第21話 クーラン(1)
二人が魔導書の空きを埋め、僕が失敗ではじけ飛んだ紙の残骸を掃除。
「サニティはね死霊術のコンフュージョン、チャームといった精神魔法の解除になる。これを覚えてないとクリアランス以上の全ての不調を治す奇跡に穴が出来てしまうよ」
「その精神魔法ってどんな物ですか?」
「僕の使えるコンフュージョン、マインドブラストは感情を無理やり極端な怒り、恐怖などに振り切らせて暴走させる物。まだ使えないチャーム、テンプテーションは異性の愛を無理に作って隷従させる物かな」
「チャーム使ってみたい」
「誰に?あくまで作られた感情で本人の本心にはならないわよ」
地下から戻ってきた御師様がプリムラをたしなめた。
「このサニティで最後です。デスティンさんは何か思い出しましたか?」
「ちょっとだけどなー。ここに来て良かった」
「全てを覚えたら昼食をとりなさい。そしてクーラン、デスティン貴方達に今後の話があるわ」
「僕は今すぐにでも構いませんが」
「試したい事もあるし食後で良いよ」
御師様の試したい事、これは大抵が試練の話だ。
課せられる試練はどのような物だろうか?
この前振りが何時も怖いんだよ。
―――
昼食、保存食と固いパンを食べ終えた後、僕は地下から幾つかの指定された魔法工芸品を上に運んでいた。
亡霊鏡は死霊術が使えない者達に亡霊を見せる、つまりデスティンを二人にも見せるための物だ。
二つ目冥界灯、これは冥界に旅だった死霊を一人指定して映す灯りだ。
デスティンの二百年前の知人を呼ぶのだろうか?
三つ目は剥製。御師様の『番犬』を綿と皮を被せ本物の動物に見せかけた物。
何の変哲もない鴉、『番犬』を人の世界に運び込むつもりだろうか?
御師様の前に冥界灯と剥製を置きデスティンの近くに亡霊鏡を立てかける。
御師様、トリル、プリムラ、三人と向かい合うように僕とデスティンが立つ。
「それではデスティン。亡霊鏡の範囲内に立って」
「おーよ」
デスティンの姿が映る。
「きゃぁ!?」
全裸の男が突然現れて悲鳴のような何かを発する二人。
「トリルさんにはちょっと話したかな。コーリネスの亡霊デスティンさんだよ。誰にでも見える悪霊は悪意を纏ってるから何らかの武装をした状態だけど、悪意が無い亡霊はこのようにむき出しの魂なんだよ」
「デスティン隠してあげなさい。話がそれるわ」
デスティンが両手で股間を隠す。
二人はただ興味本位でついて来ただけ。
そもそもデスティンに会わせる意味はあるのだろうか?
「次はクーラン。この指輪をはめて、リヴィールを自分に使いなさい」
御師様が取り出した指輪とリヴィールという言葉に一気に血の気が引く僕。
リヴィール、第7階位死霊術。
これは指定した相手の魂を強制的に暴露し全ての思考を発現させ、一切の嘘と黙秘が許されない状況を作り出す。
これはよりにもよって僕の本性を三人にさらせという試練だ。
御師様は僕を見据えながら冥界灯の準備を始め僕のリヴィールを待っている。
どうせ御師様の魔法職工に抵抗出来る魔力は僕に無い。
もとよりこの三人は他人、これが別れの機会だろう。
一人になるならこれで良いのかもしれない。
指輪をはめ、皆に一度微笑む。
御師様とデスティン以外には何も伝わらない微笑み。
「リヴィール」
僕の魂が僕の体の前に現れる。
デスティンの様に一糸纏わずの姿に女子二人がまた眼を覆う。
「御師様、私は何を答えれば良いのでしょうか?」
「『私』?クーランって僕って言ってなかったっけ?」
プリムラが違和感に気付いて僕を見る。
「人のふりを無理してやってるのよ。左腕の焼き印を見せなさい」
御師様の命令通り焼き潰す前の奴隷の焼き印を復元して見せる。
リヴィールは視覚情報すら暴露する。
「焼き印ですか?一体それは何です?」
