第19話 チュートリアル。スパルトイ
御師様の住まう南には湿原のためまだ街道は通っていない。
暫くは歩くには困らない平地。
プリムラは何とか付いて来れている。
最初の一日は襲撃もなくただ歩くだけで済んでくれた。
コーリネスから王都への旅の最中、当然排泄の機会もあった。
あの時は女性冒険者が二人プリムラについてたけど今回からはプリムラも逆にトリルの排泄の見張りに立たなければいけない。
群れからはぐれた者を襲うのが動物の習性だ。
「えっと……クーランのも見るの?」
「はい……私も男性に見張りに立ってもらってました」
以前はパーティーの紅一点だったトリルが恥ずかしそうに頷く。
そんな女性陣にデスティンはニヤニヤ笑っている。
「護衛依頼なら依頼人を見張らないのは言語道断。性別は関係なしに付いていく」
僕は何時かはプリムラも個人勢になれるように言っておく。
「セクハラしてきたら魔法良いよね?」
「えっと、それは……」
悩むトリル。
「どちらでも良いよ。依頼料をとるか自分の安全をとるか。ギルドからは罰則が科されるけど無理と判断すれば途中で依頼人を置いて逃げる選択をする冒険者もいるね。貞操は何とも言えないけど生死では本当に判断出来なければならないよ」
二日目の昼前。
「あ、豚」
思わず近寄ろうとしてしまったプリムラ。
「駄目だ」
野豚はこちらに気付いてしまい突進してしまった。
「皆、攻撃魔法用意。シャドウボルト」
盾を持った僕が少し前へ出て近づかれる前に撃ち落とそうと一撃。
しかし豚は目が見えないままでもほぼ真っ直ぐに突っ込んでくる。
「撃つよ、撃つよ?ファイアボール!」
初めての戦闘で浮ついてるプリムラの魔法、それでも勢いが止まらない豚。
「えぇっ!?オーラシュート」
トリルの魔法でようやく豚は足を折るがその重さのせいで死にながら転がってくる。
盾を構えてプリムラとの間に割り込むが、その重さを受けきれず弾き飛ばされ、後ろのプリムラと玉突きに激突。
「いったーいっ!!」
プリムラがわめく。
「……本当だよ……牙のない奴で良かった」
笑いながら僕はプリムラに非難。
「でも豚肉食べたかったんだもん」
「これはモンスターじゃないけどね。豚は雑食だよ。下手すればこちらが食べられていた」
「人も食べるの?」
「人の飼ってない野豚なんて何を食べてるか分りもしない」
そう言いながら作業用ナイフで豚の腹の肉を切り出す。
「豚肉」
「ほら、これが寄生虫。昨日も言っていた通り狩猟は難しい物だよ。養豚と肉屋に感謝するんだね」
トリルもプリムラも気味悪がっていた。
「ところで、痛いからヒールを頼めるかな?」
三日目の夜。
すでに湿原に入り野営中。
「クーラン。ここやばくね?」
デスティンが険しい視線を闇に走らせている。
デスティンはコーリネスのギルドや王都への旅では斥候に気付けていた。
彼は旅を知っているし生前は冒険者か兵士か。
焚火の世話をしていた僕は女性陣に断りを入れてデスティンの見てる方を見る。
「1体がここに来るぞ。周りは囲まれちまってる」
待つことしばし、正面から闇の中で白い物、骨の豹が僕の目に入った。
「御師様の『番犬』達だよ」
「お前の師匠?大丈夫なのか?」
「どうだろうね?デスティンさんも見られてるはずだよ」
「あー、霊媒士の師匠だからなー」
僕達四人を見たであろう豹はここから離れていく。
「囲まれたままだ」
「僕を含めて生殺与奪は御師様の掌の内か」
「お前もかよ?」
「いつもとは違うからね。僕一人だった今までは『番犬』の居る範囲で何かに襲撃されたことはないけど」
言いながら女性陣のいる焚火に戻るが彼女達には何も話さない。
正直に言えば『番犬』の物量の前ではどうしようも出来ない。
幸い魔法回数は十分。
その夜、僕は焚火の番に付きっ切りで眠らなかった。
