第25話 有償の冒険者
翌朝、私は冒険者の店を訪ねました。
お義父さんは家で相談事を受け付け、クーランさんとプリムラさんはギルドで冒険者の下見をしています。
私はクーランさんの御師様が言っていたアナライズブックを買うために外れていました。
二冊の本を買い家に帰る途中で会ったのは私の一つ年下の少年でした。
「トリル姉。リッキー先生に会おうとしてたんだ。ちょうど良かった」
彼の家族は八人、彼が子供の長男で幼い妹がいて、そして土地が小さい。
「もしかして、村から逃げたいのって」
「うん。俺ん家だよ」
彼の母親と弟妹二人が集まってきます。
「逃げたいけどお金が無いんだ」
物悲しい声で母親が訴えかけます。
「お姉ちゃん、もっとお金を稼げる方法はないの?」
幼い娘が私の片手を握って潤む瞳で訴えかけます。
「そうね。売る物が乏しいとなると、お義父さん達に特別な方法を考えてもらわないと」
屈んで幼女に目線を合わせながら、お義父さんとクーランさんが今も必死に考えている現状に悩みました。
母親が娘に近づき後ろから肩を抱きます。
「実は俺も考えてることがあるんだ。うまくいくか分からないけど冒険者になろうかなって」
家の長男が私に歩み寄ります。
「俺トリル姉と一歳しか変わらない。体は十分育ってる自信あるんだ」
「それはやめた方が良いですよ。バート達は死んでしまった。危険です」
しかし母親が信じられない事を言いました。
「バートとボルスの遺産で両家は旅立てたんでしょう?儲かるならそっちが良い」
「数ならいっぱい居るんだ。兄弟皆で冒険者になれば一気にお金が入る」
少年は熱弁します。
「体ができているのは貴方だけでしょう?すぐに大金を得るなんて無理ですよ」
私はなおも止めようとしました。
ここで母親が私の手を握り、いえ、腕を掴みました。
「『冒険者のお金』があれば良いんだ!」
その声で母親、長男、幼女三人がかりで私を掴み、今まで黙っていた弟が私の荷物をひったくり漁り始めました。
「離して!」
「トリル姉買い物してたよね。後ろついて来たから知ってるんだ」
「見つけた。重いぞ。幾らあるんだろ」
私の財布を掴んだ一家の弟が逃げ、幼女と母親が手を放し、立ち上がった私のお腹を長男が蹴りました。
「このお金で指定農家になるんだ!これで皆を見返してこき使ってやる!」
「冒険者なんて嘘さ!誰が危ない目になんか遭うもんか!」
取り残された私は中身が散乱したバッグを詰めなおし、とぼとぼと家に帰りました。
―――
昼食のため全員が帰ったところで僕はトリルが襲われた事を聞いた。
裏切られたトリルの涙、分かりやすく怒るプリムラ。
ため息をつくリッキーさん。
「皆指定農家になって元隣人達を農奴として使う側になりたがっていたのです」
昨日言葉を選んでいたのはこれか。
僕は普段周りから陰気と呼ばれる笑顔を浮かべ言い放った。
「この村をこれ以上救う価値無し」
敵意に対して反射で出る笑顔。
僕の笑顔なんて見ない方が良いらしい。
モンドは「指定農家って貴族とこの村で農奴になった人の真ん中だろ。気分が悪くなる」と言っていたけどこれは少数だったようだ。
「トリルさんとプリムラにはお金がない。僕のお金を使ってこの家だけの脱出を急ぎます」
「取り返さなくて良いの!?」
怒るプリムラに笑顔のまま言う。
「町中の人殺しは面倒だからね」
「殺して取り返すのはちょっと」
被害者のトリル自身がためらって止めに入る。
「必ず報いは受けさせるよ」
「白兄ちゃん、なんで笑ってるのに怖いの?」
以前「嬉しいのに笑ってない」と言っていた子が怯える。
「どーする気だかなー?」
報いという言葉で笑っているのは僕以外でデスティンだけだ。
「昼食を食べたら行動を急ぎます。……さあ皆、このご飯が最後の美味しい食事だと思って食べてね。保存食は美味しくないよ」
