表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/55

望まれざる客

「さぁ、盗んだものを返しなさい」


「あっ。大切な木が燃えちゃうよ――!」


「ひどい! 今日はお祭りなのに!」


「里がめちゃくちゃになっちゃうよ!」


「あれは……ゴブリン?」


里の裏手では、群れを成した十体ほどの妖精が釣り上がった目をギラつかせて、ピクシーと対峙していた。尖った耳、潰れた鼻、小柄な体躯。ピクシーと同じく、イタズラ好きで知られるゴブリンだ。


ピクシーたちの反応から見て、ゴブリンが祭りに招待された様子はない。それどころか、望まれざる闖入者には、悪意がありそうにすら見える。祭りを台無しにしようとしているようだ。


「アンタたちが泥棒するからいけないのよ。さっさとこの子たちに盗んだものを返して!」


ゴブリンたちの中央から、少し舌足らずの幼い声が飛ぶ。


橙色の髪をした一人の少女が立っていた。胸を張って威勢よくピクシーを怒鳴りつけている。


どうやら彼女も闖入者の一味――そして、彼女がゴブリンを率いているようだ。


「……それにしてもひどい」


里の裏手は酷い有様だった。


橙色の炎は、里に掛けられた魔法を破壊しただけでなく、木々や花までも焼こうとしていた。雨の少ない風の縄張りに根を張り、逞しく生きてきた命が、無残にも燃やされようとしている。


ピクシーたちは不安げに周囲を飛び回っているが、燃えていく植物を前に成す術がない。幸いにも、火傷を負ったピクシーはいないようだが、これでは祭りどころか、里が破壊されてしまう勢いだ。


「こいつら、月の蜜を隠してやがるんだ」


「フレイア様、あっちも燃やしちまいやしょうぜ」


「オレたちのものを取り返してくださいや」


「あっち? いいわ。燃やせばいいのね」


フレイアと呼ばれた妖精は、躊躇うことなく炎を出現させた。まるで芋でも焼くくらいの気軽さだ。


冗談じゃない。これ以上の炎は怪我をする者が出る。


「やめろ!」


俺は咄嗟に声を張り上げた。


「なによ、アンタ」


「招待客だよ。頼むから、その手の炎を消してくれないか。今日はお祭りなんだ――ピクシーたちの愉しみを奪うのはよしてほしい」


「は? アンタ人間でしょ。祭りの何を知ってるのよ」


「それは――」


正直なところ、よく知らない。妖精の祭りに招かれたのも、ピクシーと会話をしたのすら、俺にとっては今日が初めてだ。


しかし、おいしいお菓子や酒を用意し、招待状を送ってくれたピクシーの気持ちは理解している。


祭りを楽しんでほしい――否、一緒に楽しみたいという気持ち。


「……と」


「と?」


「トンガリ耳選手権とか……」


沈黙が流れる。


フレイアもゴブリンも固まっていた。


ボロ糸交換会の方がよかったか。


「――そうだ、そうだ!」


「クジョウの言うとおりだ!」


「え……」


「この日のために耳をトンガらせてきたんだぞ!」


「楽しみにしてたのに!」


ブー、とピクシーたちが一斉に唇を鳴らす。大ブーイングが起こった。


「そんな……」


フレイアは目を見開いた。


「……トンガリ耳選手権をするつもりだったの……!?」


なんてことをしてしまったの――と、呆然とした表情で呟く。


え、そんなに?


何だかよく分からないが、トンガリ耳選手権は、妖精にとって大きな意義を持つようだ。


「ボロ糸交換会も」


「そう……」


そっちはあんまりだった。


「フレイア様、しっかりしてくだせえ」


「こいつらのしたことを思い出してくださいよ」


「たしかにトンガリ耳選手権は残念ですがね……」


「そ、そうね……ピクシーは盗みを働いたんだもの!」


フレイアは炎を纏った手を里の中央に向けた。


「やめろ!」


そこには、裏手の炎から避難したピクシーたちがいる。


「うるさいわね! アンタには関係ないでしょ。ピクシーが悪いのよ」


フレイアが手を振り上げる。


ピクシーたちは橙色の炎に巻かれ――なかった。



「え……?」



ぽす、と何やら情けない音とともに、フレイアの手から炎が消えた。


「どうなってるの……?」


えい、えい、とフレイアは何度も手のひらを翳す。


炎を出そうと試みているようだが、現れた炎は例の音を立てて、なぜかすぐに消えていく。


「シルフィードの仕業じゃ」


いつの間にか俺の隣に来ていたウンディーネが、呆れ顔で言った。


「火を強めるも弱めるも風次第ゆえ」


眷属の祭りを台無しにされれば、いくら気まぐれなシルフィードでも黙ってはいない。



「さて――フレイア!」


「げっ。ウンディーネ――!?」


怒りを帯びたウンディーネの咆哮は凄まじかった。


たった一言名前を呼んだだけで、その場の全員が感電したかのようにビリビリと痺れ、里を襲った炎は瞬時に消え失せた。


「な、なんであなたがここにいるのよ!?」


「わらわは祭りに招待されたのじゃ。そなたこそ何をしておる」


「わ、わたしはこの子たちに相談されて――そうよ、ピクシーはゴブリンから月の蜜を盗んだのよ! だから取り返しに来たんじゃないの」


「……ほう」


ピクシーがゴブリンから盗みを働いた――?


月の蜜は、祭りのために用意されたお菓子だったはずだ。盗んで手に入れたものを招待客に配るだろうか。それに、祭りのお菓子は主たる精霊の祝福を受ける。他の妖精から盗んだものに、シルフィードが祝福を授けたというのか。


「それでそなたは、哀れなゴブリンのために立ち上がったというわけか」


「そうよ! みんな困っていたもの」


「みんなとはあやつらのことかの」


「え……?」


フレイアはウンディーネの指す方向に目を遣り、唖然とした表情を浮かべた。


ゴブリンたちがそそくさと逃げている。


「ちょっと、みんな――どうして逃げるのよ! ねぇ!」


ウンディーネは溜息を吐いた。


「心配せんでも誰も逃がさぬ」


逃げるゴブリンに向かって、大精霊は水の輪を飛ばした。投げられた輪はだんだんと大きくなり、一体残らずゴブリンを内側に捉えると、瞬時に収縮し戻ってきた。


捕らえたゴブリンたちを連れて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