第23話 デスティンの足跡
「動きづれー。筋肉も必要脂肪もねーな。贅肉が無くて軽いだけだこれ」
ある程度の運動をしたデスティンが僕の体の性能に駄目だしする。
「えーとたしか……?シャドウボルト。……出ねーな。俺だと魔法使えねーのか」
「あまり人の住む所で攻撃魔法を使おうとしないでね。まぁ、死霊術はほとんど敵を狙う物だけど」
僕は亡霊鏡で姿を現し、デスティンとプリムラに注意しておく。
「それにしても御師様?デスティンさんに体を貸す意味はなんですか?」
「クーランはこの国を離れ、デスティンの旅の足取りを追ってもらうわ」
「……?可能な限り詳しくお願いします」
御師様から指令は無茶ぶりも多いが意味を考えると受けた方が良い物が多い。
「コーリネスにデスティンとツァーリが居るのは知っていた。これは薄々分かっているでしょう」
「デスティンさんは何となく察せましたがツァーリさんもですか」
「ツァーリさんって誰ですか?」
「廃城のドラゴンの名前だよ」
トリルの問いに答え、御師様に質問。
「ツァーリさんが国から守っていた城とは?」
「カレギア建国は二百年前。あの城は建国以前の亡国が管理、いえ封印していた物よ」
「カレギアが手にするべきではないと」
「ツァーリは動かせない城の守護者となり、デスティンは運び出せる封印物を国外に脱出させた。そして私も今カレギアに対して亡国の封印物を預かる身よ」
御師様はコーリネスをずっと気にかけていたから知っていたのか。
「御師様自身では……お歳ですからね」
「え?若いよ?」
プリムラの驚きに勝ち誇るように微笑む御師様。
「カモフラージュの魔法を極めてるからね。言っておくけど若い頃の姿に戻しただけで、本物の美貌だからね。話がそれた。私が預かっているのも土地で動けないのよ。ここは昔焼き払われたエルフの森でね。木がなくなって湿原に変わり果ててしまったわ」
「エルフ……この国にはドワーフ以外の別種は居ませんね」
「カレギアの方針に対して皆見切りをつけたのよ。ドワーフだって山を守るため残っているに過ぎない」
「俺は別の封印管理者に会いてーんだよ。エルフ、ドワーフに二百年前の生き残りが居るんだ」
デスティンが言うとともに御師様は僕が地下から運んできた鴉の剥製を指さす。
「これは『番犬』の中でも通話に特化した物よ。デスティンは体が無いから運ぶ手段としてクーランが要るのよ。そして出来るならクーランには私が死ぬ前に封印の後継者になってほしいわ」
「その封印物の内容が分からないので継承の確約は出来ませんが。封印管理者を探す当てはありますか?」
御師様は棚から自分のマップブックとさらに一冊を抜いて開く。
「この本は何?」
プリムラの問いに僕が答える。
「魔術第5階位テレパスは精霊ではなく直接人相手に交信をする魔法だよ。このテレパスブックはその交信したい相手を指定するサポートブック。何時かはプリムラさんも自分専用の本を持つ時が来るかもしれないね」
「青髪娘、トリルだったね。貴女アナライズブックは二冊持ってる?」
「一冊も持ってません……すみません」
「第2階位を覚えた時点で真っ先に入手すべき本よ。モンスター用とアイテム用の二冊。一回使えば記録として残るから」
トリルに呆れた後、御師様はテレパスを使用。
「何も聞こえねーぞ?」
「交信そのものは発言する必要がありません。魔法の発動にはコマンドワードを口に出す必要がありますが」
僕はデスティンに説明しながら成り行きを待つ。
御師様は自分のマップブックの大陸地図の一点、ガレカ大山脈の東沿いを指した。
御師様の世界地図を見ると大陸国家は五つ。
ほぼ中央をガレカ大山脈が南北に走り西部が国土面積三位のこのカレギア。
その国境を南に越えると母の故郷であったらしいイサラ。
広いように見えるが実際の面積は四位で南部に広がるのは南極の氷で土ではないらしい。
