偏差値9
あいつを殺す。あいつを殺す。あいつを殺す。絶対に殺す。
ロマーリオの怒りの炎はくすぶるどころか、更に燃えさかっている。
悪いのは全部あいつだ。あいつさえいなければ俺が代表になり、学園を支配できたんだ。偏差値もないような人間の屑のくせに。。。
ロマーリオは、昼になると学園から姿を消した。
王都の門を出て少し歩くと、メリッサ教会という小さな教会があり、その教会の裏の崖の穴からは、王都の生活排水が垂れ流されていた。
ロマーリオはメリッサ教会の前の道を通り過ぎ、排水口に向かった。
教会の前で箒を持っている匹夫の様な男がロマーリオが排水口の方に行くのをちらりと一瞥すると、教会内に消えていった。
奴らがあの紙を買ったのは、この排水口の奥の店だったはず。
ロマーリオは袖を鼻にあてると、
それにしてもくせぇ。
くせぇったらくせぇ。
俺がこんな臭い場所に来る羽目になったのも、全部あのクソくずのせいだ。
絶対に殺す。
と恨み言を口にした。
排水口はやがて光も届かなくなり、指先にイグニッションで炎を灯し、奥へ進む。
1個目...2個目...3個目...4個目、ここだな。
壁には、膝程の高さに石が埋められている。
その4つ目の緑の石を壁に押し込むとガコンと壁の動く音がして、壁に隙間ができた。
隙間に指を入れ引っ張ると明かりが漏れた。もう少し強く引くと一人分の隙間ができたので、ロマーリオはその隙間に身を潜らせた。
「....」
店に入ると、一人の男の横顔が目に入った。
先ほど教会の前で箒を持っていた男であったが、ロマーリオが気が付くことは無かった。
ロマーリオには、この無精ひげを生やした小汚い小男が、店の店主とは思えなかったが、何かの偽装工作の類だろうと自分に言い聞かせ、話しかけてみた。
おい貴様、この店の店主か?
「...」
おい貴様、聞こえているだろ!
「誰かの紹介か?」
そう言いながら小男は横目でちらりとロマーリオを見た。
「まあいい。うちで雇っていた、ヘピスというチンピラが、転移魔法の紙をここで買ったと思うんだが?」
「ああ、お前さん、ブリリアント家の者かい。いいよ。ブリリアント家はお得意様でな。あんたも贔屓にしてくれそうだーーそれで、何が欲しいって?」
「ーーどうしても殺したい奴がいる」
****
「くくく、あいつ良いものを売ってくれた。贔屓にしてやらねーとな」
ロマーリオが手にしたのは、いびつな枝の様な小さな笛と20枚程の小さな紙が入った箱。
排水口から出て日の当たるところでその箱をもう一度開け、紙をみると、そこには魔法陣が描かれている。
俺の邪魔をする奴は容赦しない。今まであいつほど俺に恥をかかせ、邪魔した奴はいねえ。
ロマーリオは目を血走らさせながら、その紙をゆっくりと小さな箱に戻し蓋を閉じた。
あいつのぉ....あいつのぉ死に際の顔を想像するだけで笑いが止まらねえ、ぐへへへ。
「それにしてもあのぼっちゃん...だいぶイカレてしまっていたなぁ。まあ、少し早いが、いいだろう。あいつには贄となってもらうこととしよう。はっはっはーー」
小男の笑い声が響いた。
**** 王都学校対抗競技会の前夜、会場にフードを被った男の影。
小刀で左手の人差し指を切ると、紙に描かれた魔法陣に血を垂らした。
フードの男は、それを会場の周りに置いて行った。
**** 王都学校対抗競技会の当日を迎えた。
競技会は1年生、2年生、3年生の順で行われる。
1年生の部が始まるのは早朝であり、見学者も学校関係者もまばらである。
泥沼学園は、凡そ100年前はクインテックスと並ぶ成績であったが、以降成績が下がり続け、この30年ほどは、最下位が定位置となっている。
1回戦マーシャランドとの対戦相手は、エルマリオン学園。
この勝者が、毎年優勝のシード校であるクインテックス・アカデミアと2回戦で対戦することになる。
試合場に同室の一味の4人がずらりと並んだ。
それを感慨深げに見守るのはサイオン。
やっぱり来たかラッシュ!
