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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
中等部編

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オブラート

「殿下、質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 私はそっと手を挙げた。

「ああ構わない。ジュテスト医師、いいかね?」

「はい。もちろん」

「お薬について教えてください。お薬は丸薬でしょうか? それから味はあるのでしょうか?」

 リオン殿下とジュテスト医師の許可を得て、私は単刀直入に聞いた。

「丸薬です。味はないということになっておりますが、少々刺激がありますので、口に入れた時に違和感はあるでしょうね」

「粉末などにしては、効能がおちたりしますか?」

 丸薬の中には、割ったりするとよくないものもあったりする。

「数日のことなら、特に大きな変化はないでしょう」

「おい、アルキオーネ、別に妃殿下は、味が嫌で飲まないわけでは……」

 兄は呆れたように口をはさんでくる。

「一緒に混ぜたら、いけないものとかはありますか?」

「それも……ないかと」

 ジュテスト医師は顎に手を当て考えながら答える。

「アルマク嬢?」

「場合によっては、お食事に入れる方法はどうかななんて思いまして」

「食事に?」

 その場にいた全員が『正気なのか、こいつ』みたいに私を見る。でも、ほら。前世ではお薬ゼリーとかあった。オブラートでくるむなんて方法もあったけれど。

「妃殿下のお食事に薬剤を混入させるとか、まずいだろうが」

「まあ、よろしくはないでしょうね。妃殿下を謀るようなものですし。説得をして普通に服薬していただくほうがよろしいのは間違いないです」

 あくまで最終手段の話である。

「ただ、宗教的な忌避感以外にお薬に嫌な感じがあるのであれば、そちらを取り除くことで飲みやすくなるのではないかと」

「ああ、それで、味か」

 殿下がポンと手を打つ。

「あと、現在のルシアーナさまはどの程度、味を感じられるのでしょうか?」

「おそらくは、すべてがぼんやりしているかと。甘味については多少お分かりになるようですが」

 ジュテスト医師は首を振る。

「ということは、仮に料理に混ぜても薬の味もお分かりになられることはないとみてよろしいですか?」

「いえ。逆によくわかるかもしれません。刺激があると申し上げましたでしょう? 味覚というか、食感というか。弾けるような感じがあるかと」

「ああ、なるほど」

 それは面倒な話だ。

「そういえばその刺激が『魔獣』の『汚れ』と感じられて、忌まれていたかもしれません」

 ポンとジュテスト医師は手を打った。

「現在服用されている塔で作っている結晶は、火の魔力の濃度が薄く、また他の魔力が若干混じってしまっているものです。ですからそこまで刺激は感じられないはずですから」

「なるほど」

 ということは、オブラートでくるめば、いいかもしれない。

 オブラートってもともとは、キリスト教の聖餅を薬を飲むのに使えないかって思ったのがきっかけとか聞いたことがある。だったら、なおさら使える。

「ちょっと試してみたいことがあるのですが。ゴルという薬剤は高価でしょうか? あと、健常者である私が服用しても大丈夫でしょうか?」

「そこまで高価というわけではありません。少量なら大丈夫でしょう。多く飲むと、鼻血などが出る可能性が高いですけれど」

「アルマク嬢、一体何をするつもりだい?」

 リオン殿下が目を瞬かせている。

「あの。厨房をお借りできませんか? それが無理なら、そのゴルという薬剤を買って帰りたいのですが」

「おい、アルキオーネ」

「ゴルという薬剤の刺激を感じさせにくくするものを作りたいと思います」

 完全に前世のオブラートみたいなものを作るのは無理かもしれないけれど、似たようなものはできるはず。オブラートって、要はでんぷんだから。

「でも作っても、母上がそれを飲まなければ意味はないのでは?」

「それについても、考えがあります」

 刺激が『汚れ』であれば、刺激が弱まれば『汚れが浄化した』と感じるかもしれない。

