第17話 プリムラと冒険者(2)
トリルが教王宮に向かった後、僕は如何すれば良いか分からなかった。
依頼が正式に通った以上残されたのはプリムラの事だけだ。
考えに考え結局「お嬢様を連れ帰ってくれますように」というヤコブの言葉を思い出した。
「……一度だけトリルの家に泊まった事だけでも報告しておかない?」
「いや」
「私の家ならいつでも泊まってくれて構いませんよ」
リッキーさんはおおらかに付け加えてくれた。
「良いの?ありがとうございます。だったらトリルの家に泊まることだけ……」
「私は依頼を受けてくれそうな人に直接会ってみたいのでここに居ますよ。クーラン、お願いできますか?」
「切り出したのは僕です。行きましょう」
リデン店舗に二人で訪れ、ヤコブを待つ。
待つことしばし、奥の部屋に通される。
「連れ帰ってくださいとお願いしたのに……昨夜はいったいどうされたのですか?」
「そこは申し訳ありません」
「トリルの家に泊まった。これからも泊まるの」
プリムラはすっかりここを離れる気だった。
「……勘違いして……お嬢様、リデン家の後ろ盾なしでどうやって生きていくつもりですか。村娘になっても『何もできない』でしょう」
ヤコブもプリムラの評価はこんなものだった。
「家に居ても『何もさせてくれない』でしょ。ママみたいに何も言わないお嫁さんは嫌なの」
「それが一番役に立つのですよ。セルヒオ様の言いつけにより王都の有力貴族を探し始めております」
プリムラの婿探しもしていたのか。
でもやはりこの言い方はプリムラの未来を見ていない。
「いや!年がいくつでも何番目の妾でもどうだって良いんでしょ!」
「はい。相手が有力貴族であればそれで良いのです」
「絶対いや!クーランこっち!」
プリムラに腕を引っ張られて連れてこられた部屋。
「いったい何?」
「着替えとか持ってくの」
「服でいくら飾ろうが貴女の中身は空っぽですよ。村が貴女個人を貴族として見てくれるとでも思っているのですか?」
後を追ってきたヤコブに追い打ちをかけられる。
「そう!別に個人として必要じゃないなら妹達でも別に良いんでしょ!?」
ヤコブが少し黙った後呟いた。
「……セルヒオ様の妾のことをご存じでしたか」
「貴方みたいな奉公人が笑って話してた」
「……しくじったな。余計なことを……」
プリムラは服以外の物もどんどん鞄に詰め、一つを僕に渡してさらに二つ目の鞄に詰め始める。
「結構な荷物だね。トリルの部屋は女の子皆の部屋だから占拠しちゃだめだよ?」
「大丈夫。分かってる」
こうして鞄二つの荷を集めプリムラは外へ真っ直ぐ。
「クーラン。『帰ろう』」
―――
大荷物を持ってリッキーさんがまだ居るであろう冒険者ギルドに戻る。
「プリムラさん?その荷物はなんですか?」
トリルも教王宮から帰ってきていた。
「私、冒険者になる。これは準備」
「どれも旅には向いてない。冒険者はやめた方が良い」
「だったら全部売る。冒険者になる。もう『貴族に夢を見る』のやめた」
僕がたしなめるとコーリネスで僕が言ったことの逆が返ってきた。
「居場所ないんだもん。トリルとクーランと一緒に家以外何処にだって行く」
「プリムラさん。そんな捨て鉢にならずに」
「ん?僕とトリルはそんなに関係がないんだけど」
二人そろって「え?」と返してきた。
「あの時助けてくれましたよね?」
「うん、最初ね。あれはスライムが勝てる数でかつ増殖モンスターだったから駆除しただけ。トリルが生きてたのはただの結果。ツァーリの毒も僧侶が居てくれるなら元を消せると考えたけど近くにトリルが居ただけ」
「お前はさー」
デスティン呆れ顔。
「決まったパーティーをもう組む気はない。やる事があるしね」
「やる事って何?」
何も言わないトリルの横でジトっとした目で訊くプリムラ。
