第16話 勇者候補生の招集
朝、顔を洗うために井戸に向かうとプリムラとトリルが居た。
お互い何も言えず、気まずい沈黙がのしかかる。
暫くして僕と同じように顔を洗うためリッキーさんが来てくれた。
「まずは顔を洗いましょう。朝食の後で私から話をさせてください」
デスティンはプリムラの顔を見て能天気に笑ってみせる。
「化粧落としてももとが良いなー」
こういったことを言ったらプリムラの機嫌は直るのだろうか?
「化粧をしなくても可愛いね」
「見た目なんてお嫁に出すための価値なだけ」
「あっちゃー。すまん。こりゃこの娘には失敗だったか」
デスティンが苦笑い。
正直、プリムラのことはリッキーさんに任せてしまいたい。
朝食を終え、子供達は友達の家の手伝いに行ったり、読み書きの練習を始めたり思い思いに散っていく。
かなり自由だが誰も自立できそうな道を模索しているように思える。
「では今日どうするかを話しましょうか」
リッキーさんが切り出す。
「バートとボルスの家の事とプリムラさんが今日お家に帰るかですね」
「……帰りたくない」
「はい、では村のご両家の事からですね。私から話すので皆さん付いて来てくれますか?冒険者への依頼では貴方達を頼らせてもらいます」
リッキーさんはプリムラの答えをあっさり了承した。
―――
「俺たちが耕した土地なのに横取り?農奴?」
「本当にそんな目に合ってしまうんですか?」
リッキーさんから荘園の話を聞いた両家は悩んでいるようだった。
いまいち決め手に欠けているのは先生の『経験』を話せないところだった。
どうにか助け船をと思って考え、行先について僕から説明する。
「ドワーフとの共栄圏では国内の大概と農民の価値が大幅に違います。例えば農民、開墾者は広く土地を持てるんですよ。ドワーフの自警戦士はしっかり守ってくれますしね」
「……弟……ボルスには土地を持たせてやれなかった。だから冒険者になったんだよ。さらに下の弟がいる。土地を持たせてやりたい」
ボルスの兄エフゲニーという土地を受け継いだ男はバツが悪そうにこぼした。
「バートもだ。でも手放したらそれこそバートに申し訳が立たない気もする」
「片側だけではおそらく依頼料を捻出するのは難しいでしょう。護衛依頼は人数がある程度要りますから」
僕が両家に答えるとバートの兄モンドは考え込んだ。
「おそらく片側だけでは貴族の指定農家になる資金は残りませんよ」
リッキーさんが説得を試みる。
「……ああ、分かった。これは仕方ないんだ。貴族の指定農家って貴族とこの村で農奴になった人の真ん中だろ。気分が悪くなる」
モンドが折れてようやく両家の指針が決まったところで僕が発言。
「では、ギルドに依頼を出しましょう。両家から一名ずつ代表で現金を持ってついて来てください。残った人は十日ほどの食料や最低限の荷物を見繕ってください。冒険者は最大六人。彼らの分の食料も用意出来ればなお良い」
そしてやってきた冒険者ギルド。
「あらトリル。一人だけ生きてたの?」
そんな棘のある言葉を投げてきたのはハーバンズパーティのラヴィーナだった。
トリルと同じ僧侶なのに印象が全然違う。
「依頼を出してしまおう。招集まで時間があるだろうからね」
トリルとリッキーさん、依頼人両家を受付に送る。
「クーラン、また勇者のおこぼれ狙い?」
ラヴィーナの矛先が僕に向いた。
「僕は一人だよ。成り行きで関わっただけ」
「霊媒士なんてお呼びじゃないってことね」
笑った後でギルドを出ていくラヴィーナ。
ハーバンズを呼びに行ったのだろう。
「今の人知ってる?なんかいやらしい人」
「勇者候補生のパーティーメンバーだよ。トリルはここで待って招集に応じなければならない」
プリムラの問いに答える。