「わかった。すまぬが、ジュテスト医師、厨房を借りられるか?」

「ええと、それは構いませんが、一体何をなさるので?」

 ジュテスト医師は困惑の表情を浮かべている。

「薄い食べられる『紙』をつくるのですわ」

 うまくいくかわからないけれど、とりあえずやってみることにした。



 医務庁の厨房は、かなり小さかった。

 ここに食堂はなく、せいぜいお茶を沸かしたりする程度にしか使わないらしい。それでも、一応は、水と片栗粉はあった。

 ちなみに、前世でオブラートを作ろうと思ったことは一度もない。

 ご飯を炊いた時に炊飯器につく糊状のものが似ているなあ、くらいの感覚だった。うまくできるかは全く自信がない。

 厨房には私と、ジュテスト医師だけ入って、残りの人間は外で様子をうかがっている。

「それで、何をどうなさるおつもりで?」

「私も手探りなので」

 片栗粉に水を入れて、攪拌したあと、とりあえず、フライパンで出来る限り薄く焼いてみた。

 パリっとした感じのせんべいみたいなものができた。水で湿らせれば、包めなくもない。

「ゴルをいただけますか?」

「はい」

 刻んだ薬剤をふやかしたせんべいで包んでみる。無味だ。口に入れた時にあるという刺激は感じない。

「とりあえず、当初の目的は達していそうです。理想には程遠いですけれど」

「では、私も試させてください」

「いいですよ」

 もう一度、焼いた片栗粉せんべいを少しふやかして、ゴルを包んだものをジュテスト医師に渡した。

「ん? たしかに感じませんね」

 ジュテスト医師は驚いたようだった。

「理想は、もう少し薄くて、水につけなくても包めるように柔らかい感じにしたいんです」

「素晴らしい。これは一つの革命ですね!」

 ジュテスト医師は私の手を握り締めて、目をキラキラさせている。

「これなら、苦い薬が飲みやすくなります」

「まだ、改良の余地はありますけれどね」

 今の状態は私から見れば、片栗粉のせんべいとしか言えない。オブラートの理想には程遠い。

 正式にはお湯とでんぷんを混ぜて攪拌したものを、ドライヤーで薄くして乾かすんだった気がする。ドライヤーは魔術で何とかなるとして、どうやって薄く延ばすのかが難しい。

「なあ、結局何を作っているんだ?」

 ジュテスト医師があまりに興奮するので、兄が声をかけてきた。

「これですよ」

 私は、片栗粉せんべいを焼いて兄に渡した。

「無味じゃん」

「まあ、無味ですね」

 もちろん味をつけることも可能だけれど、どちらかといえば、もっと薄くすること、もっと柔らかくすることの方が大事だ。

「つまり、これで包んで、刺激を減らすということか……」

 気が付いたら、殿下もゴルの味見をしている。皇子って、こんなに無防備にものを口にしていいものだろうか。

「刺激はなくなるけれど、そうなったら飲むという保証もないんじゃないのか?」

 兄は半信半疑だ。

「神殿に頼むのですわ」

 さすがに光輪派の司祭がやってくれるかはわからないけれど。

「ありがたい祈祷をしてもらうのです。その神の祈祷を終えたもので包めば魔物の穢れが浄化されることにしましょう」

「しましょう、ってお前な」

 兄が呆れた声を出す。

「光輪派の信者の方でも、お薬が飲めるようになるのであれば、それは神の御心に沿うものではありませんか?」

 詭弁かもしれないけれど。

 救える命を救えるようにするための、小さなこじつけくらい、神さまも許してくれるはずだ。というかそのくらい寛容でなくてはと思う。

「神殿にこの発明を渡してしまわれるのですか?」

 ジュテスト医師が惜しむような顔をする。

「いえ。協力を願うだけです」

 今のままでは片栗粉せんべいの域を出ない。実用のレベルまで持っていくには時間が必要だ。

「なんにしても、ルシアーナさまに飲んでいただくことが最重要ですから」

「それは、そうですわね。位の高い司祭が協力してくださればいいのですけれど」

 納得してもらうには、もう少し『こじつけ』するにしても説得力がいる。

「そのうえで、まだこの片栗粉せんべいもどきが必要であれば、その時は神殿ではなく、魔術師に協力を仰ぐのが賢明かと思います」

「わかった。母上を説得するために、皆で知恵を絞ろう」

 殿下は静かに頷いた。

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