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亡霊と大陸渡り  作者: 石寺 和尚(カズナオ)
カレギア教王国1
15/30

第15話 逃げたい者達

「白兄ちゃん、別の女連れてきた!」


 リッキーさん宅に入るなり養子の一人が騒ぐ。


 バタバタと慌てて奥から出てくるトリル。


「プリムラお嬢様でしたか。ですよね」


「トリル。私、家出したい」


 いつものあっけらかんとしたプリムラの表情ではなかった。


 僕は正直嫌な予感しかしない。


「いったい何があったんですか?どうぞ上がってください」


 応接間のないリッキーさん宅では椅子の数がある部屋は食堂だけ。


「私たちは晩御飯を作りましょう」


 隣の台所へ養子達を連れて行くリッキーさん。


 残されたトリルとプリムラは向かうように座り、僕は壁際で静観の構え。


 トリルと僕の答えは予想では真逆になるだろうから。


「クーランの事でパパ達と喧嘩になったの。クーラン悪くないのに」


 よりにもよって僕の襲撃が原因か。


 トリルは『達』という言葉に反応した。


「セルヒオ様達、お母様もですか?」


「ママは『見てるだけ』、奉公人達」


「あー、あれだ十八年前に騎士爵買って、十五歳でこの子産んだんだっけか。玉の輿なら何も言わないわな」


 デスティンが奥方の人物像を難なく言い当てる。


 僕は関わりたくないので発言せず、トリルが聞き役になっていた。


「奉公人さん達ですか?」


「見た目が良いから嫁に出せるだけの娘が口出しするなって」


 薄々感じていたがセルヒオはプリムラに商売を教えてなかったのか。


 平民から騎士になったセルヒオ一人の才覚はよほど高かったのだろう。


 しかしセルヒオは実利を優先し家庭より、商人、奉公人を重く見ていたようだ。


 この姿勢を感じ取りプリムラより上と自任した奉公人達がかさにかかって強く出たのか。


「十五になるまでに何かを学んでいれば良かった。僕は魔法職工を修行、この村の成人する前の子も畑を耕している。お嬢様……プリムラはただの『セルヒオの子供』にすぎない」


 僕の事が原因だからこそ僕が突き放した。


「クーランさん!?貴方がそんなことを言っては駄目でしょう!」


 トリルが慌て、プリムラは泣き出す。


「僕はあの食事の時『これ以上は必要ない』と言っておいたんだけど。セルヒオに何も言わなければ良かったんだよ」


「命を狙われたんでしょう?それなのになぜそんな他人事みたいに!?」


「結果で言えばこっちは生きてたし殺した側。そもそも冒険者は何処かで殺されて死ぬ者。まぁ、街中で人殺しすればどうなるかセルヒオが思い知っただけで良いかな」


「そーなんだが。もーちょい言い方をな」


 デスティンは今の状況に呆れてしまっている。


「パパの子供なだけ!嫁に出せるだけ!パパのお妾さんいっぱいいて弟妹いっぱいいる!ただ最初の妻と子供の見た目が良かっただけ!それ言われてもママ『見てるだけ』!私、貴族のお嫁になってママみたいに『何も言わなくなる』の?」


「セルヒオは実利のある相手を選ぶよ。生きていくなら安心だよ」


「いや!」


「貴族なのに?」


 全員が押し黙った。


 ただプリムラが泣いている。


 この沈黙を破ったのは部屋の外からだった。


 リッキーさん一人が食堂に入り僕を諭した。


「クーラン……プリムラさんはセルヒオの『女牢』から産まれた、別の貴族の『女牢』に送られる娘さんなのですよ」


 僕が見てなかった現実を見た言葉をごく静かな口調で。


「……?……あ……」


 睾丸を焼かれた奴隷に見せつけるため『女牢』は広間の中央に鉄格子だけで区切られていた。


『世襲奴隷』はすぐ隣の牢から母達を見せられていた。


『何も言えず』ただ領主に嬲られる不幸な女達だった。


 産まれてきた僕達も不幸だったはずだ。


 貴族だから違うと思っていた。


 僕とプリムラが変わらない?


 母とプリムラが変わらない?