ガレカ大山脈を回り込み東部が目的地のエスクーン。
面積は二位だが山脈で雨がせき止められ荒野砂漠がほとんどのようだ。
カレギアとエスクーンの北部国境と接する最大国家レセルブルグ。
レセルブルグ北東に唯一山脈と接しない最小国モーゴス。
レセルブルグより北西はモンスターによる危険地帯らしく全容もはっきりしない。
御師様は二度目のテレパスを使い別の点を指し示した。
こちらもエスクーンだが北東よりの森だ。
しかし御師様は先に示していた山際に戻す。
「イネスはゼノビアの家に合流することになったわ。この場所を目指しなさい」
「イネスさんとゼノビアさんですね。長い旅になりそうです」
「おー、受けるか。よし長い付き合いになる。呼び捨てだぞ」
「分かりました。デスティン」
「まだ固いな。まー良い」
僕の体を使っているデスティンは普段の僕とはかけ離れた笑いを浮かべる。
「クーランが行くならついてく。私も呼び捨て」
プリムラがアピールする一方で悩むトリル。
「カレギアの勇者候補生はやめたい。でも家族が……」
「そうだね。リッキーさん達をまず逃がさなければならない」
「だなー。そっち優先だ」
少し興味がわいたのか御師様がトリルの事情を聞き、頷いた。
「……『ドワーフとの共栄圏』ね。まずはそこを目指しなさい。本当の『人』というものを知るべきね」
本当の『人』。
僕は良いイメージがわかないフレーズだ。
他種は見切りをつけ、ドワーフも山があるから離れないだけ。
共栄とは一体何だろうか?
―――
「ところで僕の体はいつ返ってくるのでしょうか?」
「デスティン亡霊になって二百年食べたことないから、夕食まで貸してあげなさい」
「おー飯か。クーラン。余裕があるときはこれからも代わってくれよな?」
「まぁ、体は僕の物で栄養失調にならないので構いませんが。あまり変な物食べないでくださいよ」
「クーラン。虫は変な物だよ」
プリムラは僕の普段の食事にツッコミ。
「よーし、そっそく準備を」
「やめなさい。貴方は何もしない」
御師様がすかさず止める。
「なんでだ?」
「デスティンはね……極度の非冒険者音痴なのよ。日常生活では極力何もさせちゃいけない。邪魔になるから」
まるで冒険者じゃないデスティンを知ってるみたいだ。
「おい。邪魔ってゆーなよ」
「必中必殺の手裏剣とトラップ解除するあの指先で目玉焼きが殻だらけのスクランブルエッグもどきになるのはどうかしてるわ」
「私料理したのこの前が初めてだけど、トリルそれって変なの?」
「普通は黄身が潰れるだけですみますよ」
プリムラの問いにトリルが呆れて頷く。
「とりあえず娘達。私達だけで夕食の準備をするわよ。クーランは勝手にこいつが地下工房に降りないように見張ってなさい。触るとグレムリン並みに器材が狂うわ。降りようとしたらポゼッションを即切りなさい」
「えー?そんなにかー?ちょっとくらい」
「食べたかったらおとなしくしてなさい」
ひどい言い方だけどとても親しげな御師様だ。
出来上がった料理はランチョンミートのポトフ。
野菜は『番犬』が育て、ランチョンミート等は買い物用に作られた人と馬の剥製を使って近くの村で買っている。
支払いは御師様が大量生産している酒だ。
「いやー。美味かったー。しかしちょっと胃が小せーな。酒は飲めるらしーな」
言いながらバケツの水で木皿を洗おうとするデスティン。
バキッという音が鳴った。
「クーランの筋力で木皿が割れるわけないじゃない。これだからポンコツモードは」
御師様がため息をついた。
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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