トリル達が奥からで帰ってきて職員が新しい依頼書を掲示板に貼る。
それを読むため僕達は掲示板へ。
どうやら条件がそのまま通ったらしい。
「あとは受けてくれる人を待つだけだね。……それとトリルさん、ハーバンズが返ってきたみたいだよ。昼食ごろには他の候補生が集まるんじゃないかな?」
予想通りマックスとアランが昼食をとるためギルドの広間へ入り食事を用意する。
「あ、二人ともハーバンズパーティーに会ったよ。今日招集になると思う」
「めんどくさいな。けど行かなきゃ冒険できないしな」
アランの答えを聞いてると入り口から声が聞こえた。
「トリルだけじゃなく勇者全員に媚び売ってるのか。クーラン」
ハーバンズが来た。
―――
俺が王都へ帰ったのは昨日の夕だった。
ファリナが加入してから襲撃の頻度が増えたような気がする。
しかし新人ファリナはすぐに魔法回数を使い切り思ったより苦戦が続いていた。
これだけの戦闘量でもいまだ僧侶の奇跡を覚えていない。
疲れ切った体で床に就き朝を迎える。
俺自身もあの戦闘量で成長をしなかった。
不愉快な気分を紛らわしたのはラヴィーナからの報告だった。
序列最下位だった勇者候補生トリルがパーティーを壊滅させて招集がかかるという話だった。
教王宮に向かうため一張羅を用意し、冒険者ギルドへ。
そこにはクーランと談笑するアランが居た。
ラヴィーナからクーランはトリルと関わっていると聞いていたが。
「トリルだけじゃなく勇者全員に媚び売ってるのか。クーラン」
俺はクーランの尻軽さに呆れながら勇者候補生を見回す。
「とりあえず今は飯」
アランは卓につき安い保存食を図体通りの量を食い始める。
クーランはトリルと村人達、良い服の娘と卓につく。
今、依頼人が居るのが分かると挑発する気が失せた。
全員に無視されるような食事が終わりトリルが招集の張り紙を掲示板から剥がす。
教王宮の一室に案内され宰相様を待つ。
教王様は最初の招集以来顔を出されたことがない。
程なくして宰相様とアランのマネージャーが揃ってお見えになる。
「トリルよ。醜態をさらしたな」
「宰相様。私はもともと戦うことが出来なかったのです。勇者候補生を解任してください」
「ならん。『指定迷宮』の攻略がなされるまで解任はない」
「お前一人なら俺がパーティーに入れてやろうか?」
正直ラヴィーナより美しい。
魅力が魔力になるなら顔の良い方が期待できる。
「で、また味方を切り捨てるのか?ハーバンズ」
「うるさいな。俺より下に口出しされることじゃない。ジム」
ジム=マクスミルザ、どこにでもいる雑魚っぽい名前を嫌い姓から「マックス」と呼ばせている序列三位と反発しあう。
「競い合わせる意味がなくなる。トリルは有志を募って勇者候補生を続けよ」
トリルは願いが聞き入れられずしょぼんとする。
「しかしトリルの実力に疑問があるのは確か。教王様と新たな勇者候補生選定の検討をしよう」
競争相手が増える。
おそらく最下位からだろうが仮に実力があれば俺を追い落とす可能性もある。
あまり面白くはないが国の方針なら何も言えない。
そして全員の評価順位が決められる。
最下位はトリル、三位ジム、二位ハーバンズ、一位アラン。
退室し王城門を出た後で俺はアランに不満をぶちまけた。
「なんでお前が一位なんだ!?」
「無学な戦士が俺より上なはずがない。家を栄えさせるため負けられん」
侍ジムも同じ不満を持っていたようだ。
アランが首をかしげる。
「家を栄えさせる?俺、国から勇者に何かしてくれるって話一度もされたことないぞ?」
「私もです。辞めたいって言ってもただ強制されるだけで」
トリルも頷いていた。
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




