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亡霊と大陸渡り  作者: 石寺 和尚(カズナオ)
カレギア教王国1
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第5話 屍毒の根本除去(前編)

 ドラゴンゾンビ、ツァーリ。


 竜に名を呼ばれたデスティンは思い出そうとしていた。


「ツァーリ……?思い出せねーや。ホントに知り合いか?」


 ツァーリとデスティン、死者達の声は人には聞こえていない。


 僕一人が話している様に周りには見えている。


「デスティンさんは二百年この街で亡霊としてとどまっていたそうです。そしてツァーリさんが最近殺されて初めてデスティンさんの存在に気付く様になりました」


「殺されておらん。二百年かけて餓死したのだ。我は強い」


 ツァーリは廃城に迫る人は殺すが食べなかったらしい。


「ツァーリさん。今の貴方の魂は健全ですが体はドラゴンゾンビになって屍毒が蔓延しています」


「それは向かってくる奴らが悪い。いい加減諦めろ」


 離れて様子見している兵士達を濁った眼で睨みながらツァーリは言い放った。


「あなたはここから離れないでしょう。しかし外に運ばれた遺体によっていつか普通に暮らしている人にも被害が出始めるでしょう」


「そいつぁー、やべー」


 デスティンがあまり面白くなさそうに死体の山を見渡す。


「で、どーすれば良いんだ?」


「ツァーリさんの体から毒を取り込みキュアポーションを作ります」


 デスティンの問いに答える。


「それだけで本当になんとかなるのかよ?」


 続けるデスティンに僕は返答を続ける。


「まず僕の作るキュアポーションを廃城前を洗浄できる量を作ります。続いて僕の毒魔法でツァーリさんの腐肉を全て溶かし落とします」


「待て。それは我はこの城を守れるのか?出来ぬのなら却下する」


 ツァーリの声に僕に対する殺意がこもった。


 僕は微笑んで続ける。


「僕の使える第3階位魔法にポゼッションという物があります。これはまだこの世界に居る亡霊を器に移して冥界に旅立たなくするためのものです。僧侶の第6階位、リヴァイヴァルが冥界に旅立った後の死霊を呼び戻せないため、あらかじめの時間稼ぎとして行う物です」


 遠くでトリルがこちらを見つめてきた。


 僧侶の奇跡にかかわる話題だったからね。


 因みにバートとボルスに使わなかった理由は蘇生奇跡の当てもなしに使っても『死に続ける苦しみ』を与えるだけになってしまいそうだったから。


 自力でゾンビになって時間感覚がドラゴンのツァーリは平然としてそう。


 二百年亡霊してるデスティンはこれに耐えてるのが不思議だ。


 僕はポゼッションの今回の使い道を説明する。


「話がそれかけましたが、この魔法でツァーリさんの亡霊を脳の肉から骨に移します。肉がなくなるのは遅かれ早かれ、サポート付きでボーンドラゴンになってしまう方がいいと思います」


「む、残れるのか?」


 考え込むツァーリに僕は一連の流れをおさらいする。


「貴方の肉の少しからキュアポーションを大量に作る。ポーションをここに運んで貴方の亡霊を骨に移す。毒魔法で腐肉を溶かしきる。ポーションで溶けた腐肉を清掃する、以上です」


