第10話 エンカウント。街道だからこその敵
一応扉に杖を立てかけておいたが倒れていない。
荷物は盗まれていない。
魔法回数も全快、良く寝れたらしい。
食堂ではトリルが空いた席に品目はそこそこだが量の少ない質素な食事を並べていた。
食堂に降りた僕は街でしか食べられない柔らかいパン一個だけを作業的に食べ水を一杯飲む。
これで朝食はおしまい。
そんな僕を「もうちょっと楽しんで食べましょうよ」と言ったトリルだが、仕事は朝からなのだからと自分も手早く食事を終えることにしたらしい。
彼女の食事が終わるのを待っている間にデスティンが来た。
「ツァーリに自分探しの旅に出ろって言われてなー。俺もついていく」
「デスティンさんは二百年前の人だけど、手掛かりは?」
「それが、お前のポーション作りなんだ。だからついていく」
血液からのポーション作りか、魔法工芸品でのポーション作りかどちらなんだろう?
デスティンとのやり取りを終えたあたりでトリルの「御馳走様でした」が聞こえてきた。
トリルの食器洗いを手伝い二人で集合場所、ギルド支部前に向かう。
最初は僕達二人、そして残りの冒険者の戦士二人と斥候二人、最後に御者と車内にヤコブとプリムラ、積み荷を積んだ馬車が到着する。
―――
出発して初日の昼、プリムラが馬車の遅さに追いつけると思って外に出て歩いてみたが「足、痛い」と馬車に戻ってしまった。
お嬢様の今の靴では長く歩けないよ。
二日目の夜に夜襲。
斥候の一人が寝ている皆を大声で起こす。
「灯りを増やせ!依頼人を囲め!来たぞ!」
警告で全員が起きれたのは幸いなこと。
僕は暗闇の夜、焚火から松明に火を移し襲撃者の姿を探す。
「いた!嫌ね、飛んでるやつじゃない」
僕は女性戦士の声で空を探る。
ヒュージバットが4体、弱いけど暗さを気にせず空を飛べる。
この開けた場所で飛べることが一番厄介だ。
弓がなければ戦士も斥候も向こうが近寄って攻撃する瞬間にこちらの攻撃を合わせなければいけない。
「撃ち落とせ!魔術士!」
その言葉に僕は右手に杖、左手に松明を持って他の護衛達から離れて見せる。
1人離れた僕を群れからはぐれた獲物と思って近づいてくる動物4体。
4体全てが1回の魔法に収まる範囲に居ることを確認した僕は準備していた第3階位魔法を切る。
「イムーバブル」
蝙蝠達は4体全て墜落した。
「1回で全滅。やるじゃない」
「殺せてないよ。麻痺して落ちただけ。今の間に殺さないとまた飛ばれるよ」
女性戦士に答えると見張りの斥候一人を残して全員でとどめを刺すことになった。
因みにトリルは脱穀用のウッドフレイルを使っていた。
農具として使われる物を無理に武器にしているあたりあまりお金はないらしい。
普通の法衣だし旅歩きの靴しか装備は買ってないのかもしれない。
まぁ、僕も装備が貧弱だけど。
三日目昼、街道のど真ん中にうごめく茂みが3つ。
タングルヴァイン、ツタで絞殺した生物に根を張り養分を吸う植物。
街道で堂々と動いてる知性皆無、最弱クラスモンスター。
戦士、斥候の四人で軽く決着がついた。
僕は残った根を松明で焼いて生えなくする。
「火が使えない魔術士って何?」と変な目で見られた。
―――
最終日六日目朝、王都ファンドルまで程ない所へ差し掛かった時、斥候の一人が不意に前へ出た。
夜襲で真っ先に反応したし今のパーティーで一番のベテラン。
「人が4人。ぱっと見だがな」
男性戦士と僕が意味を理解して前へ出て、もう一人の斥候は急いで馬車の後ろに回る。
意味を理解できていないのは女性陣二人。
「早く後ろを固めろ!」
ベテラン斥候に急かされたトリルと女性戦士は馬車の後ろについた。
「こっちは3人!斥候がわざわざ姿見せてやがる!」
「間違いねーよ。前、後ろ、側面、隠れてねー」
