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クジョウ・リポート ~ジャーナリストもどきの異世界探索記録~  作者: 白砂ヨウ
第三章 クジョウ、ドラゴンの仲裁に入る
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イグナルの言い分

「よくぞ参った。サラマンダー殿の遣いよ」


「ど、どうも……クジョウです。よろしく」


「我はイグナル。強欲なゴウザルめから事情は聞いているだろうが――今年の竜血酒は駄目になった。その件で少々揉めているところだ」


「少々……」


ブラウニーの里の破壊も、ドラゴンにとっては少々の範疇か。


里の入口付近で出会ったブラウニーが、汗を拭いながらも、どこか達観した様子だったのを思い出す。ブラウニーたちにとっては、今回のことは天災のようなものなのかもしれない。


どこに怒りをぶつけようもない、圧倒的存在による暴力。だが、常に強者たるドラゴンからすれば、力なき者が眼中に無いのもまた、自然なことなのかもしれなかった。そして、力なきクジョウもまた、そのことについてコメントする立場にはないと理解していた。


「――若いドラゴンの処遇を巡って、あなたとゴウザルの意見が合わないみたいだね」


「さよう。若さとはいえ、罪はある。だが、命をもって償うほどのものではあるまい」


「え……命?」


イグナルはくるりと目玉を回した。知らないのか、と言わんばかりの表情だ。


「ゴウザルは極刑を主張している」


「……いや、いくらなんでもそれは……」


種族の祭典を台無しにした――若いドラゴンの所業をゴウザルはそう表現していた。己が種の歴史と誇りを大切にするドラゴンにとって、その行いは死に値するということか。所詮はたかが酒、たかが祭り――命を張るほどのものでは――と言いたいところだが、それは俺の人間的感覚であって、妖精たちの理とは馴染まないのだろう。


否、人間であっても、儀式的価値に重きを置く――文字通り、命を懸ける者たちもいる。それに、イグナルはゴウザルの意見と対立しているのだ。これは種の違いではなく、個々の価値観の違いが大きいのかもしれない。


「我もまた、我が働きを無に帰した罪を問いたいところではあるが――(たま)など欲しくはない」


「我が働き――?」


「竜血酒の醸造は代々我が一族が担っているのだ。件の若者が暴れた酒蔵も我が所有している」


「へぇ……」


丹精込めて作った酒をすべて駄目にされた――件の若いドラゴンに対して、最も腹が立つのは、三〇〇年に一度の大仕事を終えた当事者――イグナルが妥当な気がするが――そのイグナルよりも、ゴウザルの方が重い罰を求めているのはなぜなのか。


「祭典のことは聞いているか」


「長の代替りがあるんでしょ? それを祝う祭りって聞いたけど」


「ゴウザルが激昂している理由はそれだ」


「え――お祭り好き……?」


意外にも、イベントでは俄然張り切るタイプか。お祭り男ゴウザル。法被を着たドラゴンが軽快に踊る姿が頭に浮かぶ。


「違う」


「ですよね」


極刑を主張するお祭り男なんて、ハッピーのカケラもない。


「長の代替りだ。ゴウザルは新たな長になるつもりなのだ」


「……それを邪魔されたから、怒っているってこと?」


「さよう」


イグナルはため息とともに頷いた。そして、クジョウは少しよろけた。


よりにもよって真下に向かって吐かなくてもよくない?

『ドラゴンの吐息』は立派な攻撃だ。


「現長は――普段は眠りについている。目覚めるのはおよそ五〇〇年に一度だ。今を逃せば、代替りは一五〇〇年先になる」


「……代替りには必ず竜血酒が必要なの?」


一五〇〇年後は、長の目覚める周期と竜血酒の醸造が重なる年を指しているのだろう。


「ていうか、今回は竜血酒がダメになったって話だったけど――祭典もなくなったってこと?」


長の代替りは、種族にとってわりと大きな出来事なのではないのか。任期制なのか、あるいは当長の自由裁量なのかは分からないが、代替りするには事情があるはずだ。華々しい祭典で盛り上げたい気持ちは分かる。しかし、仮に酒がなくとも――極端な話、祭典そのものがなくとも、代替りは遂行されないのだろうか。


「愚を申すか――我らはドラゴンであるぞ。格式を誇るは当然のこと。そこに我らの酒がなければ話にならぬ」


「そ、そうだよね……!」


瞳孔全開のイグナルに凄まれた。辺り一帯が震えるほどの圧に鼓膜をやられながら、俺の耳は、イグナルの大きく開いた口の奥でカッと鳴った音を捉えた。


今、火焔出そうとしなかった?



――火焔は問題ない。お前がドラゴンの里を訪れている間は、使えんようにする――。



「……サラマンダーが思ってたよりもちゃんとしててよかった……」


「む……?」


妙な顔で首を傾げるイグナルを前に、俺はホッと息を吐いた。イグナルは焔が出せなかったことを不思議に思っているのだろう。


それにしても――いくら俺が無知な礼儀知らずとはいえ、主が遣わした相手を攻撃しようとするとは。自慢じゃないが、この世界に俺ほど弱い存在はそうそういないのだ。クジョウ相手に火焔は威嚇では済まない。


ドラゴンはプライドが高い。そこを刺激されれば、瞬時に冷静さを失ってしまうようだ。プライドが優先順位を崩壊させる。サラマンダーの言っていた「苦手」が少し分かった気がした。


「――つまり、長になる機会を潰されたからゴウザルはそんなに怒っていて――イグナルはそれを止めようとして、ケンカになったってことでいいのかな」


「さよう」


イグナルは鷹揚に頷いた。


「なかなかよい理解だ」


満足気に口元が緩んでいる。一分前の激昂が嘘のようだ。

マジでドラゴン分かんない。


「……うーん」


ドラゴンの情緒はさておき、イグナルとゴウザルのケンカの理由がそういうことだとすると、落とし所はどこに――否、とてもじゃないが、一朝一夕にドラゴンの気質は把握できそうにない。これは、見聞きした話をもって、彼らの主であるサラマンダー君に判断を委ねた方がよさそうだ。


しかし、そうなると、この話にはもう一体、当事者がいる。


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