第4話 亡霊一人とドラゴンゾンビ
寮で一晩眠り、起きたらすぐそばに赤毛の亡霊がいた。
ちゃんとした場所で寝れたので魔法回数は全快。
「おー、おはよう。僧侶は朝が早いな。もー飯食って食堂でお前を待ってるみたいだぜ」
ハーバンズパーティー女性陣は勝手に部屋に上がり込むタイプだったがトリルは違うらしい。
食堂に降りてトリルを探そうと思ったが階段を下りてきた僕を逆に見つけてくれたようでこちらに手を振る。
朝の太陽の白い光で照らされた彼女が初めて鮮やかな青い髪であることを知った。
瑠璃色の瞳、化粧を全くしていないがきれいな肌と顔立ち、法衣は勝手な改造がされてない。
僕は彼女の向かいの席に座り、赤毛の亡霊は「可愛いよな」と僕に笑った。
そろそろ新しく買い換えないといけないピクルスとレンズ豆を食べ始めた。
「なんでもキュアポーションだけでなく僧侶も募集するほど患者が多いらしいよ」
「私、ヒールが7回、アンチドートが4回使えるようになりました。第3階位はまだ覚えてないけど1回だけ使えるようになってましたよ」
おそらく王都からコーリネスまでの旅程で経験を積み成長したらしい。
でも僕より経験不足かな。
ハーバンズパーティーは派手な恰好で襲撃を受けやすかったからね。
魅力は人だけでなく精霊、『魔』、そして神をも引き付けるから。
昨夜、赤毛の亡霊から聞いた話をトリルに伝えているとその当人が話に割り込んできた。
「屍毒の元に要らんちょっかい出してるから患者が増え続けるんだ」
「原因は解っているんですか?」
僕は赤毛の亡霊に向き直るがトリルには僕に何が見えているか分らず少し困って聞いてきた。
「どこに話してるんですか?」
これは話しておいた方が楽になる、と思った僕は二人に自己紹介する。
「僕は霊媒士のクーラン。僧侶が天界の造物主との契約者なら、僕は冥界の死霊との契約者です」
そして赤毛の亡霊に向き直り問いかけた。
「亡霊は本来一日とたたず冥界へ旅立つのですが……あなたは何故この世界に残っているんですか?」
「分からねー。何も覚えてねーんだよ」
そんなに曖昧なのに悪霊にもならずにこの世界に残っているのは希少なケースだ。
少し考えたが、元の話題に戻ることにした。
「屍毒の原因を教えてください」
「この街に廃城が建ってるんだがな。そこに入ろうとした正規兵とたまに冒険者が屍毒もらって返り討ちにされてる」
僕は彼の話をトリルに伝えながら考える。
「正規兵が動員されてるんですか」
「廃城に何があるんですか?」
僕のすぐ後にトリルが聞いてきた。
「あー、廃城の扉前に竜が陣取っててな。戦いはずーっと続いてるんだ」
亡霊の話を伝えるとトリルは信じられないという様に呟いた。
「竜に屍毒……えぇ?ワイバーン?ドラゴンゾンビ?」
「いやー、最近生きてるのを見たがついに殺されちまったか」
最近まで生きていた竜がゾンビ化してまだ戦ってる。
執念か支配、どちらか分からない。
「霊媒士に支配されてない状態なら、僕は話せるかもしれません」
その死霊術の使い手の数は御師様以外に会ったことがないほどこの国にはいない。
そしてアンデッドを支配できる死霊術も第6階位と結構上位。
おそらくは誰にも支配されていないと僕は考えた。
「おー、面白そうだなそれ。よし行こう」
赤毛の亡霊はノリノリで誘う。
話が通じなかったら僕は死ぬと思うけど。
僕は微笑んでトリルに「見るだけ見てみよう」と提案してみた。
―――
廃城に着くと城壁門の内、城館門の前を守るように立ちはだかる腐った肉の竜1体と攻め入ろうとする人の群れが戦っていた。
「はっはー。やってるやってる」
他人事気分で笑う赤毛の亡霊。
僕たちは辺りを見回して意見を交換する。
