第37話【海の魔王】(前編)
とある孤島で難破した海賊達を見つけたエル達。
海賊達の話で付近の海域でアルドーラへ向かう船を次々と沈めている者がいると知り、 警戒をしつつも再び航海を始めた。
「……」
「……」
「お嬢、 船酔いは大丈夫ですかい? 」
「お嬢、 何か欲しいものは無いですかい? 」
海賊達がルーミとフェミルを異様に気遣っていた。
その様子を見ていたシュラスとエルはただ見ている事しか出来なかった。
……もしかして……さっきフェミルちゃんが海賊達を倒したから? 強い人に従うって言ってたけど……
そんな事を考えながらエルはルーミとフェミルの様子を見ていると
「だぁぁぁぁ! 鬱陶しいんだよお前ら! 」
「う、 うん……ちょっと気を遣い過ぎかなぁって……」
ルーミとフェミルがようやく反応した。
すると海賊達は申し訳なさそうに
「す、 すいやせんお嬢! 俺らは強い奴に付いて行くのが本能みたいなものでして」
彼らを倒したフェミルはもはや海賊達にとってのボスのような存在になっていたのだ。
するとフェミルは言う。
「まずはお嬢ってのをやめろ! 呼ぶんなら『船長』と呼びな! 」
「え……そういう問題? 」
……フェミルちゃんが船長……この船を作ったのはシュラスさんなんだけどなぁ……
エルは恐る恐るシュラスの方を見る。
シュラスは何とも思っていない様子。
「シュラスさん……いいんですか? 」
「……俺は別に誰がリーダーだろうが知った事ではない……やりたければ船長でも何でも好きにすればいい」
まぁ……シュラスさんらしいか……
そう思った時、 エルはふとある考えが過る。
……もしフェミルちゃんがこの海賊達の船長になったら……ルーミちゃんも付いて行くだろうし……そうなると……私達……お別れになっちゃうのかな……
エルはそう思いながらルーミとフェミルを見る。
「船長! もう一度俺らにやったあの技を見せて下さいよ! 」
「へへっ、 しょーがねぇなぁー! 」
「ちょちょちょ! こんな所でやったら船が沈んじゃうって! 」
二人はとても楽しそうにしている。
……そうだよね……久しぶりに自分たちと同じ獣人族の人と会えたんだものね……それにあんな賑やかな人達に囲まれて……
「……このまま……二人とお別れになっちゃうかもですね……」
つい思ったことが口に出てしまったエル。
「……そうなっても別に構わん……それがあの二人にとって一番なら……俺は止めはせん」
シュラスさん……
二人の様子を見ながらシュラスは相変わらずの口調でそう言った。
船の賑やかさは夜になるまで続いた。
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そして真夜中、 海賊達やフェミルが寝静まった時……
「……」
エルは一人で甲板から夜の海を眺めていた。
……ルーミちゃん達……楽しそうだったなぁ……
エルは昼間の出来事を思い出す。
……あの二人にとっての幸せか……ルーミちゃんは……どうするだろう……私達とこのまま冒険を続けるのか……それとも……
そんな事を考えていると
「エルちゃん……」
「! ルーミちゃん……」
ルーミが背後から声を掛けてきた。
彼女も何か話したいという様子だった。
そしてルーミはエルの隣に立つ。
「……ルーミちゃん……」
「フェミル、 凄く楽しそうだったね」
「……うん」
二人はそれだけ言うとしばらく沈黙が続く……
そして波の音が少し静かになってきた時にルーミが口を開く。
「私……海賊の人達に聞いたんだ……海賊はただ海の平和を守るだけじゃないって……」
「……」
「世界中に隠された財宝や絶島を探し回って冒険したり……皆でワイワイ騒ぎながら船で宴会をしたり……とっても楽しそうな事をしてるんだって……」
ルーミは珍しく静かな様子で話す。
「……やっぱり私とフェミルって漁師の娘なんだなぁって思ったよ……だって聞いてて凄くうずうずしてきちゃったもん……」
するとエルは核心を突く質問をする。
「ルーミちゃん……海賊の人達と一緒に行きたい? 」
「……」
ルーミは凄く迷っている様子だった……
……ルーミちゃん……悩んでる……
そしてしばらくしてルーミが答えようとしたその時
「何かいるぞぉー! ! 三時の方向だ! ! 」
船の見張り台から海賊が叫んだ。
その声に驚き二人はその方向を見る。
眠っていた他の海賊達も飛び起き、 甲板に集まってきた。
「何だ? 」
「まさか……」
「あっ、 おい! 海の上で何か飛んでるぞ! 」
全員が見たのは……
「……人……? 」
海の上空で浮かぶ謎の人影だ。
暗くてよく見えない一同。
そこに今まで雲に隠れていた月が姿を現す。
そしてそこにいたのは……
「あれってもしかして……」
「逆さ星……」
黒いボロボロのローブを身に纏った一人の髪の長い人物。
その顔には遠くて見えなかったが、 見覚えのある仮面を着けていた。
その人物を見た海賊達は慌てる。
「あ、 あいつだ! 俺達の船を沈めたのは! 」
「野郎……また現れやがった! 」
海賊達は慌てながら船の作業に取り掛かる。
「奴と反対の方向に逃げろぉー! 距離を取るんだ! 」
船を旋回させ、 海賊達はその人物から距離を取ろうとする。
そんな中、 シュラスがエル達の元に現れた。
「シュラスさん! 」
「来るとは思っていたが……まさかこんな真夜中とはとんだ迷惑なものだ……二人は奴からの攻撃に備えろ、 俺は船に結界を張る」
『はい! 』
そしてエルとルーミは謎の人物が良く見える場所に移動した。
すると……
『……』
謎の人物は手を前に出し、 光る玉を飛ばし始めた。
あれは……まずい……!
