第18話 プリムラと冒険者(3)
自分の装備品を見ながらせっかくの資金が空になって落ち込むプリムラに話す。
「魔法の覚え方をろくに教えていなかった魔導師も良くない。おそらくギルドに居た冒険者の小遣い稼ぎだね」
「同じ冒険者なのに?」
「冒険者崩れに襲撃されたよね。冒険者に横のつながりはあまりないよ。仕事で数合わせはするけどね」
自分用に納得のいった装備品は弱いけど面積は広いレザーシールド。
そして一本の杖を買ってプリムラに奢る。
「こういった『武器』として売られている杖は魔力を微かに増幅させる。近接戦闘なら短剣や鈍器の方が強いけど魔法戦がメインなら持っておいた方が良い」
トリルがそれを聞いて自分の杖を探し始め、僕が右手に盾を持った姿に質問してきた。
「クーランさんは左利きですか?」
「右利き。魔法戦は利き手が関係ないから右で盾を使ってみようと思ってね」
「トリルと私の杖は木だけどクーランの杖は何製?すごいならそっちが良い」
「材料は狒々の骨。魔法工芸品の修行の一つとして作った物だよ」
「やっぱりクーランが持ってて」
「そもそも霊媒士の僕の自作だから死霊術向けに作ってある。奇跡向け、魔術向けの杖もあるね。当然性能が上がれば高価になるよ」
最後に往復八日分の保存食。
「知識のない者は野生の物を食べるのは避ける。魚介は特に有毒も居て、そうでない動物でも寄生虫持ちは居る。普通は店売りの保存食頼り。狩猟と採取は知識が必要だよ。寄生虫と一部の病気は『生物』なので奇跡での治療は出来ない。医療の分野だね」
「虫はいや」
「お金がないなら贅沢は言わないこと」
「せめて虫はやめてあげてください」
トリルも昆虫食は嫌な様だ。
僕は一番安い塩漬け豆、酢漬け野菜を買う。
「それ美味しいの?」
「決して美味しくはないね。日持ちと壺の頑丈さは保証出来る物を選んだよ」
「なぜ一番安い物を選んだんですか?」
トリルの問いに答える。
「道具を返しに行くのは収入にならないからね。付いて来なくても良いよ」
「絶対付いてく」
「今プリムラお嬢様にはお金がない。僕が奢るならケチるよ?」
「もうお嬢様はやめて」
「そうだったね、プリムラさん」
「呼び捨てでも良いよ?」
「礼儀かな?そんなに親しくないからね」
「私もですか?」
「俺もか?仲よくしよーぜ」
プリムラ、トリル、デスティン揃って何か不満げだった。
「……まぁ、僕じゃなくてトリルさんが食料を用意するならそれでも良いけど」
「トリル、お願い」
「分かりました」
プリムラの保存食は結局トリルが用意することになった。
「斥候技能無しならこれで最低限は揃ったかな。リッキーさんのところへ帰ろう」
リッキーさんのさん付けは目上の人だからだけどね。
―――
もう夕暮れ、そろそろ今日は諦める時間になっていた。
トリルが待っていたリッキーさんに尋ねる。
「お義父さん、冒険者は受注してくれましたか?」
「いいえ、来てくれませんでしたね」
やはり、表面的な依頼料を見る限りは厳しいか。
「依頼書には締切日も書かれています。納税日までには出発できる手はずになっていますから私達は荷の準備をして待ちますよ」
リッキーさんはあまり惜しくもなさそうに笑って見せた。
本当はまだ多くの人を待たせているのできっかけは早く欲しいはずなのに。
リッキーさん宅も王都から逃げるはずだ。
焼き印の残ったリッキーさんはそれを指摘されたらお金がいくらあっても奴隷に戻されてしまう。
「さて皆さん、今日は帰りましょう」
プリムラに微笑むリッキーさん。
今日はろくでもない事ばかりだったプリムラが心底安心した様に笑う。
リッキーさん宅に戻り養子達に迎えられる。
トリルと養子達は台所へ、僕とプリムラもついていく。
ザリガニが今日のメインだった。
