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家出娘の告白

「……つまり、ロミジュリ的な?」


「む。ろみじゅりとは何だ」


我の知らない言葉で理解するなと、よく分からない理由で注意してくる精霊はさておき、セイレーンの告白である。


「それって正直に言ったらダメだったの?」


仲間は本気で心配していたよ、と続けようとして、俺は口を噤んだ。


俺はまだ、妖精の世界を把握していない。島のセイレーンは、ケルピーをあまり親しい存在ではないと話していた。おそらく何百年もの間、同じ精霊の眷属であるにも関わらず、その程度の付き合いなのだ。このあたりは、昨日今日初めて妖精とコンタクトを取った俺が容易に理解できるものではあるまいし、何より仲間が心配していることは本人が一番よく分かっているだろう。


「……嘘は吐いていないのよ」


「え?」


「みんながどう想像しているかは、予想がつくけれど……」


嘘は吐いていない。

セイレーンはもう一度、小さくそう言った。


たしか、島のセイレーンから聞いた話では――。


――ケルピーにやられてしまったから、帰れないって――。


「……やられたのよ。ハートをズドーンと」


「あぁ……」


つまり。当事者による事の真相はこうだ。


セイレーンはケルピーに釣られた――それは間違いない。しかし、その後の展開は、島のセイレーンの想像とはまるで異なり、セイレーンはケルピーに恋をしてしまったのである。そして、ケルピーもまた、セイレーンの気持ちを受け入れたというわけだ。


だが、恋仲になったから島を出ていきますと、そう単純にはいかない事情があるのだろう。そしてそれは、どうやら当事者に解決できる範疇を超えているようだ。


俺がケルピーと話をすれば、事の真相が分かってしまう。セイレーンにしてみれば、ケルピーと一緒になる未来が容易に想像できない以上、二体の関係がバレてしまうことは、事態の悪化を意味していたのだろう。だが、それはもちろん、ケルピーに無理やり結ばされた契約に反するからではない。元より二体の間に主従契約など存在しないのだから。


サラマンダーの言った「半分アタリ」はそういう意味だったのだ。


「別に犬猿の仲ってわけではないんだよね。それでもダメなの?」


「そうね……」


どうにも歯切れが悪い。そして、どういうわけか、セイレーンはサラマンダーにチラチラと遠慮がちな視線を送っている。


「聞かんな」


「え?」


「異種族の婚姻さ。あまり耳にせん」


「……それって、例が少ないってだけ――じゃないんだ?」


サラマンダーはなぜか、面白いものでも見つけたような目で、口角を上げた。


「人間よ。これは(あるじ)たる――精霊が認めるか否かの話なのだ」


「ウンディーネが――?」


セイレーンとケルピーの主たる精霊――水の大精霊、ウンディーネ。二体の婚姻は大精霊の一存で決まる。


「通らぬと考えているのだろう? ディーネは保守的か?」


サラマンダーがセイレーンに問う。


「……ウンディーネ様は正しいお方ですから……大道を外れた者をお許しには……」


「ふうむ。人間よ、お前はどう思う」


「え?」


「セイレーンとケルピーの婚姻さ」


「どうって……」


なぜ俺に訊く。

異種族の婚姻がどのくらい珍しいことなのかすら、俺は知らない。


戸惑う俺とは対照的に、焔の精霊はどこか楽しそうにこちらを見ている。


「……うーん、まず、反対はしない」


本人たちが望んでいるのなら、好きにさせてあげればいい。それで誰かが傷ついたり、苦しんだりすることがないのであれば、外野や過去は放っておけばいいと思う。


「多様性の時代だし――」


セイレーンと目が合う。鉤爪の彼女はゆっくりと頷いた。


「えぇ……」


「人型にはない癒しをくれたり――」


「そうね……?」


「生きていれば動物に恋をすることだって――」


「…………ん?」


「ん?」


力強くはないが、俺の言葉に頷いていたはずのセイレーンが、困惑した顔を向けた。


いや、だって、セイレーンはケルピーと一緒になりたいわけで、そのケルピーは神々しいまでに美しい馬なわけで――上半身だけとはいえ、部分的に人型のセイレーンとは、やっぱりちょっと違う――現に、セイレーンに呼ばれ、俺とサラマンダーの前に佇むケルピーは、一言も言葉を発していない。馬に徹している――というか、馬だ。


それはつまり、愛すべき動物に恋をしたということ――、


「じゃないの?」


「違う!」


「ふはははは」


いいぞ、人間、と大笑いしながら囃し立てる焔の精霊はさておき、セイレーンは盛大に溜息を吐きながら、ケルピーを指さした。


「ケルピーは人型をとるのよ……」


「え。そうなの?」


「話もできるわ」


「……あ、それはそうか」


そもそもセイレーンは、俺とケルピーの接触を嫌がっていたのだった。


でも、だったらなぜ、ちょっと孤高のサラブレッド感を出して佇んでいたのだ。

もっと異世界初心者の俺にも分かりやすいように振る舞ってほしい。

『クジョウはちょっぴりフマンをあらわにした』



「出会ったときも人型だったの」


「もしかして一目惚れ?」


船乗り相手では百戦錬磨のセイレーンが、不覚にもケルピーに釣られた理由。


「そう。彼、とってもイケてるのよ」


「……へぇ」


姐さんはちょいちょいレトロな表現を用いる。


しかしまぁ、馬の姿でこれほど見る者を惹きつける美しさがあるのだ。人型ではさぞ美形なのだろう。セイレーンが夢中になってしまうほどに。


「ケルピー。人型になってちょうだい」


セイレーンが声を掛ける。次の瞬間、音もなく馬は消え去り、後には一人の男性が立っていた。


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