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 おっりゃー

 ラッシュが包丁を長くしたような自作の剣で、オークの左脇腹を思いっきり刺した。


 ずぶぅうーーー

 剣の刃はオークの脇腹に半分ほど刺さり、止まった。


 くっそ、浅いか。


 だが、オークがサワを握っていた手を離すと、サワの体がドサっと地面に落ちた。


 オークは、剣を抜こうと脇腹に手を回そうとするが、なぜかその場をぐるぐると回りだした。


 リョウ達はオークがサワの近くでぐるぐる回っているので、近づきたくともちかづけない。


 ラッシュはサワからオークを離そうと、オークに近づき、木の枝を投げつけ、こっちだ、こっちと言ってオークの興味を自分に向けさせた。

 するとオークは怒りの形相で、ラッシュを追いかけだした。ラッシュは意外にも冷静だった。森の木をオークと自分の間に入れるようにしてオークができるだけ追いかけづらいようにしていた。更にオークの足はそれほど速くなかった。

 ラッシュはオークを疲れさせようと森の中を逃げ回った。

 オークはラッシュを追いながらも剣を抜こうと脇腹に手を回すが、動きながらでは剣に触れる事が出来ない。むしろ深く押し込んでいた。オークは一層必死になったが、深く刺さった剣があまりに痛かったのか、ラッシュを追うのをやめ、立ち止まってしまった。


 オークは大きく肩で息をしていた。

 そしてその口や鼻の穴からは血とよだれが混ざったドス黒い液体が垂れ下がっていた。

 ラッシュはオークの周りを右へ左へと動き回った。オークは、度々視界から消えるラッシュに一層苛立ちをつのらせた。だが、もはやオークは自由に動けなくなっている。その様子を見たラッシュは、チャンスとばかり、突き刺さった剣をめがけて突っ込もうとした。だがオークの血走った目がラッシュを捉え、ラッシュに向け腕を振ってきた。


 どわっ!


 ラッシュは思わず声をあげ、その攻撃を避けようとした。

 しかし手負いであったが、オークの力は凄まじく、ラッシュの想定を上回った。

 ラッシュは、水平に飛んきたオークの腕を、避けながら自分の腕でガードしたつもりだったが、かすっただけでラッシュは吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。


 そしてオークの腕はそのスピードを維持したまま、近くの木の幹にぶち当たった。


 ドゴーーン


 激しい音をさせ、オークの腕は幹をへし折った。

 だが同時にオークの腕もダメージを受けた。

 オークは痛めた腕を掴みながら、


 ゴーーーー


 と叫び声を上げると、地面に両膝と両肘をついて悶え苦しみだした。


 それを見たラッシュは直ぐに立ち上がりオークの脇腹に刺さっている剣のところまで走り込み、剣の柄を掴むと、一気に奥まで押し込んだ。


 ズブズブーーー


 ブオーーーー


 という断末魔と共にオークの右肩が地面についた。

 ラッシュが剣を手放し、ゆっくりと見上げた先、舞い上がったままの土埃がゆるく流れ、梢の隙間から落ちる光の筋を白く浮かび上がらせていた。


 ラッシュは息をると、オークの体から剣を抜いた。

 ぶぉぉぉぉーーー

 とオークは小さく呻いた。


 まだ生きてやがる。


 同時にガリガリガリという嫌な音と感触がラッシュの体に伝わった

 スライムと違い、血がどぼどぼと流れ出るのが気持ち悪かった。

 初めて命のある肉を刺した感触が手だけでなく、体全体に残った。

 ラッシュは血だらけの剣をみると、剣が震えていた。


「おい、オメエ大丈夫か!」

 リョウが叫んだ。


「ああ、大丈夫だ。が、あれ?お前らから離れたつもりだったんだが?」


「途中からこっちに戻ってきてたよ、あんた」


「そうだったか、すまん。それよりもお前、炎属性使えたな。こいつまだ生きてやがるから、今のうちに燃やしてくれ。もし起き上がってこられたら、大変だ」

 と、リョウに向かって叫んだ。


 リョウとランは、枯れ木を集めるとイグニッションを唱え、オークを焼いた。

 辺りに肉の匂いが充満しだした。


「よし、逃げるぞ。この匂いにつられて、周りから魔物がきちまう」


「え?あんたが燃やせって」


「いや、まあそうだったんだが、匂いを嗅いだら美味そうだったろ?魔物も一緒じゃねーかな。だから急ぐぞ。早く、行け、走れ!」


「サワどうすんのよー」

 リョウが叫んだ。


「俺が連れていく」

 ラッシュは剣をしまい、サワをそっと抱きかかえると、走り出した。


「おまえら気合い入れろ、ダッシュだ―」


「なんであんたそんなに速いのよー、ちょっとー」


 ****


 ラッシュ達は森の入り口に到着した。


「せんせー、この女子、魔物に襲われた!」


「なに!どれ!診せてみろ!」


 海坊主のガーメントは、のろしが上がっている方に向かっていて、ここにはいないようだ。

 別の教師が地面に毛布を敷いた。


 ラッシュは、血だらけの服のサワをそっと毛布の上においた。


「サワ、サワ、大丈夫。ねえ、目を開けて、いやーーーー」

「わーーーん」


 リョウはサワにしがみつかんがばかりに、サワの腹部に顔を埋めて泣いていた。

 他の2人も立ち尽くし、泣き叫んでいた。

 周りはみんな目を逸らして見ないようにしていたが、同じクラスの数名の女子たちは、リョウたちをいたわっていた。


 だが何かが変だった。


 ラッシュは自分が運んで来た今は毛布の上に寝かされている女子を見つめた。


 運んできたこの女子、先ほどまで口から血を吐いていたのに、血が止まっている。

 それどころか、つぶされた腕や体が青くなっていたのに、血色が良くなっている。


 まさか、この子も自己修復スキルが?