「クーラン基準の保存食。虫はやめてね」
プリムラが考えただけで心配を始めた。
暫くはお預けになる美味しい食事を終え、リッキーさんがしばし考え仕方が無いとばかりに頷く。
「では私は村の皆に別れの挨拶を」
「いえ、トリルさんを襲った家のため何も説明をしない方が都合が良い」
「何をする気ですか?」
トリルがおずおずと尋ねる。
「まずは家の荷物で必要な物を選別するところから始めましょう。リッキーさんが向こうで私塾を続けられるだけの資料を最少に選びます。リッキーさんを僕と女児でサポートします。トリルさんとプリムラは男児を集めて旅程で使える毛布と薪を整理して欲しい」
「冒険の準備だ!」
『英雄』の絵本を読んでいる男児達は多少あこがれがあるのかもしれない。
プリムラのような好奇心を出さないように道中は言い含めておかないとね。
割と時間をかけて子供でも運べる量に荷物を絞り込む。
リッキーさんに会いに来る人は結局いなかった。
「次は保存食と水筒を買おう。一回の旅のため他の道具は僕達の使いまわしで良い」
冒険者の店に目を輝かせる養子達。
でも財布持ちは僕だけだから剣とかは買わないよ。
プリムラと女児一人が買ったピクルスを味見。
「ホントにこれを十日食べるの?」
どちらも味に愕然としていた。
―――
さて、残ったお金はおおよそ4800クロス。
ここから最低で2500は依頼料に回すことになる。
すぐにと考えると吊り上げ交渉もあるだろう。
何とか3000までに抑えたい。
まだギルドからの依頼を受けたことが無いプリムラはともかく、僕とトリルは税に備えなければならない。
二人でツァーリの一件で10000稼いだので今期はそれ相応の税が取られるからね。
子供達と一度帰り、大人五人で冒険者ギルドへ。
冒険者が依頼料を出す件なので僕とリッキーさんの連名の依頼書になる。
【護衛依頼。
目的地は東へ十日予定のドワーフの共栄圏まで片道。
護衛対象七名、年少者有り。
出資、随伴の冒険者はクーラン、トリル、プリムラの三名。
報酬金2500クロス……3000クロスが限界。
徴税日前に出発出来なければ報酬を減らして再依頼。
依頼代表者、リッキー(護衛対象代表)クーラン(出資)】
僕は出せる限界値を書いた依頼書を提出した。
もう村に長居する事はデメリットだけ、保存食生活を抜けるためにも出発は早い方が良い。
待つことしばし依頼書が掲示板に貼られた。
文字の読める者が掲示板に寄る。
「冒険者出資依頼だ?大丈夫なんだろうな?」
やはり過去の慣習から警戒されている。
僕達は文盲達にもアピールするため依頼の内容を読み上げる。
「ふーん。今を逃せば3000は貰えないってか」
全員最低ではなく最高の3000クロスを狙っている。
受けてくれればそれで良い。
「随伴冒険者、クーラン、トリル……トリル?勇者候補生か?」
その名前で動いたのは大男アランと良い服を着た中年だった。
「トリル。お前が依頼出してるのか?」
「はい。私の家族を引っ越しさせたいんです」
「なんだ、簡単な話じゃないか。受けるぞ」
屈託なく笑い了承するアランに対して中年は横柄に鼻を鳴らす。
「3000だ。即席ではないこのパーティーは買い叩けんぞ」
「もちろんです。明日朝にギルド前で落ち合いましょう」
「勇者候補生最下位を近くで見ることになるな」
「マネージャーさんがごめんな」
中年マネージャーは僕達の依頼書を剥がし、アランが断りを入れて受付へ。
ともあれ準備は済んだ。
「最後に行くべき所がある。そこで用事を済ませてから帰ろう」
僕は皆を促しギルドを去った。
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




