第36話 クーランの工房(1)
徴税のもろもろが済んだ後リッキーさんのもとに帰る僕達。
「そんなことがありましたか……アランさん達、文字と計算をここで学んでみませんか?六名で来てくださった一日、計1クロスで」
「計1クロス?」
トリルがアランに説明する。
「アランさん達は特別に六人でも一人でも来てくれた日に1クロス。とても安いですよ」
「六人で来た方が得なのか?」
「数字が出来ればカネが分かるんだな?」
「自分で買い物が出来る」
エミールとブラスが話し合う。
「文字が分かればメニューで食べたい物を選べますね」
さらに文字について僕が付け加える。
「すごく便利じゃないか」
「来れなかった日はお金を取りませんよ。覚えるには日数は必要になりますよ」
ヴァイスの驚きにリッキーさんの一言が加えられる。
僕は斥候達に小声を試す。
「次の役人は絶対に送られてくる。奴隷監視だからね。でもその役人からお金を渡さない手段になるよ」
「決まりだろ」
「1クロスより安い所はないよな」
ヤオとマーティンが頷いて財布を調べる。
「どれが1クロスだ?」
リッキーさんが王都で得ていたなけなしのお金を取り出し最初の授業が始まる。
「これが1クロス貨幣。次が10クロス貨幣。皆さんの両手の指の数が十ですね」
トリルがアシストするように彼らの前で指を伸ばして教える。
「零、何もなしですね。一、次が二……」
―――
僕も追納に備えてお金を稼がなくてはいけない。
しかし、最寄り街だったところは現在機能停止している。
冒険者とは別の方法でお金を稼がなくてはいけない。
考えながら歩いていると鎧を着てないワジ達ドワーフ数名が車を引いて来た。
「ようやくインゴットを運び終えたぞ。集落の納税が終わった」
何とはなしに僕とプリムラは彼らに付いていく。
坑道の前でワジが僕達を止めた。
「山はドワーフの仕事場だ」
仕方なしに外の手工業を見て回る。
石臼のある場所は把握した。
これならシャードの粉砕は出来る。
何とか使われてない石臼を専属で借りられるように頼み込んで次はショベルを一本借りる。
「プリムラ。あれは何してるの?」
「あ、マドレーヌ。良く分からないけどクーランは何かを絶対するよ」
興味を持ってプリムラに話しかけたのは青林檎の髪、エメラルドの瞳の女性だ。
胸がドワーフ並みに大きいが背は僕と比較して少し低いくらい、ベースリングだった。
彫刻刀でショベルの柄に文字と魔方陣を掘り込む。
「器用だけど何これ?」
食い入るように見続ける彼女も何かの職人だろうか?
柄に彫り込みが終わり、石臼で黄のシャードを挽いて粉末をシャード鏝に入れる。
「ガラスもどきよね?今の」
その言葉で僕が初めてマドレーヌに質問した。
「ガラスもどき?ここにもシャードがあるのかな?」
「シャード?山からたまに出てくるよ。温めても赤くなるだけで形が変わらないガラスもどき。使えないからゴミ扱いさ」
「間違いない。それは火では溶けないよ。魔力で形を変えるからね」
言いながら僕は彫った溝に黄シャードの粉を入れ魔力でガラス質の塊に戻して見せた。
「粉が溶けた!」
全面の溝にシャードが行き渡ったことを確認してまだ何も掘った跡のない山肌に行く。
ワジが僕達に気付き近づく。
「ガリガリのお前には無理だ。ここは固いぞ」
それでも魔法工芸品になったシャベルを試しに突き立てる。
「刺さった!?お前のどこにこんな力があるんだ?」
「ワジさんが使ってみて」
素晴らしい手際で穴を掘るワジ。
「なんだ?固かったんだぞ、ここは」
「土の精霊の力で土を掘りやすくしたショベルだよ。農家の鍬も耕しやすく疲れにくく出来るよ」
掘った穴から出てきたワジはしげしげとショベルを眺めシャード部分に気が付く。
「これはガラスもどきか?」
「そう、手をかざすだけで溶かしたよ。この娘」
