第35話 徴税日(1)
朝食後ディルは文字通り飛んで北を目指していった。
カレギアは大陸ジャーナルと深く関らず国境を超えたレセルブルグで記事にするらしい。
僕達とアランパーティー計九人の冒険者、そしてモンド、エフゲニーは役所に用事があった。
今日は夏の七十五日、五十日ごとに行われる徴税日だ。
リッキーさんは私塾の仕事がまだ生徒は身内だけの無収入、昨日連れてきた逃亡奴隷も土地が決まってないので匿ってもらっている。
「まずはプリムラ。まだ冒険者依頼を受けた事がないので収入なし、冒険者税なしです」
「でも第2階位使えるの」
受付は成長しても税は取れないプリムラの冒険者身分証に判を押す。
「次に僕、クーランとトリルさんです。事情によりお金を使い切ってしまい今期の納税は出来ません。滞納申請でお願いします」
身分証をそれぞれ渡し受付は奥に引っ込み、今期の冒険者税の計算が始まる。
「俺達アホ役人に財布握られてたからな。納税に来たのは初めてだ」
ブラスがちょっと緊張気味。
「数字が分かる僕達がサポートするよ。とりあえず全員の身分証と財布を出せるようにしてね」
そんな話をしているとドワーフ戦士の長、女将など地元の代表納税者達が役所に入って来る。
「面倒でかなわんな。普通にここでクロスを鋳造出来るんだが」
戦士の長が髭のある顎に手を当てる。
「ベースリングが主権でドワーフを認めないというポーズだと思います」
「ドワーフ製の金物が最高品質ってすり寄ってくる商人がいるのにさ。やだね」
僕と女将のやり取りのすぐ後受付が戻ってきた。
「冒険者クーラン1661クロス、冒険者トリル1106クロスを来期期日に追納してください」
「クーランさんの方が多いんですね」
「ハーバンズパーティーの頃もあるからね」
解雇の際にお金を取られたし酷い負債だよ。
「次はこちらのお二方、モンドさんとエフゲニーさんです。ここに来る前は王都の農夫さんです」
奥から住民台帳を持ってくる受付。
「お二人とも423クロスをお願いします」
「それは本当にバート、ボルスの冒険者税を考慮してないんですか?確認させてください」
台帳を確認して断りを入れるトリル。
「また二重取りしようとしましたね。死亡報告時に支払い済みですよ」
「死んだときに仲間の税金を払うのか?マネージャーさんはどうなるんだ?」
アランの問いに答える。
「彼は役人、貴族だから税をもらう側だよ。平民冒険者とは扱いが違うからアランさん達が払わなくても良い。街で彼の身分証を渡した時点であとは国が全部処理するよ」
「死体から身分証持って来いって、こういう事だったのか」
ヴァイスが納得する。
「以前の農地ごと収穫物は貴族に接収されています。こちらの農地はまだ見つかってないんです」
モンドが切実に訴える。
貴族の荘園化は今日のはずだ。
結局両家は二重取りの見直しと王都農地の事実が確認されるまでの保留となった。
「俺達の番だな。頼むぞブラザー」
六人が身分証、エミールがマネージャーの管理していた財布、マーティンが僕の依頼で渡した財布を出す。
「マーティンさん。僕の出した依頼はギルドに提出しなかった直接依頼だからね。まずその財布の総額を確認しよう」
「数えてくれ」
「1711クロスだね」
受付がこの報告を基に税の総額の算出を始める。
「一人2302クロス。六人総額13812クロスです」
「彼らの収入を見せてください。トリルさんはお金を数えてあげて」
僕がアラン達の収入と税率を確かめたけどおかしな点はない。
「13812クロスです。残金は8358クロス?なんだか少ないですね?」
トリルが首をかしげる。
「税は適正だったよ。高い装備を買った覚えは?」
「ないぞ。そんなに少ないのか?」
ヤオが聞き返す。
「収入と残金の差は15000ほど。こんな額どうやって?」
「あ、マネージャーが勝手に使った?」
