偏差値8
**** 1年G組の教室
ナイスが教壇に立って王都学校対抗戦の説明を始めた。
「今度、毎年恒例の王都学校対抗戦が開かれるのだけど....」
ズカーン
ナイスがチョークを投げると、寝ている生徒の額に直撃し、生徒はその勢いで気絶した。
「寝ないでちゃんと聞いてね♡ーー対抗戦は王都にある5校によって魔法の熟練度を競うナイスな競技会ね。各校、各学年で代表を選び、戦闘するという極めて単純。代表は各学年から1チーム。チームは4名。各学校で12名ってことねーーこの学校では、各クラスから代表者チームを選び、戦って、一番強いところが学年代表ってことなってるわ」
「他の学校ではどうなってんですか?」
最前列の生徒が聞いた。
「ナイスな質問よ。他校では、先生たちが決めてるわ。うちは生徒の自主性を尊重してるから、生徒の作ったチームで戦うのよ」
「この学校ってつえーのか?」
ザックがいつもとは違った落ち着いたトーンで聞いた。
「はっきり言うと、弱い。最弱ね。ここ十年以上は毎回びりよ。やっぱり優秀な生徒を集めて作ったチームは強いのよ。まあ、そんなことは気にせず」
「先生よ、俺らも勝ちにいかねーのか?」
そう言われてナイスはザックをじろり。
「だったら、あんたはなんでこの学校に来たの?もっといい学校を目指すべきだったんじゃない?勢いだけで勝てるわけじゃない。彼らは才能がある上、努力してきたから上位の学校に入っているのよ」
ザックは言い返すことができず、頭をかいた。
「だけど、先生、これからでも努力すればいいんじゃねーんすか?」
ラッシュが声を上げた。
「俺は属性なし、適正なしの偏差値ゼロだが、この前も豚の魔物と戦えたし、適正のあるみんならなもっと戦えるんじゃねーのかなぁ?」
「ラッシュ・ベル、では、自分でチームを作って勝ち進みなさい」
「おお、やってみる。それと先生、武器の使用は認められているんすか?」
「いいわよ。ただ使えるのは木剣よ。それと上位の学校では稀にだけど、その武器に魔法を付与する生徒もいるからね。じゃあチームができたら明日の朝までに私に知らせるように」
ラッシュが寮へ帰ると、すでに他の3人が待ち構えていた。3人の目線が既に対抗戦に向けられているのが分かり、ラッシュにも気合が入ってきた。
***** 翌日
「それでは、このG組の代表は、ザック・ニードル、ラッシュ・ベル、ガク・レタル、アレックス・クラブの4人で結成したチーム”同室の一味”に決まりね」
……
「ちょ、ちょっと、先生よ、俺達だけってどういうことだよ!」
ザックが思わず立ち上がった。
「どうもこも、あんたたち以外で、やるって連中がなかったからよ」
「強制参加じゃねーのか!?」
「誰もそんなこと言ってないわよ。生徒の自主性を尊重すると言っただけ。来週に学年代表を決めるトーナメントを行うから、頑張りなさい。以上」
4人は呆然とした。
***** 1週間後、いよいよ学年代表決定戦が始まった。
泥沼学園で最も成績の良いA組はシードである。
その他1回戦の組み合わせは、B組 vs F組、D組 vs E組、C組 vs G組 となった。
対抗戦の目的は魔法練度の習熟度合いを見るためのものである。
単に勝てばよいというものでもなく、どうやって勝つか、魔法への理解度を示しながら勝つ必要があった。
しかし如何に魔法による勝負と言えど、エリフの森の研修で見せたラッシュの活躍は、各クラスの生徒に大きな影響をもたらしていた。
そんな中、ラッシュの活躍にどうしても納得できない生徒がいた。侯爵家出身のA組代表ロマーリオ・ロベルタ・ブリリアントであった。
ロマーリオは適正も高いのだが、ろくに鍛錬もせず町のチンピラを束ね、自分は決して表に出ず、陰で強盗、障害、暴行など、様々な悪事を重ねていた。そしてA組の他の生徒を脅しまくり立候補させず、代表を奪い取った。
更にG組のラッシュが代表となり他のクラスが引き下がろうとしていることに異様な怒りを表していた。
「属性なし適正なし、偏差値ゼロの底辺の中の底辺のくせにクソ生意気な〜」
怒りを噛み殺すように歯を食いしばっていた。
***** 学年代表決定戦の日を迎えた。
だが、集合時間になってもラッシュの姿が見えない。G組の試合は一番最後であり、それまでに間に合えば良いのだが。それにしても、あのラッシュが遅れるはずもない。朝トレーニングに行くといって出ていったが、何かあったのか?心配した。