料理素人のプリムラにトリルは付きっ切りで基礎を教える。
初めてナイフを持ったプリムラはまず野菜の切り方から。
僕はひたすらザリガニの殻をむく。
「プリムラさんに火のおこしかたを教えた方が良い。ファイアボール禁止。買った道具の使い方を覚えるんだ」
「ファイアボール使ってみたい」
「魔法使うの?見たい!」
子供達が興味ではやし立てるが首を振る。
「魔法回数は僕たち魔法職の生命線。よほどのことがない限り道具でできることは道具で済ませる」
「つまんない」
プリムラも子供達も不満の様だ。
それでも意地を通さず言われた通りトリルから火おこしを習う。
我儘を通さず素直に教わるのは良いことだと思う。
こうして夕食が出来上がる。
食卓に料理を並べ頂きます。
「食べながらでも良いので聞いてください」
リッキーさんが養子達に話しかける。
「私達は近いうちに引っ越しすることになります。村の人達にも引っ越しを呼び掛けます。お友達にもこの話をしてもらえませんか?」
やはりリッキーさん宅も夜逃げするようだ。
「何処に引っ越すの?」
「とても遠い東へ行きます」
「どうして?」
「貴族から村全体に立ち退きの話が来ているんですよ」
実際はもっと悪辣なのだが子供相手にはこれで良いのかもしれない。
「大人の方には詳しく私から話しますが皆にはこれを手伝ってほしいのです」
「はい、お義父さん」
子供達は承諾してくれた。
次はトリルが発言する。
「私とプリムラさん、クーランさんは明日から八日ほど村を離れるから、留守はお願いね」
「冒険の話聞かせてね」
「白兄ちゃんも冒険者でしょ?話聞かせて」
「そうですね。大まかな指針は決まりましたし今日は男児部屋に泊まってみますか?」
リッキーさんの提案ならそれで構わない。
「冒険者なんて楽しい話はあまりないよ?」
一応前もって言っておく。
たらいにお湯を張って男児部屋に。
子供達の背中を流しながらせがまれた冒険者の話を答える。
バートとボルスの死の話。
ドラゴンの屍毒を除去して報酬をケチられた話。
冒険者崩れと殺し合いをした話。
「白兄ちゃんの話全然楽しくないよ」
「そうだよ。冒険者はそんな者。本来なら居なくても良いんだけどね」
「それじゃ何で冒険者なんて仕事があるの?」
「昔は『貴族は剣によって平民は税によって国を支える』と言われていたらしい。『剣を持って税も支払う』冒険者なんて馬鹿げている。貴族の剣が機能してないんじゃないかな?」
「ん?お前それ何処で聞いた?」
デスティンが考え込む。
「それでもモンスターという脅威がある。脅威を排除するためにどうしても冒険者は必要になる。君達剣を持たない人を無事に東へ送るため冒険者が必要なんだよ」
「モンスターを退治すれば『英雄』になるんじゃないの?」
「……『英雄』って何?」
僕の質問に子供の一人が絵本を持ってくる。
「この絵本に書いてあったよ。すごいモンスターを退治したら王様に認められて『英雄』になってお姫様と結婚するんだって」
「初めて聞いたよ。夢でしかない話だね」
「お前、子供相手に言い方」
デスティンが呆れかえってしまった。
―――
翌朝、旅支度を揃えて朝食を頂く。
「クーランの話はどうだったかな?」
プリムラの問いに男児達は口を揃えた。
「白兄ちゃんってつまんない」
キョトンとした表情のプリムラ。
まだ冒険に出たことがない彼女は期待があるのかもしれない。
対して複雑な表情を浮かべるトリル。
彼女が冒険者になった理由は強制だからね。
「私達は三人皆を待っています。必ず無事に帰ってきてください」
リッキーさんに見送られ僕達四人は南を目指す。
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




