第37話 勇者候補生の再出発
僕達が集落に滞在すること十九日、遂に3000クロスを確保することが出来た。
正確には換金前のインゴットだけどね。
陰で支えてくれたのはディルの広報だった。
リッキーさんの私塾も僕達の作品もカレギアのドワーフとの共栄圏全域に広めてくれた。
「カレギアでこれほど魔法工芸品が回るなんてな。しかも平民相手で儲かってるしな」
「物作りが好きなドワーフとの共栄圏が良かったんだよ」
農夫、鉱夫用の道具、溶鋼所には風通しのアミュレットで換気のサポート、加熱の干物作り道具、女将の店など大きめの建物には白のランプ、ドワーフが一番喜んだのは酒の増幅樽だったね。
黒以外の五色シャードの使い道は全部抑えてある。
シャードだけでなく鉄に硬さで劣る銅にも注目が増えたと鍛冶屋が言っていた。
プリムラの言い始めたクーラン工房にはマドレーヌだけでなく数名の職人が弟子入り志願してくれていた。
ベースリングの方が魔力とシャードの扱いに優れ、ドワーフは力と器用さで型などの周辺器具を作る方が上手い。
マドレーヌはベースリングの一般的な魔力にドワーフも驚く器用さを持っている。
黒にしか染められない僕の代わりにトリルとプリムラがシャード染めを教えていた。
そうして職人達は皆、魔法工芸品を一人で一から十まで作れるレベルに習得が済んでいる。
僕が旅立っても教える側に立ってくれるだろうね。
職人が増えても受け入れられる。
アランパーティーとの交流も深まっている。
デスティンもコーチに加えたトレーニングも並行していた。
僕は筋力と体力の伸びはよろしくないらしい。
ただ短剣戦闘術の技量は伸びていると言ってくれた。
アランパーティーはドワーフの自警戦士に混ざることで今収入を得ている。
彼らが冒険に出ない理由は次のマネージャーが来る前にリッキーさんの授業を出来るだけ受けるためらしい。
そんな彼らに返礼品として譲ったのは七人分の増幅水筒と温度をほぼ一定に出来る夏冬毛布、白のランプ、そしてヤオに見せてもらった斥候キーピックを参考にドワーフでも高名な鍛冶と共作した鍵穴の中を光らせて見れる極細拡大内視鏡。
「王都では魔法工芸品は貴族が販路を制限しているんだよ。もし次のマネージャーが所持金が少ないと聞いたら、この特注品を買ったと言ってごまかしてね」
「こんなに便利な物が売られないのか」
「貴族の物ならそりゃ高い買い物になるだろ。前のアホ役人のカネづかいの理由としては納得だな」
「内視鏡が革新的だ。すげぇぞブラザー」
斥候三人が内視鏡を試しながら頷きあう。
―――
その翌日、アランパーティーと別れのきっかけ、新しいマネージャーが来てしまった。
やはり奴隷監視のため横柄な態度をとる人物だった。
「では財布は俺が預かる。収支確認だ。早く出せ。」
「収入は役所行って台帳読めよ。それで分かるだろ」
ブラスが言い返しヴァイスが財布の貨幣を見せる。
「手持ちは合計8970クロスだ。間違いないな」
貨幣を見せるだけにしてさっさと財布にしまう。
「これが前のマネージャーが買った魔法工芸品。引継ぎで使えばいい」
アランが渡したマネージャー用の水筒と毛布。
夏の九十五日の暑さに涼しい毛布に驚くマネージャー。
「これを買ったのか?というよりなんでお前らが貨幣が数えられる?」
不満そうに役所に行く新マネージャーを見送り拳を上げるアラン達。
ここまでマネージャーを護送してきた冒険者から食事処を尋ねられると。
「えーと、マス、ポテト、チーズ、焼き」
と女将の店の前の一品メニューを読んで見せるヴァイス。
集落はリッキーさんにより識字率が上がっていた。
女将の店にアラン達と冒険者が入って来るのを食事中の僕達クーラン工房皆で迎えた。
「マネージャーが来ちまった」
