第238話 【攻略対象 平凡村娘】崩壊しかないゲームからの離脱
レーナは、まだ一人を選ぶことなどできない。
これまで世界救済を言い訳に、攻略対象らからの想いに気付かないふりをし、自分の心に向き合うことをしなかったから。
(しっかりと向き合わないうちに、皆の良いところがどんどん見えてきて、益々誰も選ぶことなんか出来なくなっちゃった。ゲームとは違うところを知ればもっとって、彼らを知りたいと思えるようになった……なんて言ったら怒られるかな?)
居た堪れないその場を離れたレーナは、ファルークの手を取って踊りの輪に加わった。
『止めてくれ、娘。ワレは漸く復活したばかりなのだ。再びこの身の炎を消さんと零下の視線を向けて来る者どもの殺気が痛い』
「ごめん、ちょっとだけ時間稼ぎさせて。リュザスやエドには良く言っておくから」
ファルークが気にする視線の主をチラリと見遣って、その形相にレーナは苦笑する。
かけがえのない存在となっている彼らの手は、とてもではないがその場の流れで軽々しく取れるものではなかったのだ。無心で踊りの輪の中に加わり、くるくると舞いながら意識は思考の底に沈ませる。
最高神リュザスは、孤高であるが故の寂しがり屋で、それを隠す軽薄な素振りばかりする。神であるからこその不遜な態度をとりながらも、意外過ぎるほど人間的な彼は、最初こそ蛙化して粗ばかりが見えた。けれど誰よりも強くレーナを必要とし、世界を変えてもレーナに尽くそうとする彼に絆されつつある自分も自覚している。
エドヴィンは、幼い日々をシュルベルツの領主館で共に学び、研鑽し合ってきた高めあえる相手だ。精霊姫の事件では、彼女の血を引く一族の愛情深い面を知ることも出来たし、彼と共に手を取り合う探検や調査も、安心感があり楽しくもあった。折々に向けられる、隠しきれていない熱い視線の意味に気付かないレーナではない。
アルルクは、故郷を同じくする赤ん坊のころからの付き合い――いや、レーナが面倒を見て来た大切な存在だ。無条件にレーナを慕って後ばかり追って来た彼が、この頃は無邪気を装って、気遣いを見せるようになったのも実は彼女は気付いている。頼もしく思うと同時に、手の離れつつある彼の姿に、一抹の寂しさを覚えるのも事実だ。
色んな相手との愛を愉しむことが出来るのは、期間限定であるゲームであるからこそなのだ。平凡でしかないと自らを断じるレーナは、唯一思う相手に愛情を注ぐことで手いっぱいだ。
『潮時だ、娘。我とてお前たちと出会って愛情の向け方を学んだ、任せておけ』
ふいに、ファルークが呟いた。
次の瞬間、くるりとターンをしたところで、強引にレーナの手をファルークから奪い取り、腰に手を当てて引き寄せる者がいた。
「エド」
「黙って待ってられない。選んでくれるまで待ってたら、肝心なところでボンヤリして、楽な方に流れてしまうレーナは、きっと私たちが死ぬまで結論を先延ばしするだろう? 傷つけないために、とか言って」
真摯なエメラルドの双眸が、ひたりとレーナを射抜く。彼の視線は僅かも揺るがず、レーナの不安定な気持ちをしっかりとホールドする。
「レーナ。本当は、君のヒーローになりたかったんだけど……私が悪者になるから、このまま手を取って欲しい」
「ありがとう。エド」
言った瞬間、レーナは両肩から力が抜けて、ふわりと顔が微笑の形を取るのを感じた。ようやく、崩壊しかないゲームから抜け出られて安堵したのだと、気付いたのはその時だった。
次回、最終話です!