なぜかプリムラの後ろに隠れるマドレーヌがワジに僕がシャードを溶かしたことを話す。
「クーラン、お前本当に何者だ?」
「今の僕は魔法職工者です」
「僕?え、男!?」
マドレーヌは僕から距離をとった。
「マドレーヌはね、ドワーフと一緒に攫われて『女牢』に入れられてたの。男が怖いの」
プリムラが彼女の身の上を話した。
―――
クーランは話を聞きながらでも手を止めないんだね。
周りの人が増えても普通に次の物を作ってたの。
「マドレーヌはここ出身で、いろんな手工業をする総合職人さんだよ」
「ベースリングにしては器用だぞ。十六と若いのに評判は良い」
私とワジでマドレーヌの事を話してる間に木に穴を削りながらクーランは返事した。
「背は僕とそう変わらない。ベースリングと分かってても美人だから攫ったみたいだね」
もう、美人って簡単に言って。
トリルの家に初めて泊まった朝、私にも可愛いって言ってくれたから許すけど。
マドレーヌちょっと顔赤くしてるし。
「えっと、クーランだっけ?ガラスもどきって結局何さ?」
「そうだね……シャードは特別な樹液の化石、琥珀みたいな物だね。でも木の方がまだ未特定で樹液は見つからないんだよ」
マドレーヌと話しながら木で何かの型を作ったクーランは透明シャードを粉にして型に流し込んでた。
「シャードは火を与えると赤く染まるよ。魔力の流し方で色を変えずに形だけをある程度変えられるね」
暫く型のシャードに手をかざしてたクーランは透明の雫形の塊を取り出して小さなナイフではみ出して崩れた形を整えてた。
「道具は青銅か」
「鉄は魔力と相性が悪くてね。金属では銀が魔力と一番相性は良いけど柔らかい。銅合金が一番シャード加工に使いやすいんだよ」
ワジに答えながら完全な雫形に整えたら先っぽに穴をあけて底に彫刻刀で彫り始めるクーランは終わったら私を見て雫形を渡したの。
「プリムラ、水の精霊に呼び掛けてこれを青く染めてくれるかな?」
「インクと同じで良いの?待ってて」
これが何か分からないけど水の青、水の青。
「出来た!青いよクーラン」
「ありがとう。このように特定の精霊や神との交信で属性を与えると色が変わるよ」
先っぽの穴に紐を通して吊り下げるクーラン。
「これ何?」
「プリムラも見るのは初めてだね。これが水脈探しのペンデュラムだよ。地下水に引っ張られる性質がある。井戸の位置を決めるために使う物だけど坑道で水脈を掘り当てる前に気付けるようになるね」
「良い物じゃないか。何個か欲しいぞ」
周りのドワーフにそれを渡しちゃうクーラン。
「僕はシャードで魔力のこもった物を作る魔法職工者です。皆さん、今まで捨ててきた材料になるシャードと少しばかりのお代をこちらに頂ければいろいろ作りますよ」
「いろいろ?どんな物がある?」
「火を使わない白い光のランプも坑内で使えそうですね」
「ガラスもどきがゴミじゃない!全部持って来い!」
ドワーフ達が皆山に走って行って私とクーランとマドレーヌの三人だけ残ったの。
「お金も取るの?」
「国を出るには2767クロス稼がなきゃいけない。国税滞納者は国外に出れないんだよ」
「トリルの税金も一緒に払うんだね」
私とクーランで話してると少し離れてたマドレーヌがクーランを呼んだの。
「ねえ、クーラン。それ私にも出来る?やってみたいんだ」
怯えてたマドレーヌがワクワクしてる。
「良いよ。技術も作品も多くの人に共有したいからね。でも僕は人に教えるのは初めてだよ?」
「頑張るからさ。今までやってきたことも好きだけど新しい物も好きだよ」
「私もシャード染め係。クーラン工房だね」
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
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