サイオンは、にやけ顔を隠せない。
審判が手招きをして両校を試合場の中央に集めた。
「えーそれでは、1回戦第二試合を始める。武器の使用は認めるが、木製である事。それと魔法の威力が1/10になるよう、除魔力の腕輪をすること。対戦相手が戦闘不能になるか、降参をすれば試合は終了となる。怪我は直せるので問題はないが、死なせるようなことはダメ。もしそのような事があれば失格の上、大人と同様に裁判を受けてもらうことになる。よろしいかな?」
「はい」
「うす」
「へいへい」
「はいはい」
ーーそれでは、両校下がって
泥沼なんてぶっ殺せ―
泥沼サイテー
泥沼ひこめー
会場からはマーシャランドへのブーイングしか聞こえてこない。
ーー準備できたかなぁ?ではよろしいようなので、はじめ!
ピーーー
審判が勢いよく笛を鳴らした。
バキ、ドカ、ヅカン、ドン
先ほどまで怒声が響いていた会場全体が一瞬にして氷漬けになったように静まり返った。
お、おっしゃー
同室の一味の3人が、戸惑いながらもハイタッチ。
そこに戻ってきたラッシュも加わった。
いえーいいいいい
えーと、あれ?
ピョロロロ〜〜
審判が恐々と笛を吹いた。
えーと、マーシャランド学園のかちーーーーだよね?
審判もよくわかっていない様子。
気がついたらエルマリオン側が全員倒れていた。
審判はちゃんと笛を吹きやがれよ!
え?!
ピーーーーーー
勝者マーシャランド学園!
会場からの罵声で慌てて審判が笛を吹き直し、改めてマーシャランドの勝利を宣告した。
「おーいラッシュ、久しぶりだな」
アリーナの下からサイオンがラッシュに声をかけた。
「あ、サイオン、久しぶりぃ。なんか簡単に終わっちまったよ」
「簡単に終わっただと、底辺が調子に乗りおって」
近くで見ていたエルマリオン側の2年や3年が叫んだ。
「みっともないですよ、やめましょう。エルマリオンの先輩方。それ負け犬の遠吠え」
気品にあふれた金髪をなびかせたクインテックス・アカデミアの男子生徒であるジルベルトがエルマリオンを煽っている。
「きゃージルベルトさま~~~かっこいい」
「くそが」
そう言い残し、エルマリオン側は、さっさと控室に引っ込んでいった。
「お前、クインテックスに知り合いいたのか?」
ザックが興味深げに聞いた。
「あいつは幼馴染なんだよ。昔から一緒に遊んでた」
「ずいぶんと差が開いちまったもんだな」
「そうか?あいつは魔法が得意だけど、俺は俺でやれることをやってきたからな、全然問題ねえよ」
「サイオンくん、君、泥沼に知り合いなんていたの?」
金髪のくるくるヘアを手に持った扇子で更にくるくると回しながら、リミタン・オシリアスが聞いた。
「ああ、あいつは幼馴染なんだよ」
「君は、貴族で超天才の偏差値99の100年に1人の天才だよ?あいつら平均35のド底辺なんだけど?」
リミタンは畳みかけた。
「今の見てただろ、あいつは、俺のライバルなんだよ」
「サイオンにそこまで言わせるとはな。確かに我々の魔力が制限されてしまっていれば、あの動きをとらえるのは相当厄介だろう。皆で奴を止めるしかないな。はははは」
ジルベルトは白い歯を輝かせ気品に満ちた笑顔だった。
「威力が1/10なだけで、魔法のスピードはほぼ変わらないから、捕まえるのは簡単かと…」
目深に被ったフードの奥で、サディー・クライシスの唇がかすかに揺れた。
「サディーだめだよ、ラッシュとは俺がやるからな」
サイオンはラッシュと対戦出来る事を心から喜んでいた。
「ラッシュ、本気でやるぞ!」
サイオンは拳をラッシュに向けると、ラッシュもそれに応じた。
「ああ、もちろんだ!」
****
ザックの周りに一味が集まった。
「いいか、お前ら、クインテックスは1回戦を見てラッシュを狙って魔法を集中させるだろう、俺たちはラッシュを囮にしてにクインテックス魔法をぶっ放す。それだけだ。いいな!ラッシュは動き回って隙があれば奴らを倒してくれ」
「ああ、分かった」
「では2回戦、クインテックス・アカデミアとマーシャランド学園、前に」
生徒を見つめるナイスがいつになく真剣だった。
それもそのはず。
マーシャランドにとって2回戦突破は悲願。
この数十年2回戦を突破した事はなかったが、ラッシュがいる今回はその可能性がいつになく高まっている。
だが相手がクインテックスではそうは簡単にはいかない。
兄は母校の応援も忘れ、弟の勝利を願った。
ラッシュ、がんばれ!お前ならできる!