 ラッシュはじっとサワを覗き込んだ。

 じっと見つめた。


 じーーー


 パチ 

 目があった。


 キャ


「…。」


「ちょ、い、いま目を、開けたよね?....キャって言った。なに?」

 ラッシュが呆然とサワを指さして驚いていた。


「え?」

 ランとミンカも驚いてサワを見た。


「あんた、助けてくれた事は感謝するけど、そういう嘘はつかないでよーもーーー」

「わーーーーん」

 リョウは更に激しく泣き出してしまった。


「リ、リョウ、リョウ」

 ミンカがリョウの腕を掴んで呼んだ。


「何よもーーーー、わーーーん」


「みて、みてよ! サワ、起きてる」


「え?」

「…」

「えーーーーーーー」

「うそ、うそ、うそ、うそ。サワ生きてたー。絶対死んだと思ったーーーーー」

「なんで生きてるのよーーーーわーーーーーん」

 4人は全員泣いて喜んでいた。


 だがまだ状況は変わっていなかった。

 複数のグループが未だ戻っていない。


「おーーい、ラッシュ、どこ行ってたんだよ、無事でよかったぜ」

 一味の3人が駆け寄ってきた。


「ああ、すまねえ。ちょっと女子が気になって戻ってた」


「それにしても血だらけじゃねーか!」

 ザックが眉間にシワが寄っている。


「ああ、俺の血じゃねーよ」


「魔物をやったのか!?」


「あのオークって奴な。倒し方分かったから、俺行ってくるわ!」


「は?オークだぞ。センコー達とあの冒険者達に任せとけって」

 ザックがラッシュの腕を持って、引き留めた。


「そうは言っても、全部は無理だろう、俺なら大丈夫だ」

 ラッシュはザックの手を握り、ゆっくり外すと、森に向かって走っていった。


「あいつは一体何なんだよ」

 ザックは呆れたが、自分との違いを痛感させられた。


 何も持っていないはずのあいつが、あんなにも勇敢に戦うのに、俺は何してんだ。クソが。俺みてーな弱っちーのは、ここで見てるしかねーって事かよ。なんかできることはねーのかよ。


「おい、おめーら、ラッシュの野郎は、どうやってそのオークをやったんだ。教えてくれ」

 ザックが女子たちに聞いた。


「アイツはな、男だったよ!」

 リョウが叫んだ。


「だからどうやってやったかって」


「知るか!自分でやってこいやークソがー」

 ザックはリョウの気合いに気圧されて、ただただ呆然とするだけだった。


 ****


 どーーん


 救助弾が上がった。


「そっちだったか」

 ラッシュは急いで向かった。


「いたオーク」


 オークの背中が見えた。

 その向こうに襲われている生徒がいた。

 生徒達は何とかオークの攻撃をかわしては、魔法で攻撃をしている。

 しかし殆ど効いていない。


 ラッシュは剣を抜いた。

 だがボロボロになっていつ折れてもおかしくない。


 あと一回持つかな?


 ラッシュはそんな心配をしながらオークに猛然とフルスピードで近づくとグサっと脇腹深くに剣をさし込んだ。


 ポキ


 やっぱり折れたか。

 今回は心に余裕もあり、剣が折れても焦ることも無かった。

 更には、さっきまで嫌な感覚だと思っていた生きた肉を刺す感覚も何とも思わなくなっていた。

 ラッシュは自分の変化に驚きつつも冷静だった。


 オークはラッシュの方を向くと棍棒を振り下ろしてきた。

 タイミングを読んでいたラッシュは、棍棒を避けると更に踏み込み、折れた刃が突き刺さっている脇腹にパンチを叩き込んだ。


 ぶぎょーーーー


 オークは狂った様に棍棒を降り回して暴れ回ったがラッシュは逃げ回り、隙を見ては傷口にパンチをみまった。オークはラッシュを捕まえる事が出来なかった。そしてオークの傷口は暴れる事でどんどん広がり血が大量に流れ出て、数分で動きが遅くなってきた。


 それを見た生徒らは魔法を繰り出してオークを攻撃し出した。


 ズーーン


 オークはほどなく地面に仰向けに倒れた。


「とどめだクソ豚」

 そう言ってその生徒はオークの口を開けると、

「風魔法乱切り」「乱切り」「乱切り」

 と言ってオークの口の中に風魔法を放った。

 5回目の乱切りでオークの頭が消えていた。

「クソ豚、思い知ったか!」

 その風魔法を使った生徒がラッシュに振り向くと、全身にオークの返り血を浴びていた。

 そして、

「それにしてもオメエ本当に人間かよ。こんな化け物をパンチで倒すなんてよ。カッコよすぎだろ!とにかく助かったぜ。ありがとよ」

 と血まみれの顔でニコっと笑い、親指を立てた。


「ああ、当然の事をしただけだ」

 ラッシュは耳をそばだてた。


「......もう他も大体終わったみたいだな?戻るか」


「お、おぅ」


 5人は入口に到着した。


「よしこれで全員だな」


 ドドーーーーーーン


 火属性の先生が合図の火柱を打ち上げた。


「ラッシュ、無事だったか」

「大活躍じゃねーかよ」

 一味はラッシュを褒め称えた。


 翌日の学校は臨時休校となった。

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