第237話 【攻略対象 平凡村娘】レーナのドレスを彩る色色色
「私の手を取ることも、考えて欲しい。けど、ひとまず今は、遊戯と学院からの卒業を共に祝おう。
レーナ、私と踊っていただけますか?」
「エド……」
きらびやかな舞踏会場に、卒業生らが繰り出せば、あちらこちらで色とりどりのドレスの花が咲く。華々しく彩られた周囲に引けを取らない、神々しく美麗なエドヴィンの振る舞いに、レーナの心臓は大きく跳ねて、頬が赤く染まった。
『ふふっ、よくぞ言ったわ! あたしの子孫!! これはあたしからの援護射撃よっ!』
すぐ側の空中でニヨニヨしながら見守っていた精霊姫が、いつかの謁見の間の時と同じく、レーナの纏うドレスのスカートの裾から蔓薔薇の茎を這い上らせる。
茎は、緑の葉を青々と繁らせて複雑な植物紋を刻み、あっという間に白いドレス全体に広がった。
(ちょ! これじゃ、エドの婚約者みたいよね!?)
慌てるレーナだが、蔓薔薇の侵食は既に達成されており、引き剥がすにしてもドレス全体を覆ってしまったモノを取り除くのは骨が折れる。
「あーあ、駄目だよ精霊姫? 君がそんな抜け駆けに手を貸しちゃ。だったら僕はこうするね」
羞恥と困惑に頭を抱える寸前のレーナに、止めを指すつもりなのか、リュザスの声と共に蔓にはいくつもの蕾が膨らんで、一瞬にして虹色の大輪の薔薇を咲かせた。
幻想的な光景に会場中の視線がレーナに集まる。ざわつき、感嘆の声にもれなく変化して、漏れなく跪くエドヴィンにも気付くのだ。少女らの華やいだ微かな悲鳴までもが混ざる。
(ちょ!? えぇーー!? 皆が大注目のこの状況で、エドヴィンの手を取るのはムリムリムリムリ!!
リュザスまでしれっと、両腕を広げて隣に立たないでーーー!!)
当人も心の中で、令嬢らの大絶叫の輪に加わる。
更に間近で「あぁーーー!?」と少年から青年に成りかけた、テノールの大声が上がる。
「レーナは白が良いって言ってんだろ!? 神様でもレーナが駄目って言ったことするなんて、許さないんだからな!」
アルルクが龍化して、レーナに向かって細く火炎を吐く。何を、とその場の誰もが驚愕する中、絶妙なコントロールで操られた炎は、ドレスに絡み付いた蔓薔薇を燃やしきる。アルルクは満足げな得意顔で駆除作業を終えたが、まだチロチロと燃える微かな朱色は残っている。
『気持ちが駄々洩れてるノネ。ツメが甘いなノネ』
ヴォディムの肩に巻き付いていたゾイヤが鼻で嗤うと、残り火目掛けて水滴が弾ける。漸く完全消火となった。
復活したレーナの修繕によって、形を取り戻したばかりのゾイヤは、マフラー程度の体長となっているが、その能力は衰えていない。更に、小さくなったことで水の精霊王ヴォディムに文字通り絡み付けるようになり、満足げだ。
「もぉっ! アルルク、室内では火気厳禁なんだからね!!!」
頬を膨らませてレーナが赤龍の首を捕まえると、彼は一瞬で幼龍の姿に変化して脱走を試みる。だが、幼い頃から彼を知り、扱い慣れているレーナによって呆気なく捕獲されてしまった。
「みぎゃ!? ぎゃう、ぎゃぎゃぎゃうっ!?」
「かわっ……!? チ、チビドラゴンの姿で、可愛く小首を傾げたって、許さないんだからね!」
どたばたと騒ぎながらも、どこか内心ではほっとしているレーナだ。全力でアルルクを叱る体で、その場を有耶無耶にした。
いつもの軽装鎧姿に戻って「ごめんって」と謝るアルルクが、決意できないレーナを労る優しい笑みを浮かべているのにも気付かないふりを決め込んで。




