第12話 魔法職工者(1)
保存食という選択を捨てて街の料理をプリムラに食べさせ、僕達三人はギルドを出た。
待機命令が出されたトリルも僕と一緒にプリムラを王都のリデン商店に送ることになった。
「トリルももうちょっといいご飯食べたら?クーランはひどすぎ」
「あれはご馳走ですよ。毎日は無理ですよ」
プリムラとトリルのやり取りを背中で聞きながら指定された王都のリデン商店に到着する。
店舗表口から入ると王都の店員に迎えられた。
「いらっしゃい……ませ。プリムラお嬢様」
僕を見てやる気なさげだった店員が後ろのプリムラを見て姿勢を正す。
「はい、ここでいっぱい良い物を買っていこう」
「そう言われてもここは何の店かな?」
プリムラに買い物をねだられるがこの店は僕達には場違い感がある。
「陶磁器」
「それは家庭用。割れ物なんて基本は持ち歩けないよ」
「それじゃ王都地図貸して。リデンのお店チェックしてあげる」
プリムラは僕から地図を受け取るとリデン商会の店に丸を付け始める。
そんな中奥からヤコブが現れる。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「まだ帰らない。今からリデンのお店二人に紹介するの」
「そうでしたか。遅くなりませんように日を分けても良いのですよ」
帰らないというプリムラの我儘もリデンの利益のため許された。
「はい。これ全部リデン」
ヤコブにも手伝われてチェックされた店は地に足つけた人向けの物が近く、旅暮らし用の物は遠かった。
「……うん。やっぱり日を改めよう。冒険者達の店はここから遠いね」
「そっか。それじゃこれからどうしようかな?」
「クーラン殿。明日回る魔法工芸工房視察の打ち合わせをいたしましょう」
ヤコブとプリムラ、三人で話し合い奥の一室に向かおうとするとトリルに一度呼び止められた。
「クーランさん。泊まる寮が決まってないならここに来てもらえませんか?」
プリムラに印のつけられた地図に一か所、郊外の農地に別の色が付いた。
―――
別室の席に着いた僕達はまずお互いのことを質問しあう。
「リデン商会とは何を主に扱っておられるのでしょうか?」
「セルヒオ様がコーリネスより東、ドワーフとの共栄圏から質のいい鉄器、貴金属を仕入れて売り、それを基礎資金としてドワーフが扱う炉の周辺の再現に成功。ガラス陶磁器で大きくなり、今は貴族相手に絹の製作にも手を伸ばしております」
ドワーフとの共栄圏とはカレギア教王国では東、この大陸を南北に走り四か国に跨るガレカ大山脈の周辺区域を指す。
「高級志向ですね。はたしてお気に召すジャンルの工房が見つかるかどうか……」
正直、貴族相手の話には疎い。
「あのポーションの様に貴金属を増やすことは出来ませんか?」
「土の精霊は頑固なので成果だけを増やそうとすると聞き入れませんね。働く者には手を貸してくれますが」
「あの注射器で無限にポーションを増やすことは?」
僕は苦笑いして御師様の教えを話す。
「『無限』は決して人の手に収まりません」
世界が狂った場である『迷宮』で見つけることができる神造道具には『無限』があるのだろうか?