「借り物の魔法工芸品を返しにいく」
「分かった。ついてく。何処にだって行くって言ったもん」
プリムラが即答。
「……命の補償はしない」
「行きます。プリムラさんと一緒に。勝手に行きます!」
トリルまで自棄になった。
「勇者候補生は『指定迷宮』の攻略が目的。寄り道して良いのかな?」
「私の勇者候補生も強要です。私だって嫌ですよ!」
収拾がつかない。
リッキーさんがここでプリムラの鞄を受け取る。
「プリムラさんは自分の自由を考えた結果が冒険者なのですね?ならトリル、彼女を冒険者にしてあげなさい」
「はい」
「うん。行こう」
トリルとプリムラはギルド登録のため受付に行ってしまう。
「クーラン。プリムラさんの荷物を預かっている間はここを離れてはいけません」
「放っておくと死にますよ?」
「貴方は放っておけませんよ」
「何を根拠に?」
リッキーさんの言っている意味が分からない。
「貴方は街の被害を減らすため竜の毒の根本を断ったとトリルから聞きました。私達はすぐ近くの人が殺される中逃げ延びた人間です。本当は近い者、弱い者が死ぬ事を避けたがっているのでは?」
「おっ。毒が残ってた方が何度も儲けられたんだよなー」
デスティンはリッキーさんの言葉を受けて考え込む。
「……買いかぶってます。殺す力欲しさに冒険者になった人間ですよ……」
うなだれて、ただ二人が帰るのを待つしかできなかった。
―――
「クーランの魔法なかった。トリルともクーランとも違う魔術士になったよ」
魔導書を見せてくるプリムラ。
「よりにもよって生存性の低いものを選んだね……」
僕はプリムラの魔導書の中を読む。
ファイアボールとマップ、とりあえず使いやすい物が二つ。
「それじゃ、荷物を売ってお金にしよう」
プリムラはリッキーさんから鞄を受け取り、僕を見る。
「クーランの地図。リデンの印あったよね。あれ避けて売るから貸して」
「地図か。マップを使ってみよう。これは自分が歩いた周囲を地図としてセットのマップブックに描く魔術だよ」
「使って良いの?やってみたい」
プリムラは鞄をトリルに預けて嬉々として二冊の本を開く。
「マップ!!」
「声の大きさは関係ないよ」
でもしっかりとプリムラのマップブックには狭い地図が浮かんでいる。
「しばらくは閉じても良いよ。時間中は勝手に描き込まれるからね」
「何処に行こうかな?」
「まずは靴が買えて服を売れる所。その靴はまともに歩けないよ」
近くの古着屋に着くと僕が持ってた鞄を女の子二人は受け取って中に入る。
「プリムラさん、これは何ですか?」
「ブラジャー。これが無いとおっぱい崩れてぺたんってなっちゃうよ」
「買います!」
「持ってなかったの?」
服の売り買いを終えた二人。
プリムラはさっきまで着てた服も売って動きやすい服を選んでいた。
スカートが短く露出が多い気がする。
次は旅用の道具。
こういった物になると冒険者向けの店になる。
武器防具もある店を選んだ。
残った私物をほぼ全て換金していくプリムラ。
意外と良い値になったようだ。
火点け、松明、水筒など割れない食器、作業ナイフ、毛布。
「毛布だけで寝るの?こっちの寝袋は?」
「それは疑似棺桶。襲撃ですぐ出られる毛布を使う」
道具を一通りそろえて武器防具。
自分に合ったものを探していた僕にプリムラが駆け寄る。
「魔法売ってもらった」
「何処の誰!?」
「あっち」
慌てて案内された場所に行くと誰も居ない。
「……その紙を魔導書に置いて書かれている言葉を読んでみて」
言われた通りのことをしたプリムラだが『何も起こらない』。
「魔力感応インクを使わず描いた偽物。詐欺だよ」
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