「はじめ!」
ピーーーーーー
一方、クインテックスは作戦という作戦は特に立てていない。
個々の能力が高すぎるため、マーシャランドごときに作戦など必要ないということである。
唯一気になるのはラッシュの存在ではあるが、学年トップのサイオンが相手をするのに、負けることなどありようもない。
クインテックスの陣営は個々にマーシャランド側を攻撃しだした。
マーシャランド側は、土壁を作ってこれを防ごうとしていた。
そして、ラッシュとサイオンが向き合った。
「ラッシュ、お前とこうして戦えるなんて夢の様だ」
「ああ、ほんとだな」
「シルフィード・バインド」
これは風の属性を使った魔法。だがサイオンはこれに土属性も織り込む。
詠唱と同時に地面の土を纏いながら無数の渦が巻き起こり、生き物のようにラッシュに迫る。
だが、ラッシュはそれを間一髪で避け続けた。
サイオンは、
「うまく避けるじゃないか」
そう言いながら、ラッシュに向け腕を伸ばした。
手の形が特徴的だった。
左手の人差し指をラッシュに向け親指を地面と水平に伸ばし
「火よ穿て、フレイムアロー」
と唱えると、指先から3本の炎の矢が射出された。
「速すぎだろ!」
余りにも速い詠唱と射出速度にラッシュも驚いた。
カンカン
グサッ
フレイムアローの3本中2本は弾いたが1本が太ももを深くえぐった。
いて~~~すげー威力だな。右足がもげそうになったぜ。何とか立っていられたが、これで1/10かよ。さすがに何本も喰らうことは出来ねーな。
そう言って、炎が上っている太ももを手で抑えると炎は消えた。
属性無の底辺は、さっさとやられろー
観客から罵声がとんだ。
その観客席の後方にフードを被った男がその様子を見て笑っている。
だが、ラッシュの太ももは、みるみる回復してゆく。
会場がざわついた。
「今、あいつの足に矢が当たったよな?全く効いてないのか?」
「いくら1/10の魔力と言っても、俺のフレイムアローは、そこそこの威力だと思ったんだけどね。やるなラッシュ」
サイオンが驚いたようにいうと、
「今度はこっちからだ」
とラッシュが突っ込んだ。
サイオンはラッシュのスピードに驚き、手のひらを中心にウォーターウォールを展開、ラッシュの動きを止めようとした。
だが、間に合わない。
ラッシュがチャンスとばかりに懐に潜り込もうとした瞬間、地面から土の槍が飛び出した。
うぉ
ラッシュは転がりながらこれを避けるが、サイオンのウォーターウォールがいつの間にか針の様に変化し、それをラッシュに向け発射した。
無数の水の針がラッシュに降りかかる。
普通はこれで動けなくなるはず。
なんのおおおおお
ラッシュは腕で目の前だけを覆いサイオンに体当たりで突っ込むと、一瞬油断したサイオンはラッシュに跳ね飛ばされ、地面を転がった。
うぉ
「サイオーーーーン!」
「サイオンくーーーーん!」
クインテックスの面々にとっては、サイオンが吹っ飛ばされていく、その時間がとても長く感じられた。
ゴロゴロゴロ
ブチッ
「泥沼あああああ」
リミタンのリミッターが切れた音がした。
「ははは、これはまずいな」
「リミタン、ちょっとまって」
「俺は大丈夫だ、リミタン落ち着け!」
しかしリミタンにその声は届かない。
ゴゴゴゴゴゴゴ
リミタンの金髪が上昇気流に乗って逆立ち、気流は回転しだす。
そして試合場を包む竜巻が発生した。
これにはマーシャランドのメンバーも贖うことが出来ない。みんな立っているのがやっとだった。
「リミタン!いい加減にしろ!」
それでもリミタンには聞こえない。
しかたない。リミタン、そんな君を抑えるには、水棺しか方法がないよ。
サイオンの手から放たれた水はリミタンを取り囲んだ。
ごぼごぼごぼ
サイオンは水棺を解除すると、大量の水と共にリミタンがぺしゃっと地面に座り込み、せき込んだ。
げほげほげほ
「さ、サイオンなにするのよぉ」
「だめだよ、我を忘れちゃ」
「ーー私またやっちゃった?ごめーーーん」
「おい、サイオンどうすんだ?このまま一本取っちまうぞ」
ラッシュがサイオンの眼前に木剣を向けた。