トリルの問いに呆れながら説明する御師様。
「娘達、これは奴隷よ。睾丸を焼かれ男としての機能を失くし、名前は与えられず、敵意が過ぎ去るまで愛想笑いしか身を守る手段を持たない」
「こいつは死にそーになった時しか笑えないんだよ」
デスティンが補足している間に女子二人は僕の股間を見て本当に焼き潰されていることを知り思わず凝視。
御師様はここで冥界灯を発動させる。
現れたのは僕と同じ白い髪に水色の瞳の左腕に焼き印のある二十程の女性だった。
「御師様。お母さんを呼びましたか」
その言葉で注目が僕から母へ移る。
「クーランのママ?顔似てる」
「そのお歳ということはあまり長生きされた方ではないんですね」
プリムラとトリルの発言の後で母は御師様に深く礼をした。
「御師様。私の息子に人としての名と生き方を与えていただき、ありがとうございます」
「いえ、『空欄』なんて当てつけのような名前で納得していただけるなんて申し訳ありませんよ」
御師様が僕の母に礼を返す。
「奴隷の品番がなくなったから『空欄』かー」
デスティンはなるほどなーと納得。
「ママも奴隷だったの?」
プリムラが母の左腕を見て何も考えず発言。
「私自身は南のイサラ国出身でした。しかし九の時、海賊に住んでいた港町が襲われ攫われた私達女は戦利品としてカレギアの領主に献上されました」
「流れからしてカレギア正規兵の私掠船ね」
御師様が当たり前のように看破。
「私と母は領主の専属牢に囚われ他の女も領の要職達にあてがわれ子を産み続けました。クーランは私が十で産んだ長子です」
「若すぎます。犯罪じゃないですか」
トリルの非難に僕は頷く。
「はい。奴隷の私達には人権がありませんので一切問題にされません」
「子は誰も認知されることなく、全て世襲奴隷として隣の牢で私達に領主の子種を仕込まれるのを見せられていました。女児の中には私の牢に戻され産める歳でもないのに嬲られる娘も居ました」
その言葉に合わせ僕は当時の光景をリヴィールを利用して見せる。
「最低」
プリムラの言葉に答える。
「貴族の正妻ではないとはそういったものです。プリムラも妾ならそうなる可能性はありました」
「いやすぎ。心の中では呼び捨てだね」
母が続ける。
「時の流れは忘れたころクーラン達が事件を起こしました。父である領主を殺害したのです」
リヴィールが反抗の光景に切り替わる。
「あの男に父として接された事はありませんが。弟の睾丸を焼く歳が来たのです。そこで領主の嫡子が余興として私達に無理に弟を焼かせようとした。その奴隷の中一人が焼き鏝を加熱し、すぐ近くの兵の首に突き立てました。それに合わせて世襲奴隷牢の皆が動いた。ある者は兵の武器を奪い手近な者を殺し更なる武器を持った者が増えていく。短剣を拾った私は牢の看守を突き殺し手当たり次第に牢の鍵を開けました」
デスティンがにやりと笑う。
「リッキーさんの脱走のきっかけお前かー。やるじゃねーか」
「え?お義父さん?」
「はい、デスティン。彼の名前は出して欲しくなかったけどそうなります」
「お義父さんが逃亡奴隷……?」
「おーっと。すまん」
トリルには話していなかったリッキーさんの事を無断で暴露してしまって謝るデスティン。
母が続ける。
「牢から戻ると領主一家は全員殺害済み。もちろん奴隷達にも死人は出ていましたが逃亡奴隷が増えたことで兵達は領主館から撤退。奴隷達は思い思いに逃げ散りました。私も実子達を連れ当てもなく逃げました」
「しかし逃げた先は幸か不幸か御師様の湿原。足場が悪く幼い子も連れた私達の足は領主館を放棄し再編成された兵士達より遅く、一人残らず殺されました」
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