学年代表決定戦が始まった。
その頃ラッシュは、王都の外に転移させられていた。
部屋の扉の下の隙間から紙が差し込まれていたのをラッシュが見つけ、それを開けると魔法が発動した。
古い手だったが、ラッシュには知る由もなかった。
ラッシュが気づくと河原にいた。
「どこだ?ここ」
「はっはっは、ざまあざまあ、これでお前は対抗戦への不参加決定だな」
転送先には5-6人のチンピラがいた。
「お前、偏差値ゼロ野郎なんだってな。属性なしなんて聞いたことねーぜ」
しかし坊っちゃんも、こんなクソガキ相手にあんな貴重なアイテム使うなんてよ、どうかしてるぜ。
「ちょっと、待て、何で俺が襲われなきゃいけねーんだよ」
ラッシュは冷静に聞いた。
「お前は底辺の中の底辺、代表は自分がなるべきであってお前じゃない、だってよぉ」
「意味わからねえ、お前はおっさんであり、学園生じゃねーだろ」
「もちろん俺じゃねーよ。俺の雇い主の言葉だ」
そう言いながらチンピラたちが、火や水、石を魔法を飛ばしてきた。
「なんだ、犯人は学園生で、お前らは雇われチンピラってことか。じゃあ遠慮はいらねえな」
ラッシュはそれらを剣でいなしながらニヤリと笑った。
ラッシュは相手の懐に飛び込むと剣の柄で相手の腹を突きぬいた。
ドゴーン
チンピラの1人が吹っ飛んで気絶した。
「なんだ、お前ら手を抜くなぁ!」
チンピラのリーダー格の男が叫んだ。
ズズズズ
グルグル
地面から木のツルの様な物がラッシュの足から腰に巻きついてきた。
ググ
「ははは、おしまいだな、クズが」
ラッシュは足に巻きついている蔓を自分の足が傷つくのを恐れず切り刻んだ。
ザク、ブチブチ
蔓はことごとく切られて行った。
「おい、ロニー、お前、手を抜いてんじゃねえぞ」
「アニキ、手なんか抜いてないですよ。アイツ自分の足ごと蔓切ってます。ヤバいっすよ」
ビュ
ラッシュは高速でリーダー格の男に近づくと喉元に刃先を突きつけた。
あまりの速さに砂塵が舞った。
「お、お前ら、攻撃をやめろ」
リーダー格の男は力なく言った。
「で、お前らに依頼したのは、誰だ?」
「く...」
「あっやべー対抗戦に遅れる!」
ラッシュは突然走り出した。
「あっと、学園はどっちだよ!」
全く現在位置がわかっていなかったラッシュが聞いた。
「えーと、あっちだ」
言われた方を見ると、王都の外壁が見えた。
「お、あんがと、じゃあなーもう悪さすんなよぉ」
そういうとラッシュは猛ダッシュで学園に戻っていった。
….ロマーリオさん、ありゃ怪物だ。あんたの器じゃ全く相手にならねえよ。
チンピラがつぶやいた。
**** 学園内対抗戦会場
「それでは、C組とG組前へ」
「ラッシュ何やってんだよ」
ザックたちは歯ぎしりをしてラッシュの帰りを待っていた。
対戦相手のC組はラッシュがいないのをみてニヤついている。
くっそ、あいつら何ニヤついてんだよ。
「ガク、アレックス、ラッシュの奴が無断で遅れるはずはねえ。何かに巻き込まれている可能性がたけえ。だが、今俺達にやれることは、コイツラに勝つことだけだ。あいつ抜きでここは勝つぞ」
「おお」
「力入ってねーぞ」
「おお!」
2人は少し大きな声を上げて気合をいれ直した。
「では、はじ」
「まって、まってー」
「うん?」
「なんか聞こえるな?」
「えーあそおこぉ〜?」
会場がざわついた。
「ラッシュお前、なんでそんなとこに登ってんだよ。さっさと降りてこいって!」
会場の塀の上に乗って叫んでいるラッシュに気が付き、ザックが叫んだ。
「トウッ」
ラッシュは壁から飛び降りると、観客席の通路を突っ走り、闘技場へ飛び込んできた。
「なんだよ、今のトウッって」
会場から失笑が漏れた。
「何となくかっこいいかなと思ったけど、不評みたいだな。とにかく遅れてすまん。事情は後で説明する!」
「あれがかっこいい?」
ザックが呆れる一方、
「かっこいい」
とガクが目を輝かせていた。
C組のチームが急にソワソワしだし、審判に向かい何やら耳打ちしだした。
ピーーーーー
「試合終了」
審判が叫んだ。
G組の4人は状況が飲み込めずキョトンとした。
「C組は不戦敗となります!」
「ラッシュ、お前が帰ってきたからだぜ。けっ根性ナシが!」
ザックに言われたC組チームは目を逸らすことしかできなかった。
これを見ていたA組のロマーリオの顔はまさに赤鬼のようであった。
なぜあいつがここにいる。あいつら失敗したのか!クソ役立たずが!
