュアポーション発注依頼の調整、いろいろあるからね。
それならもう寮で休んでしまおうかと考えていると誰かに声をかけられた。
「そこの白い髪と金の瞳のお方。朝に廃城に来られて先ほど竜を骨に変えた方ですな?」
声の主に振り向くとどこかの奉公人らしき男性がいた。
「私はリデン商会に勤めさせて頂いている者です。御主人様が是非に貴方と直接お話しさせて頂きたい、と仰られておられまして」
リデン商会と言われても僕には接点なんてないけど、明日までやることは特にない。
「僕は別に構いませんが」
トリルとデスティンにどうしたいか聞いてみた。
「付いて来て良いですか?魔法回数がもう無くて何も出来なさそうです」
「ツァーリは戦ってるだろうし、ゆっくり話せないだろーな」
二人が答え僕に同行したいと商人の奉公人に願い出る。
デスティンは見えないのでトリルに向き直り、ほんの少し考えた奉公人だが、「ええ。ぜひご一緒に」と答えた。
断ったら僕も付いて来ないと考えたんだろうか?
―――
リデン氏の館に通された僕たちはそのまま応接室に招待された。
奉公人が去って暫くの時間が過ぎ、夕暮れ時に館の主一家が揃って応接室に入ってくる。
「お待たせしましたな。私がリデン商会の当主、セルヒオ=リデンです」
リデンは姓、この人は貴族階級らしい。
大陸の平民には姓がない。
奴隷は焼き印を押され、焼き印の品番か奴隷になる前の名のどちらかで呼ばれる。
四十半ばを超えていそうなセルヒオ氏、成人と認められる十五歳位の娘、その娘を成人したてで産んでそうな若めの奥方、この三人がリデン一家らしい。
貴族の館に招かれたと今知ったトリルが少しソワソワする。
そんなトリルにセルヒオ氏が微笑んだ。
「そんなに格式のある家ではありませんよ。商会を大きくした私が十八年前に騎士爵を買っただけですから」
「あー、成金さんね」
デスティンの声は僕にしか聞こえないので空気は壊れない。
「それで名ばかり騎士の私も従者に竜の様子を戦わない位置で見張らせていたのですが、今日、白い髪の貴方が現れたと思えば不思議なことを起こし、あげくに竜を動く骨に変えてしまった。貴方のお名前は?」
「僕ですか?冒険者のクーランと申します」
正直、僕は貴族には苦手意識がある。
僕は陰気とよく言われる愛想笑いを返して答えた。




