第100話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】ベルファレア王国への帰還
水の精霊王ヴォディムと水龍ゾイヤはベルファレア王国の西、多数の島々からなる海洋王国アクアラノス共和国の沖合に沈む巨大な海中神殿に向けて空を駆けて行った。ヴォディムを背にしたゾイヤがやる気に満ちすぎて、火龍ファルークの周囲に円を描いて煽った拍子に、ヴォディムを落としかける一コマもあった。
美しさ重視の乙女ゲームでは描かれなかった一幕に、ここは現実なのだと改めて実感したレーナだ。
火龍ファルークはと言うと、ゾイヤの曲芸飛行に「かっけー!」を連呼するアルルクを見て、対抗しようとしたのだろう。レーナら一行を乗せた真新しい馬車を抱えたまま、上昇急降下に旋回といったジェットコースター飛行をして、カンカンに怒ったアルルクに怒られ、しょげていた。
「レーナが吐いただろ! モノには限度ってもんが あんだからな!!」
『すまねぇってよぉ。ワレはお前に喜んで欲しかったんだよぉ』
今は絶賛、レーナ嘔吐の件で攻略対象同士が喧嘩中だ。
「居た堪れない……止めてほしいわ。ヒロインなら嘔吐なんて絶対にないだろうけど、平凡村娘にしたってこれは無いわよね」
『近寄らないで、酸っぱい匂いでエドまでうつっちゃうから』
「いや、私は構わないぞ! レーナ、私はいつだって味方だ! 嘔吐くらいで離れたりしない」
「嘔吐、嘔吐言わないでぇぇぇ」
こうして、ヒロインではありえない大騒ぎをしながら、誘拐現場まで送り届けられた一行は、取り残されていた面々と無事合流を果たして帰国の途に就いたのだった。
嘔吐と騒がしいレーナらは、それから程なく王都行きとなるのだが、それはまたのお話で―――。
第2章 火龍・水龍 編 ― 完 ―




