第27話 停滞の予兆
その後は魔法回数を使わず、アランパーティだけで無傷で勝つ。
「良く分からないが魔法はすごいぞ」
エリアヒールとチリングタッチを受けたヴァイスが左腕に小手を被せて言う。
「なんでチリングタッチだったの?」
プリムラの問いに皆に説明する。
「魔法回数を使い切ったら僕達はただの人になる。チリングタッチは長期戦向きの武器の使い手がいるからこその魔術だよ」
早業でリッキーさんの包帯を巻きなおしたエミールが合図を送り、ブラスがマネージャーの盾をどける。
「そうだ。アランパーティーの質が良かったんだ。お前達は便乗しただけだ」
マネージャーを無視してヤオが違和感を話す。
「あいつら遅かったぞ。無防備に低く降りてくるなんて間抜けだぜ」
「すごいけど回数制限がある。難しい物なんだな」
マーティンは焼き印と鉤爪の両方を治されてぐっと拳を握る。
焼き印の消えたアラン達はマネージャー以外は機嫌が良い。
僕とリッキーさんも焼き印が消えた。
もっと時間がかかる予定だったけど、今日一日で約束は果たせた。
―――
六日目午前。
「良く分からない奴らがいるぞ」
マーティンが先頭から戻ってくる。
警戒心を強めながら前進する。
「裸の女だ!」
マネージャーがアルラウネに興奮して勝手に前に飛び出していく。
「れっきとしたモンスターですよ」
トリルが頭を抱える。
アラン達とリッキーさんの反応は微妙だ。
睾丸があると皆、マネージャーやハーバンズの様な行動に出るのだろうか?
「前に居る以上は仕方がない。戦おう。ただしあれは結構厄介だよ」
僕はマネージャーとモンスターを止めるため先頭集団、アラン、マーティンと走る。
後ろの集団は隊列を狂わせないように慎重に前進。
「厄介ってどんな奴だ?」
「強い匂いを嗅いだら気が狂うことがある。麻薬みたいな物だよ。花は狙わず緑の胴体と足に見えるところを狙って」
「麻薬は知らないけど、緑を斬るんだな!」
麻痺が効けば良いけどあれは植物。
確実に効くかは微妙だ。
「スロウ」
アルラウネ3体とマネージャーを減速させる。
「遅くしたのか。邪魔だからなこいつ」
マーティンはマネージャーの首根っこを掴んで後ろに引き下げる。
アランは1体の腕と胸に見えるあたりを横薙ぎに斬る。
「割と固いぞ」
「匂いを出される前に戻って」
僕の声ですぐに戻ってくるアラン。
アルラウネはノロノロとこちらに向かってくるだけ。
後ろ集団が合流する。
「クーラン、どうするの?」
プリムラの問いにトリルに向き直る。
「トリルさん、アナライズをモンスターに」
アナライズブックを一冊開いたトリルは先にアランが斬った個体を狙って神と交信する。
「アナライズ……アルラウネ、カテゴリー植物、匂いにトリップ成分有り、弱点属性は火、弱点器官は根」
トリルが言葉を紡ぐと同時にアナライズブックにアルラウネの絵と文章が浮かび上がる。
「足に見える部分と火が弱点だね。プリムラ」
「うん。ファイアボール」
火球で勢いよく燃え落ちるアルラウネ1体。
「松明であんなに燃えるか?」
「焚き付けを足してやればいい。これとかな」
ブラスと相談してヤオはマネージャーに持たされていた贅沢な強い酒を残ったアルラウネの1体にかける。
ブラスがそれを追ってプリムラが燃やしているアルラウネの残骸から松明に火を移し酒のかかった1体に押し付けて焼く。
「匂い吸う前に戻れ」
アランが大声で二人を戻らせる。
ヴァイスとエミールは武器で残り1体の根元を切り払い、すぐ退く。
「何をするんだ。もったいない」
酒かそれとも女に見えるモンスターかを、もったいないと不平をたれるマネージャー。
火がついた方は燃えるに任せ、アラン達戦士が火のないアルラウネの足を刈り取る。
