第151話 【攻略対象 隠しキャラ?】誘惑のクラウディオ王子
本来のクラウディオ王子も、不愛想なことはない。王族らしく凛とした佇まいの中にも、安心感を与える穏やかな笑みを湛えた好青年だ。けれど宣言をして後、彼のとった表情は、甘く妖艶で、見た者は魅了されずにいられない――そんなものだった。
「レーナ! 見ちゃだめだ!!」
「くっ! あれは危険だ!! すでに何人かのご令嬢は手遅れだっ」
アルルクとエドヴィンが、なにやらとんでもない事を叫び、両脇からレーナの頭を押さえ付ける。
「まさかわたしのせい!? 王子はどうなっちゃったの!? シルヴィアさんは!?」
床しか視界に入らないレーナの声に、シルヴィアが「私は大丈夫です!!」と応えるのが聞こえる。次いで、そろそろと這った格好でシルヴィアがレーナの視界に入り込んで来た。
「レーナさんっ、ごめんなさい……。私っ、色々とひどいことをして……。教会で――多分、今のクラウディオ様と同じ声を聞いたあたりから、おかしな考えに誘導されるようになってしまって……」
悲痛と羞恥が綯い交ぜになり、赤面しながら苦痛に耐えるように顔を歪ませるシルヴィアが、ちらちらと背後へ視線を向ける。おそらく、王子の姿を見て、黒いリュザスに操られていた少し前までの自身に重ねているのだろう。
「君たちも私の元へ戻っておいで。傍にいてくれる。それだけで君が私の力となるんだ。アルルク君も学院の垣根など飛び越えて私の元に来ておくれ」
クラウディオ王子の甘やかな声が、こちらに向けられると同時に、レーナの頭を押さえ続ける2人の手が小刻みに震える。「ぅぐ」「やば」などと不穏な呟きが聞こえるが、床しか目に入らないレーナに状況を確認する術はない。レーナの代わりに状況確認をしてくれそうなシルヴィアは、更に顔を真っ赤にして目を見開いているだけだし、プチドラも『はわわわ』などと意味をなさない声を上げて、答えを返してくれる余裕は無さそうだ。
(いやいや、おかしな展開になってるよね!? これまでは、攻略対象を堕としてハーレムを狙おうと行動してたのは、ヒロインのシルヴィアだったけど……。その実行役が王子に変わったってことは――よ?)
「エドヴィン。君のエメラルドの瞳は、慈悲深き光で私を導いてくれる。
アルルク。君の炎の如く力強い存在感は、私に勇気を与えてくれる」
どちらかの手が、レーナを抑える力を抜いたのが伝わって来る。
「君たちは私の心の中でいつも輝いているんだ。責務の重圧に耐えながらも、それに真摯に向き合う時、心の支えとなる君の名が唇から零れ落ちるんだ」
甘く切ない言葉が、レーナの側から2人を絡め取ろうと強力な呪文の如く繰り出される。レーナの頭に置かれた手が伝える動揺は、クラウディオ王子の口撃が続けば、何れは陥落してしまうことを意味する気がして――レーナの心臓がドクンと跳ねた。
もしかすると、エドヴィンやアルルクが王子のところに行ってしまうかもしれない。
それを想像して、動揺すると同時に否定する。
(ちがうちがう! そうじゃない!! エドヴィンはリュザス様探しで、情報や交友関係で力を貸してくれるドリアーデ辺境伯の嫡男なのよ! アルルクはリュザス様探しで、どんな遠くでも、馬車なんかよりずっと速く連れて行ってくれる移動手段で! だから、とっても頼りになる存在ってことで・さ!? 好きとかとはまた別枠でっっ)
「さあ」
甘やかに呼びかけるクラウディオ王子が、こちらに近付く気配がする。さらに頭上に残された手もピクリと震えて感触が離れたところで、堪らずレーナは勢いを付けて顔を上げた。
「2人は大事な人なんだから!! 連れてっちゃダメーーー!!」
大声で叫んでしまってから、周囲の――特に至近距離の2人から向けられた驚愕の視線に、失態を悟った。




