第20話 御師様
泣きっぱなしのプリムラにヒールを使うトリル。
「もう大丈夫ですから」
「痛かったよぉ。後回しいやぁ」
「傷が深ければ動きは鈍りさらに死にやすくなる。それでも無理やり動かなければならない。魔法職は動きが少ない分ましだけどね。仮に逃げるなら走れなくてはいけないよ」
セクハラに魔法を撃つと言っていたあの元気は何処へやら。
自分の命を切り売りされるという事を理解してくれただろうか?
今回は無収入の私事だけどね。
「集まってきたぞ」
デスティンの声に僕は周囲を見渡す。
先ほどの騎兵型8体のスパルトイに完全に囲まれてしまった。
「無理!こんなの無理!!」
「お義父さん、帰れません」
完全に委縮してがくがく震えてる二人。
さっきのも含めて質はかなり下の方だけど僕達ではその1体が関の山か。
「御師様、殺すなら最初からこの数を集めてますよね?」
質問をすると豹が僕たちの前に進んでくる。
肉食獣のアンデッド追加に気が気でない二人。
「クーランも未熟なのに変わりないよ。リブートタイプを事前に見分けるようになりなさい」
豹から御師様の声でお説教された。
「申し訳ありません」
「娘二人も魔法職。回数制限が付いて回る。だからこそ何を使えば良いか取捨選択が必要よ。モンスターの知識は持っておきなさい」
「喋ってる……女の人?」
プリムラが恐る恐る豹に近寄ろうとして真後ろからスパルトイに肩を掴まれた。
「ひぃっ!?」
「装備の貧弱な魔法職は考えなしに前に出ない。餌になりたいのかしら」
肩を掴んだスパルトイから御師様の声でプリムラに警告。
「プリムラさん。豚の時もそうだったけど興味本位で相手の注意を引いちゃいけない。街の外は人が人を襲う事ももう知ってるよね?」
「興味より警戒を優先させなさい。見た目だけで安全と判断しない」
放っておくとヴォーパルバニーあたりに引っかかりそうで。
「……誰だったかなー?聞いたことある声だ」
デスティンが今までで一番深刻に考え込んでいる。
「貴方次第だけど可能な限り答えるわ。デスティン」
「御師様、二百年前の亡霊を知ってるんですか?」
御師様もコーリネスに行ったことがあるのだろうか?
「ま、今回は特例で人を連れてきても良いよ。来たくないなら残っても良いけどね」
御師様が人を追い出さないなんて相当のことだ。
デスティンが目的なのだろうけど彼は何者なんだろう?
御師様にとってはおまけであろう女性陣に聞いてみる。
「御師様の庵に案内しようかな?断って帰っても良いけどアンデッドの居ないところに戻ったら安全は保障できないよ」
「魔法工芸品を返す相手ってクーランさんの先生だったんですね」
「クーランの先生?会いたい。クーランのこと聞きたい」
さっきまでひいひい言ってた二人がちょっと元気になる。
僕は豹と共に進み、三人がついてくる。
騎兵達は本来の警護のために持ち場に散っていった。
―――
御師様の庵の玄関で豹は待機、僕達は中へ。
「御師様、本当に道具を使う事になってしまいました。お返しします」
デスティンも知ってたしどれ程の事を見通していたのだろう?