泥沼学園1年のクラス代表戦の決勝が始まった。
決勝はA組 vs G組み
A組はロマーリオを中心とし全員が火属性であった。
ロマーリオは、適正42と学園ではなかなか優秀なほうではあったが、その素行が災いし、上位の学校が受け入れることはなかった。
A組 vs G組の試合が始まった。
「業火で燃えつくせ、イグニッションバーン」
試合開始と同時に4人が同時に魔法を発動した。
土属性のアレックスが直ぐに遮蔽した。アレックスは優秀な土属性をつかえる。だが、対抗戦では、魔法の威力は1/10に制限されており、満足な土壁を作れない状態であった。
A組も当然1/10の制限は受けているが、さすがに4人同時の炎の勢いは凄く、防ぐのは至難であった。
「アレックスーーか、壁が溶けだしてるよ」
「くっそ。もう何回も壁を張りなおしているんだけど。かなり厳しいよ」
ガクが相手が見えない中、根っこを這わせ、A組の足元を狙った。
「G組のくせに生意気な。こんな根っこ、燃やせええええ」
「だめだ。気づかれちゃったよ」
「ナイストライだ、ガク。ザック、ファイヤボールでも何でもいい、打ち返せないか?」
ラッシュが叫んだ。
「策ありか?」
「隙ができれば、俺が突っ込む」
「任せろ!」
ザックは壁から少し離れ仰向けになると、「みんなもう少し伏せてくれ」といって、全員に体勢を低くするよう要求した。
「ファイヤブラスト」
ザックは土壁のギリギリ上を通過させるように破裂系の炎魔法であるファイヤブラストを放った。
ファイヤブラストは、相手のイグニッションバーンに当たると、バチバチバチと破裂し炎が散った。
G組は土壁で破裂した炎を防げたが、A組はもろに火の粉を被った。
「あちちち、あっちい」
A組の炎がとぎれた。その一瞬をついてラッシュが壁から転がり出ると、A組に突進した。
A組は焦ってラッシュに魔法を向けるが、詠唱が間に合わない。
ドス、ドス、ドス
ラッシュは、ロマーリオ以外のA組の3人の首、お腹、背中などを剣で打ち、動けなくすると、ロマーリオの首元に木剣を突きつけた。
「くっそー、代表は僕がなるべきであって、お前じゃない」
ロマーリオは、詠唱をはじめ掌に大きな火球を作るとラッシュに向け放とうとした。
「インフェルノオオオオ」
「やっぱりお前だったのか。代表になりたきゃ、自力をつけてもぎ取らないとな」
ラッシュは瞬時にロマーリオの懐に移動すると、木剣の柄で容赦なく脇腹を突いた。
ドスッ
ロマーリオはラッシュが目の前からフッと消えた瞬間に呼吸が止まったかの様な衝撃を受け、そのまま地面に倒れこむと、胃の内容物を吐き出し、鼻水、涙、顔の穴という穴から出るものを全て出し苦しんだ。まさに地面を舐める様に這いつくばった。
この瞬間、マーシャランド学園1年代表は、G組の同室の一味に決まった。
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