後ろの斥候とデスティンに報告された。
計7人の武装集団は少し馬車から離れた位置で御者に声を投げかける。
「護衛、代わってやろうか。こっちは7人だ。6人より安心だろう」
冒険者ギルドの規定最大人数は六人。
その規定を守る気がないという武装集団は分かりやすく威圧してくる。
武装集団におろおろしている御者だったが馬車の中から声がした。
「ダメ、クーランに頼んだ仕事だもん」
プリムラの何も考えてなさそうな声で事情付きの依頼だった事を思い出したヤコブが「間に合ってます」と武装集団に断りを申し出る。
「それじゃ、お前ら全員身ぐるみ剥いでやる!」
後ろ側の味方にも聞こえるように交渉決裂を宣言した武装集団は武器を抜き馬車に殺到しようとした。
僕は出し惜しみなしでイムーバブルを用意。
反応するように相手の魔術士が1人何かの魔法を用意。
「シール」
相手魔術士の第1階位、1人を精霊、神、死霊との交信を出来なくして魔法を封印する魔法が先に僕を襲う。
脳から体の外に伸びている意思の線が魔術士に無理やり抑えられるような感覚。
僕は死霊との交信が切られないように線を強く意識する。
「クッソ。防がれた。殺せ!」
相手魔術士が失敗を申告し周りに指示を飛ばす。
先の魔法抵抗で一手遅れた僕が魔法を打ち返す。
魔法の範囲内に居るのは離れていた魔術師を除いて敵味方含めて前衛5人。
その中から味方二人を除外して魔法を完成させる。
「イムーバブル」
味方には問題ない、そして魔法を使う側は効いたかどうかも分かる。
「前の3人は麻痺させた。後ろの魔術士は届く場所じゃなかった」
「よし。俺が魔術士を仕留めてやる」
僕の申告に斥候が動けない敵をすり抜け一気に魔術士に詰め寄り、斬りかかる。
男性戦士は近くの麻痺した戦士を斬る。
「プロテクション」
後ろ側からトリルの声が聞こえてくる。
範囲内の味方を狙って物理と魔法攻撃の被害を抑える僧侶の奇跡だけど、範囲は後ろ三人と馬車までで僕には届いてなかった。
「ヒール」
誰だか分らない声で奇跡を使う声が聞こえた。
「後ろ側に僧侶が混じってる。僕は後ろに回るよ」
全員に申告して僕は後ろへ向かう。
後ろは敵味方誰も倒れていなかった。
トリルの奇跡で味方は軽傷、敵は回復で耐えられたらしい。
後ろの敵構成は戦士と僧侶……斥候が見当たらない。
「斥候は何処?」
「ここだぞ!」
気配を断ち隠れて移動しようとする敵斥候をデスティンが看破した瞬間を狙って敵3人を巻き込む。
「イムーバブル」
魔法職は抵抗力が高いが何とか僧侶含めて麻痺に成功。
相手の腕前はそれほど高くないけど、予想外の問題が出た。
「クーランさん。『人』を殺すんですか?」
後ろについた女性陣は人と戦うことが初めてで殺す必要がないと考えていたらしい。
「理由のあるなしに関わらず『人の敵』になったら殺すよ。次ここを通る『人』のためにね」
トリルに答えると女性陣は仕方なしに『人』を攻撃する。
斥候をウッドフレイルで殴ったトリルがその感触でこわばる。
「僧侶の第2階位の奇跡にオーラシュートがある。これは人にも効く光属性の攻撃魔法だよ。造物主は人を特別視しないよ。そして善悪関係なしに全ての人は冥界へ行く」
トリルに人を殺す方法を教えながらシャドウボルトで一番離れた僧侶を殺して見せた。
涙目のトリルがオーラシュートで斥候を、女性戦士が戦士を殺す。
「こっちは全員死んだよ。前を手伝おう」
僕は敵3人から亡霊が抜けるのを確認して指示し、敵より女性陣を見張っていた味方の斥候は頷いて前の敵に向かっていく。
結局相手の麻痺が解けるより前に盗賊達は全滅出来た。
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




