第150話 【攻略対象 隠しキャラ?】ヒロイン強制変更!
―― あともうちょっとで、学院からも、邪魔者からも引き離すことが出来たのに。残念だなぁ ――
リュザスもどきの青年は、口元に笑みを湛えながら軽い口調で言葉を紡ぐ。けれどその視線は憎々し気な険しいもので、ひたとレーナに向けられている。
「レーナの知り合いなのか? それとも遊戯絡みの因縁……か?」
隣に立つエドヴィンもリュザスもどきの悪感情に気付いて、レーナに訊ねて来るが全く覚えは無い。追い求めて止まないリュザスとは、色味が異なるだけの瓜二つの青年だ。何か関わる事があったなら、レーナも玲於奈も忘れるはずはない。
もとより静まり返っていた舞踏会ホールは得体の知れない存在の顕現で、ピンと糸を張り詰めた緊張感に包まれている。
唾を飲み込む音さえ響いてしまいそうな静寂の中、ふらりと頭を傾がせたシルヴィアが大きく目を見開いて勢いよく顔を上げた。
「う……うぁ!? 私っ、戻ってますか!? 」
目覚めたのか、正気に戻ったのか。ひどく慌てて、自分の顔や身体をパタパタと手で触り、何かを確認するそぶりを見せる。一方、至近距離に居たクラウディオ王子は、状況が呑み込めないながらも何かが起こったらしきシルヴィアに、気遣わし気に手を差し伸べる。
「おかえりなさい、シルヴィア嬢」
バルザックがニコリと微笑んで声を掛ければ、シルヴィアは「先生……」と感極まって潤んだ瞳を向けた。
―― あーあ、折角うまくいってたのに。酷い人間だなぁ ――
黒いリュザスが、顔にまとわりつく艶やかな黒髪を掻き上げれば、凄絶な色気が漂う。更に、薄く形のよい唇の両端を吊り上げれば、色香は一瞬で消え失せて邪悪な冷気が漂う。
―― ま、やり直せば良いだけだよね。面倒だけど ――
あくまで笑顔で。けれど硬質な声を発すると同時に、流れる動作でシルヴィアを指差す。
「シルヴィアさん! しゃがんで!!」
結果を見る前に、反射的に叫んだレーナの声を聞き取ったシルヴィアが「えぇっ!?」と困惑の声を上げつつも、素直に腰を落とす。
と同時に、黒いリュザスの指先から噴き出した黒い靄が一塊となって勢いよく――彼女の頭があった場所めがけて飛んで行く。
(やっぱり、何かしようとしてた!!)
結果を見て、自分に心の中で快哉を上げるレーナだ。
最高神と瓜二つでありながら、虹色のオリジナルとは真逆の黒を纏った青年が、清浄な存在であるはずがない。しかも、これまで出会って来た最高神リュザスの力の分身体である宝珠の化身たちは全て、自己中心的な性質の持ち主である。それらをよく知っているレーナだからこそ、咄嗟に出せた指示は正解だったと言えよう。
だが平凡を自称するレーナだけあって、完璧ではなかった。
マトを見失った黒い塊は僅かに弧を描いて飛び、最も手近な物をマトとして捕らえた。
「あっ!!」
上がった声は、青年期に差し掛かった少年のものか、若しくは、まさかのとばっちりに驚愕するレーナのものか。それに気付いた者全てが愕然と目を見開く中、マトとなって全身を硬直させたのはクラウディオ王子だった。だが彼は、すぐさま素早く居住まいを正し、晴れやかな笑顔を正面に向ける。
「私に神託が下された! 私は、すべての人を愛し、愛されなければならぬ!!」
王子の堂々たる宣言に、ホールに集った面々は息を飲み、何人かはパタパタとその場で崩れ落ちた。