「この方がクーランさんの先生」
「ママより美人」
一人黙り込むデスティン。
「道具はここで返しなさい。地下工房は私とデスティンで使うから。そうね、三人とも魔導書を見せなさい」
言われた通り僕は道具を返し、三人で魔導書を御師様の前に並べる。
「クーランは変わらず。ピンクは第1階位二つの素人。青は第3階位が手つかず……あら」
トリルの魔導書で何かに気付いたような御師様。
「魔導書の抜けを埋めるためにここに残りなさい。この娘第1階位にも抜けがあるわ」
「確かに三種しかない。サニティですね」
僕達に抜けを指摘されたトリルが聞き返す。
「サニティ?聞いたことありませんよ?」
「死霊術だけではなく対の奇跡もこの国は制限したようね。クーランはここで二人の資料集めを手伝いなさい」
「はい」
僕は書架から僕自身は知識として目を通している資料を探す。
「奇跡と魔術の資料まであるんですか?」
トリルの驚きとは別にプリムラはそれ以前の質問。
「魔法ってお金で買うんじゃないの?王都の魔導師は買えって言ってた」
たぶん登録時の服装が良い物だったから魔導師には金蔓に見えたんだろうね。
「その魔導師の言った事は忘れてしまった方が良い。魔法を自力で学び取る事が出来なければまた詐欺に遭うよ」
「あぁ、もう詐欺にもあってるか。三人で教えあい学びあいなさい」
呆れた後御師様はデスティンを伴って地下へ降りて行った。
「とりあえずトリルさんが実践で描いて、それを基にプリムラさんも自力で描こうか。まずは第3階位エリアヒールから」
「ヒールの広範囲化ですね。イメージしやすいです」
「プリムラさんは普通の紙に魔力感応インクで色を描く練習から。工房で見せたシャードを染めて色を付けるのと同じだね」
「このペン一本でいろんな色が出せるの?やる」
―――
俺はこの女を知っている。
トリルとプリムラが俺を見えるのなら口説いていただろうがこの女にはそんな気がわかない。
そんなのは今更だと思える。
この地下工房も何か昔を思い出す。
半分くらい足りないがこれと同じ配置の工房は見たことがある。
「何処まで思い出してるか分からないけど一応確認してみようか」
女は魔術カモフラージュを使い、一度若返った。
十当たりの娘の姿から、十五の僧侶の法衣、少し年を重ねて魔術士に近いローブ姿、さらに年を重ね二度腹を膨らませ、最終的にクーランの御師様としての姿に戻る。
本当に一番長い付き合いだ。
妊娠させたのは俺だ。
「……ナタリー。二百年こんな所に居たのか?」
「こんな所って二百年前でこの地が変わったのよ。私はここに守る物があった」
「会いに来てくれて良かったんだぞ?」
しかし守る物の重要性がツァーリと同等なら仕方がない。
「ツァーリに甘えちゃったわね。あの町と城が何て呼ばれてたかは覚えてる?」
「コーリネスじゃねーのか?……だめだ思い出せねー」
「デスティンはむしろ忘れようとしたのね。あんな事の後だもの」
あんな事。
俺はろくでもないであろう事を時間をかけてでも思い出そうとした。
「……俺女好きで惚れた女は望む限り全員連れて旅してたよなー。けど戦いの心得のない妻と子供全員あの町で喪った」
「戦える女達はあの城を封印するために各地に逃げたわ。私は寿命が尽きたけどまだ生きてる二人が居る」
何人もいた妻達の顔を必死に思い出す。
「生き残ってくれたか」
「イネスとゼノビア。年を取ってるけど生きてるわ」
「……エルフとドワーフだからなー。まー婆さんになってるかー」
「エルフは私たちの八倍、ドワーフは三倍の寿命よ。私達換算だとゼノビアは八十代だからお婆さんだけどイネスは四十代ね」
その名前の二人を集中して思い出そうとする。
しかし、あることに思い当ってしまった。
「二人とも亡霊は見えねーよな。会えねーわ」
「会いたい?ならこれね」
ナタリーは奥の姿見に向かって手招く。
姿見の前に立ったら全裸の俺の姿が映っていた。
「この鏡があれば会えるのか?」
姿見は俺の声も反響させるのか二重に聞こえた。
「おー、声も聞こえるのか」
「これは良い機会ね。鏡は小さくなるけどクーランを貸してあげる」
「あいつを?なんでそこまで?」
「封印の管理者達に会ってもらうわ。デスティンもいろいろ思い出せるし、クーランも死霊術が制限されたこの国では大成しないわよ」
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
ただいま第二章の肉付け中です
皆様にお願いがあります
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全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