冒険者の中には神造道具を目当てに危険度が外とは段違いな迷宮に挑む者、通称トレジャーハンターも多い。
迷宮の遺物などを売ってギルドの依頼とは別口の収入を得る者だ。
「では、あの二回に分けた注射器の意味は?」
「あれは水の精霊が別の液体と認識したからです。……そうですね、まず果汁を樽で一回増やし、ワインにしてさらに別の樽で一回、蒸留してブランデーでまた別の樽で一回。計三回増やせますね」
酒飲み御師様が実際やってることを伝えてみた。
増幅樽は未来のリデン工房で自力で作ってほしい。
「酒造ですか。なるほど。平民でも食いつきますが……カネを持っているのは高い身分の貴族ですしな」
ヤコブが考え込む間にプリムラが入り込む。
「魔術士と魔法職工者って違うの?」
「そうですね。魔法職工者に限らず非戦闘レベルの魔法使用自体は咎められません。命を奪える、逆に与える、戦闘レベル魔法職は魔導師からの教育が必要になります」
それを聞いたヤコブが口を開く。
「武器は作れますか?」
「……戦闘魔法職と魔法職工者の両立が出来ているなら。ただ戦闘レベルの魔法は精霊や神は慎重になり使い手に回数制限を設けます。そして回数制限付き魔法の製作物は使い手の本来の回数制限以下になり壊れやすく、ほぼ消耗品となります」
たまにスライムの様な普通の武器が通じない敵を嫌がって遠くから、あるいは属性のある攻撃方法が求められる場面はあるけど、使い捨てで高い道具を使っていられない。
戦うだけも技術者の内、素直に現場の僧侶、魔術士を頼った方がいい。
「魔法工芸品はお金のあるなしに関わらず広く流通した方が良いと僕は望んでいます」
どうもリデン商会はお金で成り上がっただけに金持ち相手に拘り過ぎてるように思える。
プリムラとトリルに印をつけられた王都地図を広げ別の色のインクで魔法職工工房の位置と特徴を書く。
新しい王都地図も買わなきゃいけない。
「西部沿岸から海鮮を運ぶための保冷箱。逆にある程度加熱する茶器。風通しのアミュレット。火より白い光を放ち色の識別を容易にする照明。水脈探しのペンデュラム……」
「コーリネスにはないものですが地味ですな」
「これらが非戦闘レベルの壊れにくい魔法工芸品ですが本当に出回ってないのですか?」
「コーリネスでは魚は干物しか食べてない」
プリムラの言葉に頷くヤコブが考える。
「販路が制限されている」
「増幅樽も作られていても売られてはいませんね。そんなことが出来るんですか?」
「貴族の商会ならば可能です。まず間違いなくリデン商会以上の規模と爵位でしょう」
セルヒオが僕を殺して魔法工芸品を奪い取りたかったのはこれもあるのか。
まだ道具を狙った襲撃があるかもしれない。
なるべく早く御師様に返さなければいけない。
「販路が制限されていては現物を参考に作ることは出来ない。ある程度以上のノウハウを持った魔法職工者を引き抜かなければなりません」
「知っている全ての工房を案内しますよ。僕も魔法職工者の端くれ、工房内なら出入りは自由です」
「……クーラン殿は雇われてくれませんか?」
命を狙われた相手に雇われるなんてぞっとする。
考えるふりだけして断った。
「僕は戦闘魔法職でもあります。しかも霊媒師。戦闘魔法職になった者は僧侶なら造物主のみ、魔術士なら精霊のみと交信できる相手が絞られてしまいます。非戦闘魔法職工者はむしろ交信相手が縛られず作れる物が幅広い」
「逆にあなたは武器が作れる、と」
「戦闘魔法を覚えればその魔法の道具の種類が増え、質も上がります。未熟な僕の技量では種類、品質どちらも乏しい。両立の道を選んだ者は戦闘魔法職として成長しなければ作品は埋もれてしまう」
「最高の武器を作るおつもりなのですな」
この発言には思わず笑いが出てしまう。
だがセルヒオの様な勘はヤコブには備わっていないようだ。
「クーランは冒険者を続けるんだね」
プリムラは僕が雇われなくても良い様でなぜか嬉しそう。
「腕を鈍らせないために時間があればどこかの工房で作ることはありますが、冒険者優先ですね」
思えば勇者候補生ハーバンズパーティー所属だったからこそ工房に入る機会は減っていた。
「工房を新規で作るなら人数が要りますよ」
「ご尤も。戦闘魔法職兼業は形が出来上がってからでも良いでしょう」
2026/8/22追記
第一章を書きあがりました
一話三千文字程度で三八話になります
これから第二章の肉付けを行います
皆様にお願いがあります
この作品にはこのタグをつけた方が良い、ルビは毎回振った方が良い、などのアドバイス
誤字の指摘、その他の感想を受け付けております
全てに対応出来るかは分かりませんがコメントをお待ちしています




