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3/9

偏差値3

 ラッシュは、2年生の寮を出ると、向かいの1年生の寮にやってきた。


 扉を開けると焦茶色の木製のカウンターがあり、その向こう側に老婆の顔が浮かんでいた。


「ちわーす、ここ、1年の寮であってますよね?」


「あん?おいお前さん、なんで裸なんじゃ?」

老婆が口を開いた。


「2年の先輩の寮に間違って踏み込んでしまいまして、遊んでもらってました」


「…さっそくかい。よく無事だったねぇ」


「頑丈さだけが取り柄なんで」


「はっ。面白いねぇ。で、名前は?」


「ラッシュ・ベルです」


 ほ〜

「…お前さんが、属性なし、適性なしの、かい?」


「はい!」


 おばあさんのメガネがきらりと光った。そしてカウンターの下から鍵を取り出してラッシュに渡した。

「お前さんの部屋は201じゃ。4人部屋じゃからね。喧嘩すんじゃないよ」

 

「うっす。あ、それで、お名前を聞いてもいいでしょうか?」


「私かい?」


「はい」


「寮のバーさんでいいよ」


「了解っす。寮のバーさん」


****


 ガンガン

 ラッシュは201の扉をたたいたが、返事は無かった。


「入りますよー」


 ぎーーーーー


 ラッシュは扉を開けた。

「お、2段ベッドだ」


 見ると、4つともきれいだし、荷物もない。

 まだ誰も来ていない様であった。


「じゃあ、まあ、俺は下でいいか」

 サイオンはもう着いたかな?あいつの寮もこんな感じなんだろうな。お貴族様にはさぞつらかろうって。いつ会えるかな…

 など考えながら、ラッシュはベッドの足元に荷物をおいて、ジャージに着替えトレーニングに出かけた。


 一階に降りると、寮のバーさんにスライムの出没場所を聞いてみると、サナンドの丘の平原地帯に行けば、幾らでもいるという。

 誰もスライムを処理しないので、増えて困っているという話でもあった。


 ラッシュは寮のバーさんにサナンド平原の場所を聞くと、さっそく向かった。


****


 サイオンの馬車がクインテックス・アカデミアの寮に到着した。


「ここまで送っていただきまして、ありがとうございました」

「後で皆さんにお手紙を書きますと、よろしくお伝えください」

 サイオンは御者に感謝した。


 サイオンは馬車を見送ると、クインテックス・アカデミアの寮の階段を上った。

 ふつうは御者がサイオンを見送るが、これがサイオンの人柄であった。


 アカデミアの寮は、まるで城の様な豪華さであった。泥沼学園とはあまりにも対照的であった。


 入口を入ると、絨毯が敷き詰められ、真ん中には大きな彫刻がおかれていた。

 想像上の初代大統領の全身像だという。


 カウンターから制服を着た女性が出てきて、

「ようこそクインテックス・アカデミアの寮へ」

 とサイオンを出迎えた。


「わたくしは受付のレイムと申します」

「お名前を頂けますか?」


「サイオン・ジャン・アルファルドです」


「お待ちしておりました。サイオンさんの部屋へご案内します。どうぞこちらへ。---入学式は3日後ですので、それまで自由にお過ごしください。---寮の庭と学校の校庭は繋がってますので、校内見学でも結構ですよ」

「---105。こちらがサイオンさんのお部屋です」


「ベッドルームが二つと書斎、バスルーム、キッチンの作りです。いちおう二人用ですので、シェアすることも可能ですが、お一人で使われますか?」


「今のところ一人がいいですね」


「承知しました。それでは、私はこれで失礼いたします。1年間よろしくお願いしますね」


 そう言って、レイムは部屋を後にした。


 ラッシュはもう王都へ到着しただろうか?

