Breed [Hollow] Blooms 3
死体と瓦礫が撤去され、夕焼けに染まる滑走路を無感情な藍色の瞳がただ眺めていた。
国にとって重要な人物であるブルームス夫妻を失った事と、少なくはない時間と費用を投じたディファメイションの封印凍結。
それらの大打撃を受けたアメリカ国防軍は、スポンサーらの戸惑いを体現するかのように、慌しく作業に従事していた。
その慌しい光景にたいした感情も抱かないまま、レイはポケットの中の残り少ないドル札を指先で数えていた。
まだ7歳のレイは法律のことなど分からないが、両親がいなくなった以上このまま自身が生きていくことが出来ないことだけは理解していた。
先が見通せない自身のこれからにレイが舌打ちをしていると、何かがレイの小さな体を夕日から遮る。
「ようやく見つけましたよ、大した怪我はないようで何よりですレイ君」
そう声を掛けて来たのは短くも長くもない金髪をサイドバックに流し、国防軍の軍服に身を包んだ男だった。
この頃には人嫌いのきらいがあったレイは軍服の男に言葉を返すこともなく、ただ自身より遥かに背の高い男を睨みつけていた。
両親が有名であってもレイはただの子供でしかなく、その自身の名前を知っている人間を簡単に信用する事などレイには出来なかったのだ。
しかしその男はあからさまに警戒しているレイの様子に、咎める事もなく苦笑を浮かべていた。
「早速ですがレイ君、君には今この瞬間にこれからの人生を決めてもらいます。7歳の君にこういうことを聞くのは酷だとは思いますが、軍部が君のことまで気が回っていない今しかタイミングはありません」
男は警戒するように辺りを見渡しながらレイへと問い掛ける。
新兵器からの信頼までを1度に失った国防軍は可能な限りの事実の隠蔽を図るだろう。
そして優秀な両親を失った悲劇の少年を国防軍がプロパガンダに使用出来る才能とするか、面倒な生き残りとして処分をするのか、男には判断がつかないままで居た。
「選んで下さい。1つ、このままここに残り、その身柄を軍部に預けてチャイルドソルジャーとしてこの先の人生を生きていくか。もう1つ、今日付けで軍を辞める私について来て、私がこれから作る会社で傭兵となってご両親の仇を討つか。残念ながら君の人生に戦わないという選択肢は存在しません」
レイはその男が矢継ぎ早に告げてくる言葉に戸惑うも、不思議とその男が嘘を言っているようには思えなかった。
事実被害者達の死体の回収が済んでいるのに、この瞬間までレイに話しかけてきた人間は誰も居ない。
両親ですら厄介者としか思われていなかった自身の行く末が、幸せな物であるとはレイには考えられなかった。
ただそれでもレイは選ばなければならない。
何も考えずにただ利用されて生きるか、自身で選んで利用されて生きるか。
そしてレイはこれが最後かもしれない選択を、自分の意思で選んだ。
「……アンタについて行く」
「その言葉を待っていましたよレイ君。私はジョナサン・D・スミス、君のお父さんは私をジョンと呼んでいました。ですがレイ君はぜひ父さ――」
「さっさとしろよジョナサン、他の奴に見つかると面倒なんだろ?」
「……いいでしょう、その辺もしっかりと教えていくことにします。まずは私の家に"帰りましょう"、掃除が行き届いているとは言えませんが悪くはない家だと思いますよ」
そう言って苦笑を深めたジョナサンはレイの小さな手を握り、レイに今までの人生と決別させるようにその手を引いて歩き出す。
レイは胸中で広がる冷たい不快感に苛まれながら、引き返せない道を歩き出した。




