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クジョウ・リポート ~ジャーナリストもどきの異世界探索記録~  作者: 白砂ヨウ
第三章 クジョウ、ドラゴンの仲裁に入る
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長の寝床 その一

「妙だな」


「え?」


「長の代替わりがあれば、まずは我に話があるはずだが――」


ふぅむ、と、サラマンダーは記憶を辿るように唸った。


「覚えがない」


再び焔の洞窟である。


ドラゴンの里で見聞きした話を伝えたところ、サラマンダーの反応は意外なものだった。イグナルのように若いドラゴンの安否を案ずるどころか、そもそもゴウザルが激昂している理由――長の代替りに心当たりがないという。


ちなみに、帰ってきて早々、「思っていたよりもちゃんとしていた我に感動したか」と嫌味を言われた。さすがは地獄耳・オブ・自分の悪口オンリーである。しかし、今回は灼熱の怒りを向けられることはなかった。一応保険は掛けておいたが、まさか本当に、ドラゴンが火焔を出そうとするとは思っていなかったのかもしれない。そういえば、何となくバツが悪そうにも見えた。


「そもそも代替わりってよくあることなの?」


「寿命と気性によるな。長命でも内輪で競う者どもにはよくあるが――ドラゴンは滅多にない。むしろ、頻繁では困るのだ」


寿命の短い種族はもちろん、長命であっても、派閥争いをしている種族は、長の入れ替わりが激しい。

だが、ドラゴンの場合は少し事情が異なるようだ。


「奴らは力のある種だ。それゆえ眷属も多い。長の交代は眷属に与える影響が大きいのさ」


「へぇ……」


つまり、ドラゴンの長の交代は、サラマンダーの眷属――否、この世界にとって、わりと一大事だということだ。


だとすると、報告を受けたサラマンダーがド忘れしている可能性はなさそうだ。自ら影響力のデカさを語っておきながら、うっかりはないだろう。


「じゃあ、代替わりの予定はないってこと?」


「誤解か、あるいは偽りだな」


サラマンダーは淡々と言った。


偽り――部外者の俺だけならまだしも、主にも話が伝わると分かっていて、嘘を吐いたというのか。


「さぁな。なんにせよ、長と話をする必要があるようだ」


ドラゴンの長が目覚めるのは、五〇〇年に一度。ゴウザルとイグナルの話では、今年はその当たり年のはずだ。だが、少なくとも今のところは、まだ眠りから覚めていないようだ。


「起こすとすこぶる機嫌が悪い――が、俺の顔に免じてもらうとしよう」


俺の肩から火の子を回収したサラマンダーは、そのまま流れるように俺を連れて、焔の渦と化した。瞬きの一瞬で、俺は長の寝床である洞穴に足を踏み入れていた。





当たり前だが、長の寝床はドラゴンの里の中にある。

イグナルと別れて一時間も経たないうちに、俺は再び、ドラゴンの里に戻ってきたわけだ。ただし、今回はドラゴンの主たる精霊も一緒だ。お調子者で都合のよい地獄耳ではあるが、やはり大精霊の一角――一緒だと心強い。なにより、移動が楽だ。あの高所恐怖症キラーアトラクションに乗る必要がない。


「なんだ、妙な顔をして――探検好きか」


「いや、違うよ」


洞穴だしな、とサラマンダー。

俺は秘密基地にワクワクする子どもか。


「それはそうと――」


サラマンダーが片手を振る。俺の全身がオレンジ色をした薄いベールにすっぽり収まった。


「纏っておけ」


「え? なにこれ」


なんとなく温かい。防寒対策の一種だろうか。ゴウザルやイグナルの棲家では、特に寒さは感じなかったけれど。


「じき分かる。長はこの先だ」


薄暗い空間をサラマンダーは迷いなく進む。その後を小走りで追うこと、しばらく。


「……ん?」


途中、何やらゴォオと風鳴りのようなものが聞こえ始めた。歩みとともに音は次第に大きくなる。行き止まりに近づく頃には、あまりの大きさに空間全体が震えていた。


「長だ」


サラマンダーが前方を示す。洞穴の行き止まり、大きく開いた空間に、堂々たる巨躯が横たわっていた。ほんの一時間ほど前、ゴウザルやイグナルの巨大さにも圧倒されたが、その比ではない。彼らが丘ならば、長はちょっとした山だ。


そして、その姿を視界に入れて気付いた。


「――これ、いびきなの!?」


今や洞穴全体を震わす音は、五〇〇年眠り続ける長の貫禄たっぷりないびきだった。


「さて、クジョウ――心しておけ。こんなものではないぞ」


「え?」


サラマンダーはさらりと言うと、就寝中のドラゴンに向かって、ひょいと片手を振るった。


ゴォオ、ゴォオ、ゴ――ォ。


長の規則的ないびきが止まる。


次の瞬間。


ガ、ガ――ガァアアア!


苦しむような叫びを上げ、山が揺れた。


「え――なに!?」


「叩いても起きんのでな。奴の体内にある焔を燃え上がらせた」


「それって……」


身体の内部を発火させたということか。いくら火焔を吐く生物とはいえ、なんという起こし方を。


「ガ――――」


ブルブルブル。


一際大きな震えを最後に、苦しむ声は止んだ。


思わずホッと息を吐いたとき、サラマンダーが間髪入れずに言った。


「クジョウ。耳を塞いでおけ」


「え?」


ビリビリビリ。洞穴の空気どころか岩盤そのものが揺れている。


なにかくる。


精霊の忠告に従い、俺は慌てて両手で耳を塞いだ。


「――――ギ@#×オ$ブ%#@?!!」


「うっ……」


もはや言葉にならない大絶叫が耳を劈いた。

洞穴の壁が、天井が、ガタガタと不穏な音を立て、剥がれ落ちる。


前方の山は今や、隆々たる筋肉を顕わにし、四脚で攻撃態勢をとっていた。身体を起こした姿が巨大すぎて、その表情まではよく見えないが、猛烈な怒りがこちらに向いていることは分かる。

むしろよく見えなくてよかった。多分失神している。


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