 サイオンはラッシュを思い浮かべていた。


**** 翌朝


 サイオンは、寮の食堂へ行った。

 食堂は1年から3年まで皆共同で使っていた。

 食材は国内の産地から取り寄せた季節の物が使用され、シェフは王宮料理人と並び称される腕を持つ人物に任せられているという。


 ただビュッフェスタイルは貴族にとって慣れないものであったが、地方遠征などでは、給仕がいるわけでもなく、このようなスタイルに慣れておく必要があった。

 サイオンは、食べ物をよそって空いているテーブルに座った。


 サイオンは極力目立たぬよう振舞おうとしたが、そのオーラにみんなが気づく。


 その派手なオーラにしばらくは誰も近寄って来なかったが、ゴージャスな金髪に金色の瞳を持ったまさに貴族を絵にかいたような生徒が近づいてきた。


「君、アルファルド家のサイオンくんだね?」


「はい、そうですが、なにか?」

 サイオンはその生徒を一瞥するが、反応が無いので食事の方に顔を戻した。


「貴様、無礼だぞ」

 取り巻きの一人が急に気色ばんだ。


「まあ、ここは学校だ。よさないか」

 

「はっ」


「僕は、こんど3年のフィリップ・エル・マクラーレン」


 サイオンは、即座に椅子からおり、跪いた。


「いいよ、サイオンくん。さっき言った通り、ここは学校だ。僕はただ今年の首席に挨拶をしにきただけだからね」


「殿下にそのようなお言葉をおかけ頂きまして、光栄に存じます」


「いいって、いいって。100年に一人の逸材と言われているんだ。ここでは君の方が優秀な生徒だよ。いずれ国に尽くしてくれ。頼んだよ。じゃあまたね」


「は!かしこまりました」

 サイオンは王子が去るまで頭を下げていた。


 ふー。なんとかやり過ごせたか。いるのは知っていたが、まさか向こうから声をかけてくるとはな。

 サイオンは頭を上げると、席に座り直し、食事を続けた。

む

「びびったなぁ。今の。殿下が急に来るとはな」

 茶髪の軽そうな男子生徒がサイオンの隣にいきなり座って話しかけてきた。


「君は?」


「おれは、今年の1年。ロベルタ・イルシタル。よろしくな」

「同じクラスならいいな。お前と共同訓練のパートナーを組めたら、満点間違いなしだ」


「なんとも調子のいいやつだ」


 サイオンは、一気に学園の注目の的になっていった。


****

 泥沼学園1年G組


 ここは1年でも最も成績の悪い奴が集まっているクラスである。


 だが担任は何と長い黒髪を後ろで束ね、斜め後の姿は妖艶な女性?の様な男性?だった。


「君たちの担任のナイスです。ヨロピクね♡」


「ヨロピクお願いしゃーす!」

 ラッシュがヨロピクお願いした。


「んだと、ヨロピクじゃねーって」


「あら元気良いのね。で何がいけないのかしら?」

「えーとザック・ニードルくん」


「ケッ、男なら男らしくしろってんだろが」


「男って何かしら?」

 コツコツコツコツ

 ナイスは一歩一歩ザックに近づいた。


「こういうのかぁ!ああん」

 と鬼の形相をザックに近づけ、ザックの顔を張り手でぶっ飛ばした。


 ドンラガラドカーン

 後ろの生徒ごと壁に吹っとんだ。


「おい大丈夫か?」

 ラッシュがザックに近寄った。


「いくら先生でも、入学そうそう、いきなりぶん殴るのは良くないんじゃねーっすか?」

 殴られた生徒の肩に手を当てて、横目でちらりとナイスを見ながら言った。


「あら、今のは張り手よ。張り手。教育的指導ってやつよ。それにしてもさっきナイスなお返事をしたかと思えば、またまたナイスなお友達思いの正義行動で、よしよし」

「悪くないわよ。えーとラッシュ・ベルね。。。。」

「はいじゃあ席に着いて、みんなナイスな自己紹介してね」


「じゃあ俺から」

 そう言って、ラッシュはザックに肩を貸して立ち上がり、

「俺はラッシュ・ベル、大統領になる男だ。以上」

 といった。


 馬鹿じゃねーのか?