 睾丸と左腕が今焼かれたように熱い。


 恐る恐る袖をまくると上から焼き潰したはずの焼き印が見える。


 冷や汗が滝のように流れ動悸が早くなる。


 汗が出ているのに頭にも熱が回って考えがまとまらない。


 どうしたら良い?


 何を言えば良い?


 正解は何?


「クーランさん!?ひどい汗と……熱?大丈夫ですか!?ヒールを!」


「やめて!?この火傷は……触らないで!」


「体の傷は問題ではないのです。トリル、今は晩御飯を手伝ってください」


 リッキーさんが残りトリルは訳が分からないまま台所へ。


「一度泊めてくださったのだし、今夜はプリムラさんも泊まってください」


 僕が予測していた通りのトリルの言葉。


 これを止める気力が今ではわかない。


 僕とプリムラは何も考えられないまま、デスティンとリッキーさんが何も言わずに僕達二人を見守っていた。


―――


 プリムラはトリルと女児部屋へ。


「クーランさん。昨日の夜逃げの話があります。大丈夫そうですか?」


 リッキーさんに呼ばれた。


「……プリムラと別の話題なら……」


 応えようとリッキーさんの自室に入る。


「皮肉なことですがバートとボルスの葬儀を終え、彼らの家に遺産が入りました。まずはこの両家へ事情を話そうかと考えています」


「人数は?」


「両家合わせて七人、皆健康です」


「農家の足なら街道を歩くことは問題ないでしょう。下手な荷物は持たず、食料を冒険者分も用意すれば……2000クロスあれば良いかと」


「結構かかりますね」


「護衛は人数が要りますし凡そ十日の旅程です。準備できそうですか?」


「説得してみます」


「……そうでした。徴税日が。亡くなった二人からはトリルさんが報告した時点でギルドから徴税が行われています。次の徴税日で督促されても彼らの分は二重で払わないように付け加えてください」


「そんな方法まで使ってきますか。必ず伝えましょう」


「落ち着いたか。頭が切り替わってやがる」


 デスティンが笑う。


「おそらく荘園の話は徴税で村からお金が吸いあがった直後を狙ってくるでしょうね」


「急がなければ助かる人が少なくなりますか」


「作物そのもので冒険者を雇うことは出来ません。急いで換金しなければ逃げ遅れることになりますよ」


「今の薄利をどう抜け出すかですね」


「新しい市場を総当たりで探すしかありませんね。件の貴族が圧をかけられない別貴族が取り仕切る市場を。しかし農民の身の上を気にする貴族がそもそもいるのかどうか」


 ここでドアがノックされる。


「お義父さん。プリムラさんは疲れて寝ましたよ。クーランさんはその、大丈夫ですか?」


 トリルが部屋に入ってきて、心配そうに僕を見た。


「僕なら今は大丈夫。プリムラさんの事は迷って答えは出せないけどね」


「既存の生産者とのトラブルも心配です。値下げ合戦もあるでしょう」


「一か所に集まらず、同じ作物はばらけるように。また各農家は日ごとに市場を変えれば多少はましになるかと」


 僕がリッキーさんに答えるとトリルは話の内容を聞いてきた。


「市場を変える?何か困ったことがあったんですか?」


「……リッキーさん。どうしますか?」


「トリルには話しておきましょう」


 リッキーさんは僕達の素性を漏らさないように、貴族の荘園、その結果起こる村民の農奴化、対策として夜逃げの計画を話す。


「依頼料なら私が出しますよ?家庭の大きさにもよりますが……」


「それはやめた方が良い。取り合いで争いになるのは目に見えているよ」


「一先ずはバート、ボルスの家。周りには私から事情を話して市場を探してもらいましょう」


「お義父さん、私には何か出来ませんか?」


「最初の両家の依頼に立ち会ってほしいかな。バートとボルスの二重徴税をきっぱり断れるのは報告者のトリルさんだけだよ」

2026/8/22追記

第一章を書きあがりました

一話三千文字程度で三八話になります

これから第二章の肉付けを行います

皆様にお願いがあります

この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス

誤字の指摘、その他の感想を受け付けております

全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています

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