マネージャーはハーバンズと同じように動かなくなったアルラウネの花をむしって中身を確認する。
「全然形が違うじゃないか!」
「子供達、あまり見てはいけませんよ」
リッキーさんが呆れかえった。
―――
八日目。
薪は日に日に減って軽くなり、剣と魔法が見れて上機嫌の子供達。
「これなら昼過ぎには街に着けそうではないか。足が遅いと心配していたが何とかなるものだな。今日は街で寝るぞ」
まともな所で寝れば経験に応じて成長する。
マネージャーが初めて意味のある提案をしたと思う。
彼の言っていた通り昼過ぎに街に到着。
まだドワーフとの共栄圏には辿り着けていないので街にドワーフはいない。
マネージャーは勝手に使われた酒を求めてヤオを連れていく。
残った僕達は行先の情報を探るためギルド支部を目指す。
だが支部の入り口に立っていた人物に足を止めた。
確かバートの兄モンドだ。
「リッキーさん。モンドさんです」
すぐ近くで僕が声を上げたものだから彼は驚いたがリッキーさんとトリルの姿を見て涙をこぼし始めた。
「リッキー先生もここまで来ましたか。冒険者も雇っているんですよね?助けて欲しいんです」
「他の皆さんはどうしたのですか?」
「空地で雑魚寝ですよ。こっちです」
リッキーさんと共に狭い空地に案内された僕達。
空地には旅立ったはずの両家が揃っていた。
「怪我はありませんか?」
トリルが確認をとる。
ボルスの兄エフゲニーが首を振る。
「怪我無くここに逃がされまして。腹は減ってるけど」
「逃がされた、ですか」
先の冒険者は彼らの安全は保障したらしい。
しかし目的地にたどり着くことは不可能だったのか。
「ここから先には進んでみたんですね?何が起こりましたか?」
僕は事情を詳しく聞こうとした。
「この街で寝て、一日は進んだけど何もなかったんだ。二日目の昼前あたりに冒険者でも分からないモンスターが陣取ってた」
モンドが代表で話し始める。
冒険者でも分からないモンスター。
アナライズで調べられなかったのだろうか?
「冒険者はモンスターとは戦ってくれたよ。でも「強すぎる」って言って俺達を後ろに下がらせたんだ。そして一日半かけてこの街まで戻って来て」
それは良い判断だと思う。
依頼者をその場に放置せず街まで帰らせたのならむしろ良心的な部類だ。
「そして冒険者達は「残念だけどここで契約期限切れです」って言ってお金持ってこの街に置き去りにして行ってしまったんだ」
「これはな、モンスターを突破出来なかった以外は完璧な対応なんだ」
マーティンが本当の事を言ってしまう。
「この街で農家になれませんか?」
トリルの質問に両家がため息をつく。
「この街の役人さんは「あのモンスターがいては土地の拡充もままならん」って。土地が無いらしいんだよ」
正体不明のモンスターがこの街に影響を与えている?
僕から質問する。
「正体不明のモンスターは皆さんを追いかけましたか?」
「いや、戻る道中は何のモンスターからも襲われなかった」
行きも帰りも襲撃されていない。
本当に陣取っているだけなんだ。
街もモンスターを知っているが正規兵を動かさない。
「先生、お金が無くなった俺達に雇われてくれる冒険者がいないんです。一緒に行かせてくれませんか?」
「アホ役人と今の依頼人にこの人達を足して……何人だブラザー?」
計算は出来ないエミールが断りを入れる。
「残念ながら僕達の契約ではリッキーさん宅のみ有効です。しかもモンスターが『待っている』。危険に遭わせる事は出来ません」
「どうにも出来ないんですか?」
リッキーさんが板挟みになる。
「契約上今のままで進みます。モンスター排除に成功出来れば状況が変わる可能性はあります」
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