 なめてんのか。

 完璧にあほだな。

 様々なざわつきが聞こえてきた。


「またまたナイスよ、ラッシュ・ベル」

 ナイスがちょっとトーンを落として真面目な顔で言った。


「次はお前な」

 ラッシュはザックに声をかけた。

 

「…俺はザックだ…よ、よろしく頼むぜ」


****


「はい全員終了ね。今日はこれから魔法検定をやるので、教習室に移動よ」


「先生しつもーん」


「何でしょうか?」


「検定は5歳の時に見てっけど、その後で属性が変ってるってあるのか?」


「そうね。属性は失われる事はありませんが、稀に別の属性が使えるようになる人がいます。適性はサボれば減り、鍛えればいくらでも上昇します。君たちの魔力偏差値が低いのはサボっていたからです。まあ、いくら頑張っても上がりづらい人もいれば、頑張り方を間違っている人もいますけどね」


「先生、俺も質問いいか?」

 別の生徒が質問した。


「なにかしら」


「検定は、教会でしかできねんじゃねーの?」

「俺は親からそう聞かされてたんだが?」


「そうね。昔はそうだったけど、この100年くらいは、石板が一定数作れるようになってね、一部の学園にも石板が貸与されるようになったのよ」

「もういいかしら…じゃあ移動よ」


 ゾロゾロゾロ

 ダラダラ


属性に適性。俺には何も無いのは分かっている。だが、あの日、光ってから何かが変化している。それが確認出来ればいいのだが----

ラッシュは考えながら歩いていた。


「さっきは、ありがとよ」

ザックがラッシュの後ろから肩に手を乗せた。


「ラッシュだ。ヨロシクな。同室のだろ?」

と言ってラッシュは右手を差し出した。


「いつもいねえのお前だったの?----で、何で俺って分かった」


「そりゃあんだけデカくザック参上って書いてあれば….」

ザックは少し考えて、ラッシュの手を握り返したが、その手の頑丈さに驚いた。

別に強く握られた訳でもないのに手が少し痺れた。


****


教習室に着くと、ナイスが順に生徒の名を呼んだ」


「次ラッシュ・ベル」


「うっす」


 ラッシュは今までの事が走馬灯の様に思い浮かんだ。だが、属性なし、適正なしは変わらず、今更と思い直した。


 そして板にそっと手をのせた。やはり光らない。


「やっぱり光らないわね」

 ナイスが言うとクラスのあちこちからざわめきが漏れた。


 だが青くぼんやりと文字が表示された。


 称号: スライム・スレイヤー  

 スキル: 自己修復


「な!」

「な?」

 ラッシュとナイスが同時に驚きの声を上げた。

 ナイスはラッシュの手を掴み、石板から離した。


「ラッシュ・ベル、後で話がある」

 ナイスがいつになく厳しい顔でラッシュを見つめた。


 ****


 授業が終わり、ラッシュとナイスは教務会議室のテーブルに向かい合っていた。


「ラッシュ・ベル、さっきのあれはどういう事かしら?」


「俺にも何が何だか、サッパリです」


 ここで嘘をつく意味はないはず。本当なのかしら?

「では、あなたもさっきの検定で初めて認識したということなのね?」


「はい。ただ」

 ラッシュは今までのことについて話をした。


「なるほど、あなたは今までスライム以外を倒した事がなかった。それで、3ヶ月くらい前にスライムを倒した時に体が光って、その後自己修復の体になったと」


「俄には信じがたいけど、その時にスライム・スレイヤーの称号を得たということかしらね。スライムを倒し続ける事がスライム・スレイヤーの条件なのかしら?あるいはあなたの様に属性がない、というのが条件に付加されているのかしら?」

「何にしてもこれはちょっと、いえ大事件ね」


「大事件、ですか?」


「そう、大事件よ。かつて称号がついた生徒なんていないし、世の中を見渡しても称号が付いている人は限られている。そうね。歴史上で見れば何人もいるけど、発表されて現存してる人では1人だけ。あなたは2人目ね。これが事件じゃなくてなんなのかしら?」


