第14話 魔法職工者(2)
リッキー先生と共に食堂に顔を出す。
トリルはしばらく非番なのに今日は法衣だった。
「バートとボルスのお葬式です」
「彼らもこの村の若者でした。まさか遺体が返ってこないなんて……」
「冒険者は引退出来なければそういう終わり方ですよ」
「もーちょっと情を出せよ。お前は」
トリル、リッキーさん、デスティン誰もが白い目だった。
「これは失礼。僕はリデン商会との先約のため参列できません」
「そうでしたね。お仕事頑張ってください」
まだ開店前の商店を訪れると先日の打ち合わせした部屋に通された。
今日のヤコブはリデンロゴのマントを羽織っていない。
「あまり警戒されたくないもので。今はリデンの名を出さないで頂ければ」
「お嬢様まで?」
今日もプリムラは良い服で付いて来るようで。
「私は魔法工芸を見たいだけ」
「はい、お嬢様。それで押し通してくださいませ」
「ではどの工房から見ますか?」
「加熱の茶器からお願いします」
ヤコブは自分の地図を見て話した。
今工房を所有しているライバル商会名が調べ上げられているようだ。
一方、プリムラが見ているのは僕の地図のトリルの丸。
「トリルなら今日はお葬式に参列してるよ」
「今日は来れないんだね。神様、旅立つ死者に安らぎがありますように……」
「見ろ。普通こーだよ」
プリムラの祈りにデスティンが頷くが、旅立ってない亡霊に諭されるのはなんだろう?
―――
最初の工房に入り「御無沙汰してます」と一言告げる。
しかし魔法職工者達の視線は後ろの二人に集まっている。
「工房長。今日は王都案内の依頼です」
「魔法工芸、見たい」
プリムラの言葉で、職工者たちは作業に戻っていく。
普段通りに決められた品質を作る者。
良い服着たお嬢様に良いところを見せたいと口数多くアピールし自己流アレンジを披露する者。
中にはそれで失敗する者。
様子見だった工房長は隠れて僕を呼んだ。
「坊主、ありゃスパイか?」
とっくに警戒してるしリデンより付き合いのある工房長には、黙って頷いた。
「この時間だとウチが最初か」
「そうですね。手あたり次第魔法職工者を引き抜くようです」
暫く考えた後、「どちらに傾いても良い」と工房長は目立たず現状維持の製品作りに没頭した。
次の風通しのアミュレット工房。
こちらの工房長はぶっきらぼうに言った。
「ウチの品は帆船に風を送り、館を涼しくする。その大本の建造物が分かるまでデザインはしないんで」
僕はヤコブに耳打ち。
「販路制限に直面しているからこそですね」
「このスタンスで工房が持つのはやはり買い手のカネがあってこそですよ」
金持ち狙い戦略はまだ継続中の様だ。
目の前で作らないのでごく短時間の訪問だった。
三番目、白色ランプ工房は工房長自身がアピールをしている。
僕には何も聞かず、己個人の技術をひけらかしたいタイプだった。
しかし工房長に上った技量は本物。
「虹色に変色するランプでございます」
「すごい!綺麗!松明より広い!」
プリムラ大はしゃぎ。
芸術的な要素はともかく元の色が見える白が一番実用的なんだけどね。
しかし「これはいける」とヤコブが話を切り出した後態度は豹変。
「雑魚商会はお呼びじゃないんだよ!」
三人で工房を出た後にヤコブを慰める。
「……初のカレギア東部独占工房。これを話す前に人が分かって良かったですね」
「逃がした魚は小物……。そうですな」
ここで昼食をはさむ。
「お嬢様は干物の魚しか食べたことがないと仰られましたが、王都の一部の飲食店では食べることができます」
「保冷箱ですな。今はライバルですが」
「食べたい」
「値は張りますよ。沿岸部とは大違いです。僕はいつも通りで」
「また虫食べるの?」
「はい」
―――