「廃城……綺麗に形を保ってますね。どちらも壊したくないみたい」
「誰も裏口や窓から入らないんですか?」
トリルの感想と僕の問いに赤毛の亡霊は昔を思い出すように答えた。
「入れなかった。体がない俺でも壁をすり抜けられなかったな」
「城全体を魔術のマジックロック。それを維持してるのが城館正門なんだろうね」
彼の答えと僕の意見を交えて戦っている人に話せる位置まで近寄ってみた。
「皆さん何故城に入ろうとしているんですか?」
トリルが下がっている兵士の一人に尋ねてみた。
茶色のキュアポーションをがぶがぶ飲んだ後、兵士が答える。
「建国以来二百年、教王家がこの城の中の物全てを求めておられる」
建国から戦っていたのか。
竜も国も随分執着しているね。
「ただ、この戦いの中を無事に僕が竜の元へ行くにはどうすればいいだろう?」
腐った息吹で辺り一面を薙ぎ払い続ける竜。
腕に覚えのない冒険者の中には毒にかかる前に即死する者もいる。
僕も体力に自信がない。
竜の息吹で死んだ亡霊たちがもう息吹の影響を受けていないことに気づいた赤毛の亡霊が僕達から離れて竜に近づいた。
「おー。こいつぁーひでー」
他の亡霊は自分の死に狼狽えたる中、ただ一人悠然と笑う赤毛の亡霊を濁った眼で見た竜が初めて言葉を話した。
「お前は……デスティン……何!?デスティンだと!?」
僕にも竜の声は届いていた。
人と意思疎通がこれほど可能な竜はワイバーンではなくドラゴン。
猿と人ほど違うらしい。
そして赤毛の亡霊をデスティンと呼んでいた。
知り合いなのかな?
「デスティン?それ、俺の名前か?覚えてねーや」
赤毛のデスティン?は少し考えこみ、ドラゴンは息吹でまた人を吹き飛ばす。
「デスティン、お前二百年何をしていた?」
「二百年だー?いや俺、最近見に来たぞ?」
ドラゴンとデスティンの会話は続く。
両方の話が本当なら……。
「デスティンさんは二百年前亡霊になり、生きてるドラゴンは気づけなかった。しかしドラゴンが死んでなお、この世に留まったことでデスティンさんの存在に気付けるようになったんですよ」
僕が仮説を話した。
ドラゴンは僕が分からずやはり息吹で近づく人たちを蹴散らし、デスティンが僕の方を向いた。
「そうだった。おい、おもしれー奴見つけてきたんだ。連れてきてやるから待ってろ」
デスティンはこちらに戻ってきた。
それを見送るドラゴンはしばらく待って近づく人たちに直接前足を叩きつける。
正規兵装備が一撃で潰され、また亡霊が増える。
「よし、クーラン。あいつと話してみろ」
「トリルさんはここで待って皆に離れるように伝えてね。怒らせたら死ぬからね」
デスティンに促され、トリルに微笑んで僕はドラゴンの元に歩く。
デスティンと共に歩いてきた僕を濁った眼で見て、ドラゴンは僕のいる辺り以外を尻尾で薙ぎ払う。
僕はドラゴンの足元に辿り着き声をかけた。
「初めまして。僕は霊媒士のクーランです」
「話すのは良いが正門に近寄ったら殺すぞ」
許可をもらった僕はデスティンと並んで近くでドラゴンを見上げた。
僕とドラゴンの様子を見た兵士達がこれは好機と考えたのか「突撃!」と一気に迫ってきたが、ドラゴンが息吹で容赦なく殺戮していく。
「なぜだ!?」
「今は攻撃をやめてください。彼に任せてみてください」
兵士達をトリルが引き止め始めた。
周りには異様に見えるだろうね。
兵士達は静かに様子をうかがい始めた。
僕はドラゴンに話しかける。
「あなたは自分の意志でここに留まってますね?死霊術に操られてませんね?名前は言えますか?」
「死霊術というのも二百年ぶりだな。我が名はツァーリ。我を操る者などおらん」