『番犬』の動向にはデスティンが目を光らせている。
―――
そして四日目、全員が支度を済ませて歩き出してすぐ。
「動いたか。1体……いや1騎」
デスティンが一方向を睨む。
「皆襲撃だよ」
このやりとりの間で相手はかなりの速さでこちらに詰め寄ってきている。
「骨の騎士!?」
「スパルトイ!太陽の下なのに」
白骨化した馬に鞍を乗せ、それにやはり白骨化した人が跨り騎兵槍を構えたスパルトイランサー。
どのくらいの強さか分からないけど操作しているのは御師様だ。
「このタイプは闇も毒も効かない。二人がどれだけ頑張れるかだよ」
最初の一手は既に警戒していた僕から。
広範囲の相手の攻撃性能を落とす第3階位。
「ウィークネス」
これと第1階位の速度下落のスロウ以外は役に立たない。
パラライズで麻痺もしないし、悪霊の憑いたタイプではなく御師様の操作ではコンフュージョンも効果がない。
そして女性二人が身構えるより先にランサーが盾を構えた僕をはねる。
そして次の突撃の距離を稼ぐためそのまま走って離脱。
「うわっもう遠い!?ファイアボール当たるの?」
「遠いときは交信したまま精霊からの合図を待つんだよ」
「クーランさん、ヒールを!」
「ありがとう。これは二人が受けちゃ駄目だね。轢き殺されちゃうから僕の真後ろからはすぐ逃げる様に」
「分かった。クーラン笑ってる?」
豚で懲りたプリムラが答える。
再度ランサーが突撃。
これに合わせて残った一手を切る。
「スロウ」
「走るの遅くなった。ファイアボール!」
炎を受けながら僕に激突するランサー。
突撃スピードが落ちた分先よりましになった。
御師様は突撃の時間が稼げない不利からランサーに離脱はさせず、近距離で僕たちの周りを回って誰でも狙えるとプレッシャーをかけてくる。
「何ですかこの動きは?悪霊はもっと暴れますよ?プロテクション」
疑問を感じながらも三人同時に守れる奇跡を選んだトリル。
人に使役されたアンデッドなんてこの国ではここにしか居ないだろうね。
「ファイアボール!」
プリムラの二度目の火球を受けて砕けるランサー。
「ふふーん。勝っちゃった」
「クーランさん、ヒールを」
治療を受けながら僕は黙って周囲を見回す。
御師様は次はどうするつもりだろうか?
数が圧倒的なのに1体は手ぬるすぎる。
「プリムラ!離れろ!」
デスティンの警告は僕にしか聞こえない。
慌ててプリムラに目を向けると先程倒したランサーがリブートしてプリムラに槍を突き出す。
「あ゛っ!?」
僕とトリルのあらゆる魔法で守っていても致命傷を受けてしまったプリムラ。
追撃される前に僕はプリムラとランサーの間に割り込む。
「プリムラさん、ファイアボールを」
「……無理、死んじゃう……」
傷を負ってすっかり消沈するプリムラ。
「出来ないと一方的に殺されるよ。何もしないはそういうこと。生死の判断は自分で。トリルさんも攻撃」
「怪我してるんですよ!?」
「攻撃の手が足りない」
「どうなっても知りませんよ?オーラシュート」
「プリムラさん、早く」
「無理だよ。また起きちゃうもん」
泣いてるプリムラに襲い掛かる槍を僕が受け止める。
「リブートアンデッドと分かれば僧侶が居れば何とかなる。早く」
「ほんと?もうこれが最後だよ?ファイアボール」
火球で再度砕けるランサー。
「プリムラさん!すぐに治療を!」
「トリルさん。僕の杖にホーリータッチ」
「死んじゃうよぉ。トリル」
「リブートアンデッドの対処法。光の攻撃で倒すかリブート中に光の攻撃や聖水を当てるか」
杖に光の力を付与された僕がランサーの骨の一つを小突く。
ばらばらの全ての骨が一斉に灰になった。
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




