偏差値6
**** 泥沼学園1年寮
ラッシュは空になっている鞘を手に持って眺めていた。
「おいラッシュ、どうした?考えごとか?」
ザックが聞いた。
「いや、中央の武器屋に行ってくる」
「じゃあ俺もつきやってやんよ」
ザックが言った
「え、じゃあ僕も」
「アレックスも?」
「一緒に行きたい」
「ガクもか。一緒に行ってくれるのはありがたいけど、魔法使うみんなに武器は関係ないんじゃないのか」
「まあ見学だよ、見学、向上心ってやつだ!」
「ザックには似合わないな」
「うっせー俺もやるときゃやるんだよ、行くぜ、ほらほら」
四人とも中央に出てくるのは初めてであった。
屋台の串焼き屋でさえ、全てが眩しくキラキラに見えていた。
「ここが武器屋か。何だかかっこいい入口だな」
両開きのドアの全体にドラゴンの彫刻が施されていた。
ドラゴンの爪の様な取っ手を握り、ラッシュが扉を引くと、カラーンと鈴がなった。
「いらっしゃいませ…何だ子供?......その制服!お、お前ら泥沼だな。帰れ帰れ!」
「何でだよ、おっさん!俺らは客だぞ」
ザックが店員に歩み寄り胸ぐらを掴んだ。
「ひーー」
「おう、どうした。騒がしいぞ」
身長が低く、口髭も赤い頭髪ももじゃもじゃ。長い髪は頭の後ろで束ねられている。一見すると汚い小人にしか見えないが。僧帽筋から前腕に至るまでの筋肉が職人としての経歴を物語っていた。
「あ、オーナー。この泥沼学園の連中が客だと言い張っているんですが、こんなのがいると他のお客様にもご迷惑ですし、さっさと帰れと追い出していたところです」
「バカ野郎、テメーは客をそんなんで判断してるのか!」
髭もじゃは店員を一括すると、ラッシュを見て言った。
「オメエだろ、買いに来たのは?」
「はい、俺っす」
「でもどうせお金持ってないだろうし」
店員が言った。
「おめーまだ分からねーのか」
「金ならあるぞ。これでいいか?」
ラッシュはバックから袋を取り出しカウンターの上に置いた。
ドン
「えええーーー」
「おま、おま、ラッシュ、何で、何でそんなに金持ってんだ?」
ザックが目ん玉を丸くした。
「前も言った通り、俺はスライムを狩り続けたろ?その核を換金し続けたら、こうなった。半分は家に置いてきたけどな」
「お前ってやっぱすげ〜んだな」
「オッチャン、これで買える剣をくれ」
「おう、任せな」
髭もじゃのオヤジが請け負った。
「その前にちょっといいか?」
と言って、髭もじゃがラッシュに近づくと、上腕、腰回りなど、体を触り始めた。
モミモミ
モミモミ
「お、おっちゃん?なにして!」
ラッシュはちょっと恥ずかしくなった。
「今までスライムを倒してたと言ったな。それだけじゃねーよな?」
「ああ、そこそこデカい石も持って走りながらスライムを倒してる」
「ああん???なんだそりゃ?まあいいか。で、どんな剣を使ってた?」
まあいいかじゃねーだろ普通はよ、何だこの髭もじゃ。
ザックが呆れてザクとアレックスを見ると、同じ様に口をポカンと開けていた。
「以前地元の町の鍛冶屋のオッチャンに長い包丁を作ってもらって、それに持ち手を自作して使ってた」
「その鞘も自作だな」
「そいつも使いたいか?」
「いや別にいい。剣にあわせた鞘で構わない」
「よし分かった。その金がありゃお前専用も出来るがよ、どうする?」
「俺は今からでもスライム狩りに行きたいくらいだから、直ぐに売ってもらえる武器でもいいんだけど」
「そうか。じゃあ専用武器が完成するまで、これを使ってろ」
「オーナー、それは…」
「構わん、使いこなせる奴に使ってもらってこその武器だ」
「これは…なんだ?」
「剣なのか?」
中華包丁でも入っているのかという様な長方形の鞘の形をしていた。
「抜いてみろ」
ラッシュは柄を握り引き抜いた。
「うわ」
「この鞘の形と違うんだけど」
剣は片刃で刀身は反っている。
まるで日本刀の様になった。
「ほう、そうなったか。お前やっぱり面白えな」
「そうなったかって?どうなれば正解?」
「その武器に正解なんざねえ」
「その武器はアーチファクトと言われるもんだ」
「アーチファクト!」
ガクが大声を上げた。
「お、小僧はアーチファクトを知ってるのか」
「はい、アーチファクトとは、数千年前の古代文明の神々が悪魔と戦うために作った武器や道具のこと、だと....」
「まあそうだ」
「でもそれは伝説で、そんな物はこの世に無いと言われているはず、です」
ガクは徐々に声が小さくなった。
「何だよオッチャンもこえー顔して冗談がうめーなー」
ザックがちゃかした。
「正直よく分からねーもんだし、ここに置いといても仕方ねえからお前に貸すってこった」
「オッチャン、ありがとうな。ちょっと使ってみるわ」
「じゃあ、1週間後にまた来い。それまでに仕上げとく」
「宜しくお願いします」
ラッシュは深々と頭を下げた。
「じゃあみんな、俺はこれからスライム狩りに行ってくる」
「もうかよ?」
全員が呆れた。
ラッシュはサナンドの丘に向かって走り出した。
「じゃあ俺たちも特訓だ」
「オー」
3人は昨日のラッシュの活躍に触発され、独自に魔法の練習をしようと話をしていた。