「よし、街のためできるならやれ」


「デスティンがそれを推すなら、許可するが」


 デスティンがさほど考えてない様に、ツァーリがそれに倣って渋々という様に賛同してくれた。


 デスティンは忘れてる様だけどツァーリはある程度は彼を信用しているようだった。


「ではまずツァーリさんの額の肉を骨が見える程度切らせていただきます。骨を見せるのはポゼッションの器に指定するためですね」


 僕はほとんど作業専門に使っている小さなナイフで肉を切り分ける。


 額の肉だけでも結構な量だった。


「それではギルド支部でポーションを作ってきます。ちょっと時間はかかりますが」


 僕とデスティンは城外へ向かって歩き出し、トリルに話しかけた。


「トリルさん。もし良ければ、サポートについてくれるかな?二人で仕事だよ」


 彼女は頷いてついてきてくれた。


 僕たちが城壁門を出たすぐあと、廃城には戦闘の喧騒が起こっていた。


―――


 ギルド支部に着いた僕たちは受付に注文していた。


「今からキュアポーションを作ります。外に荷車を、そして綺麗なバケツを集められるだけ作業室に運んでください」


 注文を終え作業室に入った僕たちは効能試験薬、蒸留水、蒸留酒を机に集め、さらに僕は御師様から預かった道具をバッグから出す。


「竜の肉からどうやって薬を作るんですか?」


 トリルと部屋の外の野次馬が僕を見ている。


「血液製のポーションの作り方はこうだよ」


 僕は腐って屍毒の湧いてるツァーリの肉を当たり前に食べて見せた。


「うお!?おいこら、吐きそうになったじゃねぇか!」


 野次馬が罵声を浴びせてくるのに微笑みを返す。


 トリルが青ざめた顔で聞いてきた。


「……あの、クーランさん?私も食べなきゃいけないんですか?」


「僕一人だよ。普段から慣らしてない人は死んじゃうからね」


 腐った肉を全て食べ終えた僕は彼女に答え、体に毒が回るのを待つ。


 ツァーリの屍毒の効果が現れ始めた僕はここで毒の強さが今まで経験した中でも指折りの強さだったことを自分の体で理解した。


 自然と微笑みが出る。


 一本目の注射器で多めに血を抜いて定量を乳鉢に移し、薬匙で一回かき回し渦が出来上がるのを確認する。


 毒は強いけどそれも想定内。


 ここでトリルのサポートが要る。


「トリルさん。ヒールを1回僕に使って。アンチドートで毒を消しては駄目だよ」


「駄目なんですか?」


「自分の体で効果を確かめなければいけないからね。魔法回数が切れた時のためにヒールポーションをギルド職員に用意してもらって」


 トリルにヒールを一度使ってもらった僕は渦を見守りながら頼んだ。


 ギルド職員が一人、作業室監視のため外で待っていたけど野次馬の方はかなり少なくなっていた。


 この作業、地味だからね。


 渦から出来た透明の上澄みを二本目の注射器で吸い取り、添付薬を足して試薬数種類に垂らして効果を確認して成功品と判断したらバケツに注ぎ込んだ。


 ここで初めてトリルと外から見ていた数少ない野次馬、職員が良い意味で驚く。


 注射器一本からバケツ一杯のポーションが出来上がったからね。


 乳鉢の中身を流しに捨て、乳鉢と薬匙、二本目の注射器を洗浄用の酒と水で洗ってまた一本目の血を乳鉢に注ぎ、かき回してからトリルにヒールを頼む。


「おい、てめぇ、待て」


 そんな中、不意にデスティンが鋭く言葉を発した。


 しかし僕にしか聞こえない声は誰かを止められない。


 僕がデスティンの視線を追った先でポーションのバケツが小さな音を立てた。


「勝手にバケツを持ち出さないでください」


 僕の発言で部屋を見ていた職員が遅れて反応する。


「今、『冒険者ギルドから収集依頼中のキュアポーション』を盗もうとしましたね?」


 監視のギルド職員の一言で他の職員達が集まってくる。


「未遂だ!ノーカウントだ!ノーカウント!」


 いつの間にか部屋の中に居た斥候らしき冒険者が弁明する。


 しかし職員達は『ギルドに対する窃盗』を許さず盗賊(シーフ)になった者を連行していった。


 トリルのヒールを回数全てとヒールポーション6本で最後のバケツを満たし、そこから定量を瓶に移して飲みようやく自分の毒が解けるのを確認する。


 僕は注射器二本、乳鉢、薬匙を洗い終えてバッグに詰め、トリルと二人でバケツ全てを荷車に乗せ、廃城に向かって車を引いた。


「なんだあいつ?」


 最後まで野次馬してた内の一人がこぼす。


 デスティンはクーランの一連を見とどけて「どっかで見たことあるな?」と考えつつクーラン達の車と並んで歩いた。


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