プリムラの思いつきに皆納得。
「あいつの財布が別になかった。カネは俺達で持たなきゃ駄目だな」
エミールが頭を抱えた。
―――
王都の郊外の農村。
そこでは徴税の役人、荘園の持ち主となる貴族と配下、官憲達が村民を集めていた。
村民の多くは期待にあふれた表情をしていた。
だが徴税を済ませた者は意気消沈するばかり。
さらに貨幣では足りず作物で補填して絶望する者も少なくない。
「市場の締め出し期間があったせいだ」
「指定農家になれないのか?」
逃げれば良かったという後悔が村民を襲う。
そんな中貧農だった大家族の父が意気揚々と財布を取り出し母が勝ち誇る。
「勝った!うちが指定農家だ!」
徴税役人はしばし彼女を見つめ、そして貨幣をとらずに指示を出した。
「一家全員をここに集めよ」
指示された通り集まる八人家族。
彼らの前に官憲が立ち四枚の紙を指し示す。
文字が読めない一家は絵を見るしかなかった。
それぞれ母、長男、次男、末娘の顔。
父が意味が分からず「はあ?」と呆けた声を返す。
そして官憲は彼が持つ財布を凝視した後で頷く。
荘園の持ち主になる貴族は一家の女達を見た後言い放つ。
「どれも不細工。要らんな」
それを聞いた後、後ろに控えていた残りの官憲が一家を包囲。
一人が剣を抜き、末娘を斬る。
「娘が何をしたというのですか?」
恐怖で上ずった声で母が問う。
「先の紙は賞金首の顔だ。トリルという冒険者から財布を奪った四名だ」
それを指摘されて青ざめる七人になった一家。
「交渉役は確か何と言っていたかな。……「冒険者と貴方達兵士は他人、国のため剣を持ち命をすり減らしてお金を貰っています。自分の命を惜しみながらお金を払わない。これは僕達貴方達の命に1クロスの価値も無いと言うようなものですね。彼らはトリルさんにマイナスを押し付けた。命の価値がマイナスと考えるなら逆に彼らの命が減っても文句を言われる筋合いはありません。生死不問。いえ、誰か一人でも命を失わないと分かってもらえないでしょう」か」
思い出して笑う官憲。
「そんな、一番幼い娘を狙うなんて」
「れっきとした実行犯だ。狙わない理由はないだろう」
その言葉に顔の描かれた三人が震えだす。
父が叫んで媚びる。
「この三人にかけられた賞金は幾らですか!?俺が殺してその賞金をもらいます!」
「あんた!私達を売るのかい!?」
「賞金ならお前が握っている財布の中身、4935クロスと言っていたか?お前達が盗んだ金はお前達には持つ資格がない。この国の預かる賞金だ」
その言葉と共に母が斬られる。
「賞金。あいつらを殺せば俺達のカネ……指定農家になれるぞ!」
村民達が石を、棒を、思い思いに掴んで六人になった一家を襲う。
乱打の末、長男が息も絶え絶えに官憲に縋りつく。
「……返す。トリル姉にお金返す。助けて……」
生き残ったのは父、長男、次男だけ。
当たり前のように財布を受け取る官憲。
「だが無意味だ。トリルという者の手から離れた賞金だからな」
役人がうずくまる三人の前に立つ。
「では徴税を行う。貨幣、作物を用意せよ」
「ない、です……無理、です」
次男が潰れた目から血の混ざった涙を流す。
誰も同情はせず実行犯だった残り二人の兄弟が官憲に斬られる。
口を砕かれた話せない父のみが残された。
「待ってくれ。俺達の賞金は?指定農家は?」
愕然とする村民達に貴族が宣言する。
「指定農家となれる者の査定を開始する。貨幣のみで受け付ける」
かつて奴隷という生き方を体験した者がこの村に住み、既に離れていった事実を知るすべはこの場の誰にもない。
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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