**** サナンドの丘
「それにしてもすげー武器って事は分かった.....けど、これじゃ俺のやりたいスライム狩りにならないよぉ」
その武器をスライムに向けるだけで触れもせずスライムが光の粒の様になって消えていった。
**** 泥沼学園大会議室
「昨日の演習について報告をお願いします」
黒ぶちのメガネの縁をクイっと持ち上げ、オリビアが指示をだした。
副学園長のオリビアは、クレメント・アカデミー出身であり、アカデミーでもトップクラスの成績を持って進んだ官僚機構であったが、やはりクインテックス出身に占められた官僚達とは肌に合わず冒険者へ転向し名声をあげた。その後さらに教育者に転向し、マーシャランド学園ではあったが異例の速さで副学園長まで上り詰めてきた異色の経歴の持ち主である。
加えて三八歳とは思えない若さと美貌も兼ね備えていた。
オリビアの指示を受け、現役軍人でもあるA組担当学年主任のガイルが説明した。
報告では、重症者8名、軽傷者10名、遭遇した魔物は、ラット100数十、コボルト80から100、オーク20から30、となっていた。
例年は軽傷者数名程度、出現魔物はラットが数十。コボルトに至っては10数匹のはずだった。2日前に見回った教師も特に異常は見当たらなかった。
「ではその後、何か仕掛けられたということか?」
「2日前に準備して証拠も残さず去っていったと言うことか?」
「そんなことが可能なのか?」
教師たちも疑問に思うのは当然であった。
どう考えても作為的に準備されたとしか思えない魔物の増え方であった。
泥沼学園の生徒はたびたび町の人達に迷惑をかけており、色々と疎まれる事はあれど、町中の人がこの様な手の込んだ手段に出るはずもないし、魔物を呼び入れる方法など知らないはず。
魔物が増えた原因については、会議で結論に至ることは無かった。
報告が続き、その中でオークを単独で2体倒した生徒がいるという報告が上がった。
オークはDランクであり、単独で倒すのはCランクの冒険者の実力である事を示している。
「G組の生徒がB組とD組の生徒を救ったとの事ですが、ナイス先生、報告してください」
オリビアから指示を受けたナイスが口を開いた。
「はい、その生徒の名前はラッシュ・ベル。皆さんご存じの属性なし、適性なしの生徒です」
ざわざわ
「そんな彼がどうやってオークを倒したと?」
「剣で刺したと言っていました」
「あのーB組ですが」
と言ってB組の担任が手を上げた。
「ロックス先生どうぞ」
「そのG組の生徒に助けられた連中の話ですよ、彼らが嘘を言う理由が無いので私は本当だと思っていますが、刺したあとにその刺した部位をパンチしてぶっ倒したらしいです。はは」
「パンチ?物理攻撃ですか。ここは偏差値は低くとも魔法を教える学園ですーーーーD組、ライラス先生は、何か言う事はありますか?」
オリビアが呆れたようにライラスに話を振った。
「ええ、うちのクラスの女子生徒は、そのG組の生徒に2度助けられたそうです。1度はコボルト2匹に襲われたとき。その時は一体を投げ飛ばし、もう一体は顔面をパンチして吹き飛ばしたそうです。オークは脇腹を刺して倒したと言っていました」
「そっちも物理攻撃ですか。まあそれ以外出来ないのでしょうが。まあいいでしょ。生徒達を救ったのは事実で間違いなさそうですね」
「あ、それと不思議な事がありましてね。一人重症だった女子生徒をそのG組の彼が抱えて森の入り口まで連れてきたんですが、森を抜けると怪我が治っていたと言うんですよ」
ライラス付けく分けた。
「何ですって?」
「その女子生徒に自己治癒能力でもあるっていうのですか?それとも、そのG組の生徒に治癒能力があるとでも?」
「さあ、少なくとも、女子生徒の方にそのような能力はありません」
「では、ナイス先生、その生徒に治癒能力があるのですか?」
「いえ、ありませんね」
自己修復スキルはあるが、他人を治癒させるスキルはない、嘘は言っていない。
ナイスは唾を飲み込んだ。
**** G組教室
「ラッシュ・ベル、一緒に来てくれる」
「うっす」
ラッシュはナイスについて行った。
「で、どこ行くんすか?」
「また検定をやりたいの」
「この前やったばかりじゃないっすか」
「そうね、でも気になることがあってね。あなた、女子生徒を助けたとき、不思議な事があったでしょ?」
「不思議なこと?」
「女子の傷が回復してなかった?」
「あーそれね。確かに。あの子にも自己修復スキルがあるんじゃないっすか?」
「ラッシュ・ベル、自己修復なんて特殊なもん、そうそうないのよ。高レベルの魔法適性になると一部の人は多少の治癒ができるようになるのよ。先生たちはだいたい使える。ーーーただね、治癒って言っても、傷を治すくらいなのよ、折れた骨を治そうとしたら、どんなに優秀な人でも少なくとも数時間はかかる。瞬時に直すことなんてできないの。ーーーーあなたの修復能力がどの程度か、今のところ分からないけど、重篤な怪我を一瞬で治癒できるようなものなら......他に比べるものがないわよ」
「でも俺、自己修復だし、他人を治癒とかできるはずないんだけど」
「それを確認しようって話し、さあ、見てみましょう」