保冷箱工房は商人曰く大手商会運営だそうでかなり緊張しているようだった。
中に入るとせわしなく職工者たちが動いている。
「おいクーラン、こっち来て働け。増産だ」
職工者の一人に引っ張られて僕自身も製作に携わることになった。
シャード箱から青と透明を取り出す。
しかし工房長が条件を付けた。
「お前は透明で粘土でも出来るだろ。青は他に譲れ」
悪意のない信用。
笑わず頷き、透明シャードのみを石臼で挽いて粉に砕く。
粉砕したシャードを専用の鏝に入れ、粘土を薄く均一に伸ばす。
粘土板中央に鏝から零れるシャード粉末で円を描き魔力を通して真円に形を変える。
真円の内に魔方陣を描き外に文字を書き込む。
シャード粉末の書き込みを全て終え、間違いのないことを確認した後、更に魔力を通してシャードを透明のガラス質に溶かし戻す。
さらに上からローラーでガラス質シャードを割らないように粘土に埋め込む。
箱の底皿の大きさに合わせて切った粘土板を窯に移して焼成。
「次作らないの?」
「小僧は焼き上がるまで窯から離れられん。邪魔をするなよ」
横で見ていたプリムラに工房長が話す。
「透明のシャードは腕のない奴が焼くと火の赤になる。俺たちの保冷箱は青シャードだ。シャードに火の魔力が入らないように制御しながら焼いている」
ヤコブがしばらく考え聞いた。
「難しいのですか?」
「腕の悪い者は最初から焼いた後の陶器皿に青で書き込む。シャードがはげやすい粗悪品だ。腕が上がれば粘土板に埋め込んで焼くんだがたまに青も赤に乗っ取られる。窯の番が出来て晴れてここの一人前だ」
「焼けました。染めてください」
職工者の一人が陶器皿に埋まったの透明なシャードに水の魔力を込めると青の文字と魔方陣が浮かび上がった。
「やっぱり、どれもどっかで見たことある気がするな」
デスティンが考え込む。
「小僧に出来ないのは精霊と交信することだけだ。随分と良い師に若い頃から仕込まれたようだが、魔術士でも僧侶でもない道を選んだのが不思議なぐらいだ」
「クーランすごい?」
「もし小僧が魔術士なら戦闘魔法職として鍛えた魔力が反映されて持続時間が跳ね上がっていただろうな」
「彼もですが、できる限りの人数を引き抜きたいのです」
「商会の縄張り争いか。どうでも良いが海から離れられんぞ?」
「ガレカからの川と湖はありますよ」
「染めてください」
「教える側ほどの腕は安売りせんぞ」
二枚目の皿が焼き上がると工房長はシャードを染めるために席を立った。
工房長の後ろを付いて来たプリムラが尋ねる。
「クーランが染めるとどうなるの?」
「僕が染めると使えなくなるよ」
「やるなら屑シャードでやれよ」
僕は書き損じの廃棄品の一枚を取り出しプリムラに見せる。
「水の青、火の赤、土の黄、風の緑。魔術士の基本四色。光の白が僧侶。午前のランプ工房だね。そして霊媒士の僕は闇の黒」
廃棄品に黒い魔方陣と文字が浮かび上がる。
「これは水の精霊用に書かれていた物の失敗作だから色が付いても意味がないけど、そうだね……基本、僧侶の奇跡が逆転した死霊術の作品なんて生活には活かせないかな。この国に出回ってなくても誰も困ってない」
「武器として相手にぶつけるわけですな」
ヤコブに微笑んで返す。
「この工房は増産。申し訳ないのですが今日の案内は僕はここまでとさせて頂けませんか?」
「工房に入ること自体は簡単でしたな。……では私達だけで次の工房に。……お嬢様?」
「私残る。クーラン、これ何?」
「また我儘を。クーラン殿、あまり遅くなる前にお嬢様を連れ帰ってくださいますように」
ヤコブは僕抜きでもなんとかなると次の工房へ移る。
「クーランとトリルに相談があるの」
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