「ここを離れなくてはいけなくなったね。勇者候補生の招集になる」
「私はクーランさんと外国に行きますよ。招集に応じたくありません。勇者辞めたいです」
「え?皆ここの工房に残るんじゃなかったの?」
トリルの発言にマドレーヌ達工房の職人が驚く。
僕達は人探しのため国外に向かうという目的を皆に話した。
「ここの工房はマドレーヌさんに譲ろうと考えていたんだよ」
「え、そんなこと言われても私は……そう、トリルとプリムラが居ないと男が怖いんだよ。二人と離れたくない」
「私達についてくの?だったら他の人に、あ、思いついちゃった」
プリムラが何かを閃いたらしい。
「今の工房の皆にそれぞれ分かれて工房を持ってもらうの」
「うん。目的は?」
「山からこの工房一つだけにシャードを集めるの大変って言ってた」
「なるほど。山沿いに最寄りの工房を建てて材料と作品の行き来を早くするんだなこれは」
僕を使って食事をしていたディルがへらへらと笑う。
「そうだったんだ。気付いてあげられなかったよ。良いアイデアだね」
「ふふーん」
自慢げなプリムラ。
「では僕達はトリルさんをマネージャーに見られないように皆に別れの挨拶をしよう」
「マネージャーをコントロールすれば良いんだな。俺達も先生に挨拶して明日王都へ出発か」
ヤオが頷く。
「まだ文字は覚えきれてないけど、仕方ないな。俺達も先生を秘密にして動くぞ」
アランが皆を纏める。
「クーラン達の目的地は何処だい?」
「エスクーン。ガレカ大山脈を迂回して山沿いのドワーフの居住区ですね」
「へぇ。アタシの大陸地図を広げてみ」
ディルとやり取りして彼の大陸地図を広げる。
御師様のマップブックとは少し国境線が違う。
御師様がかつて指した点を指すと北と南、どちら周りが良いか分からなかった。
「カレギアは南北どちらとも小競り合いしててな、孤立した国なんだこれが」
僕の母もイサラから攫われた人間だ。
「どっち行こうか?」
プリムラの問いにディルが答えた。
「イサラの方かな?レセルブルクよりは貧しいが抱えてる政治問題がマシで外国人には緩い」
「政治問題……入出国が楽ならそっちで行きましょう」
トリルが心配そうに答える。
巻き込まれないようにイサラに長居せずエスクーンを目指すことに決めた。
―――
皆は工房の分割の話で食後に工房に行きました。
私はアランさんのマネージャーさんから隠れるために先にお義父さんの私塾に帰りました。
今は授業中なので事情は話さず生徒の皆さんのお手伝いです。
生徒の皆さんの授業が終わり帰る準備をする中、入れ違いにブラスさんが入って来ました。
「先生。お邪魔します。慌ただしいけど明日旅立つことになって」
「いらっしゃいブラスさん。お仕事ですね」
「そうですね。新しいマネージャーが来ちまった。王都に戻らなきゃいけねぇ」
ここで私も話すことにします。
「教王宮からの招集なんです。でも私はもう勇者を辞めたくて。クーランさん達と外国に出ようと思ってます」
「白兄ちゃんとプリムラ姉ちゃん?外国に行くんだね」
弟達が集まってきました。
「なるほど。一緒に旅立つのは構いませんが」
少しお義父さんは考えて心配そうに尋ねます。
「危険な冒険者を外国で辞められませんか?」
確かに私が冒険者になった理由は勇者候補生の強制です。
外国なら引退しても咎められない。
「そうですね。クーランさんの魔法職工者のお手伝いで付いていこうかな?」
「白兄ちゃんのお嫁に行っちゃうの?」
「……えっ!?」
「おっと。じゃあ先生、機会があればまた会いに来ますんで」
ブラスさんが去っていきました。
私がお嫁さん?
でもクーランさんは『男』とは言えない人で……?
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