「でも先生、スライムっすよ、スライム。最弱っすよ。属性なしの俺でも倒せる魔物ですよ」


「称号は特別なのよ」

「他の生徒には気が付かれてないから、今は内密に。家族にも言ってはダメ。漏れればあなたの命に関わりかねないわ」


「命?」


「ええ、教会で調べられなくて良かったわね」

「教会に知られたら今頃五体満足で、ここにはいないかったかも」


「…」


「でもいずれバレるんだし俺は」


「ダメ!絶対にダメ。生徒たちの悪ふざけとはレベルが違うの、だから」


「分かったよ、ナイス先生、しばらくは二人の秘密ってことだな」


「そうね。でも学園長にだけは相談させて。あの人は信用出来るし頼りになるの」


「先生に任せる。俺は自分の身は自分で守るよ」


 ****


 クインテックス・アカデミア


「僕は担任の、レックス・ハモンズだ」

「これからみんなに自己紹介をしてもらう」

「まずは、サイオン・ジャン・アルファルドくんから」


「はい、わたし、いや俺は〜~~」

 ラッシュお前も今頃自己紹介してんだろうな。そしてこう言ってるはずだよな。

「俺は、大統領になります」

 がんばろうぜ、ラッシュ!


 おーさすが首席

 サイオンくん、かっこいい


 教室内はサイオンを賞賛する声で満たされた。

 だが当然、白けた目線を向ける者、そもそも相手にしていない者、敵対視している者もいた。


「はいはい、次は検定にいきますよ~」


 ****


「じゃあ、サイオンくん、石板に手を乗せてくれ」


 ピカーーー


「おーさすが5属性だな。魔法適性…はち、89」

「15歳時点の魔法偏差値 99」

 レックスが衝撃を受けた。

 僕だって適性79なのに。10も上って、担任やってけるのかなぁ。偏差値も聞いた事ない99ってなに?


 きゅうじゅうきゅーーーー

 統領レベルじゃないの?

 ばか、統領は100超えてるって。

 偏差値100ってあるのか?

 学生で適性89は異常だろ!


 学生程度は、どんなに高くても魔法適性50程度。それでもエリート中のエリートと言われるレベルである。


 みな口々に驚きの声を上げた。

 先ほど白けた目線を向けていたクラスメートも、畏怖であろうか恐怖であろうか、怪しい視線に変わっていた。


 **** 泥沼の1年寮


「ただいまー」

「寮のバーさん、いないのか」


 ラッシュは部屋に戻ると、学校の体操着に着替えて、トレーニングに出かけた。

 王都の見える丘に草原があり、そこにスライムがいた。

 ラッシュは片手に岩を持ちながら草原を駆け回り、スライムを狩っていった。


 午後からだったが、この草原にはスライムが多く、割と短時間で100匹は倒せた感じであった。

 だが王都のスライムはルーメンの青いスライムと違って緑色であった。


 それにしても、スライム・スレイヤーってのは、いったい何なんだろうな。

 まあ、しょせんスライムだし、弱っちい感じだよな。

 とはいえ、自己修復ってのは助かるから、弱っちい称号でもまあ、問題ないな。全く。

 それに、この学園にきて自己修復が確認出来ただけでもめっけもんだよな。

 けど、ナイス先生の言ってる通りとすれば、スライムごときの称号だけど、俺ってやばい奴なのか?

 いやいや、スライムだぞ。スライム。

 ただ、おかげで、何やっても腹も空かなきゃ、喉も乾かない、眠くもない…気を付けないと、以前の様に骸骨になっちまうが…

調子に乗らず、ちゃんと喰って飲んで寝ないとな。


ラッシュは色々考えつつ、ズバズバとスライムを狩りつつ、ほどほどのトレーニングで、寮に戻っていった。


ここまで読み進めて頂きましてありがとうございます。

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