本能的に危険を察したエルは咄嗟に海の上に氷の壁を生成し、 光る玉を防いだ。
次の瞬間
『ドォォォォォォンッ! ! ! 』
氷の壁に光る玉が当たった瞬間大爆発が起きた。
その威力は分厚く巨大な氷の壁をあっという間に粉砕する威力。
衝撃波で荒波が立ち、 船が大きく揺れる。
「あの光だ! あれで俺達の船が沈んだんだ! 」
「絶対当たるな! 」
海賊達はエル達に警告する。
……凄まじい魔力密度……これだけの魔力を持つ人間って……もしかして魔王……?
「どうしよう……船が揺れて正確に撃てないよ」
揺れる船の上で宙に浮かぶ人間を攻撃するのはそう簡単な物ではない。
エルが悩んでいると
「エルちゃん、 氷の床を空中に作る事って出来る? 」
ルーミがそんな事を聞いてきた。
「え、 うん、 人一人が乗れるくらいなら出来るけど……もしかして……」
「そう、 そのまさか! お願いエルちゃん! 」
そう言うとルーミは手すりに乗り、 船の外へ身を投げ出した。
「えぇっ! ちょ、 いきなり! ? 」
エルは慌てて氷の床をルーミの足元に生成した。
「うん……生成速度は申し分ないか……エルちゃん! あの人の所まで床を生成して! 」
「えぇっ! ? ……もぉぉ! こうなったらやけだ! 」
そう言うとエルは氷でいくつもの小さな床を生成し、 謎の人物の所まで行けるように並べる。
謎の人物は相変わらず船を追いかけるように宙を飛んでいるだけで攻撃はしてこない。
その様子を見たルーミはチャンスだと思い、 氷の床を跳んで行き、 謎の人物の方へ向かっていった。
そしてルーミは謎の人物の目の前まで来ると高く飛び上がり、 両手に短剣を持ち、 斬りかかった。
しかし……
「……ッ! ? これは」
『……発想は悪くない……だが弱いな……』
謎の人物は片腕だけでルーミの短剣を止めた。
腕は金属のように固く、 刃が全く通る気配が無い。
「かっっった……! 」
ルーミはその硬さに驚いていると謎の人物はルーミの腹を蹴り飛ばした。
咄嗟に受け身を取ったルーミだがそのまま宙に投げ出されてしまう。
すると
「……! 」
ふとルーミの視界に宙に浮かぶ氷の壁が入った。
その壁は丁度ルーミが飛ばされる方向に生成されており、 丁度ルーミがぶつかる距離にあった。
ルーミはエルの方を見るとエルは静かに頷いた。
そして察したルーミはエルが生成した氷の壁に足を向け、 踏み込む体制に入る。
それを見た謎の人物は気付いたのか、 咄嗟に防御の姿勢に入る。
次の瞬間
「うらぁぁぁぁ! ! 」
ルーミは思い切り壁を蹴り、 目にも留まらぬ速さで謎の人物の方へ突進してきた。
謎の人物がルーミとぶつかる瞬間、 激しい金属音が鳴り響く。
見ると謎の人物の腕にわずかながら切り傷が入っていた。
ルーミはそのまま謎の人物の背後へ通り過ぎるとまた別の氷の壁が生成される。
そして再びルーミは氷の壁を蹴り、 謎の人物を斬り付ける。
それを繰り返す内に謎の人物の周囲にはいくつもの氷の壁が生成され、 ルーミがその壁を利用してありとあらゆる方向から攻撃を仕掛ける形となった。
「……咄嗟に思いついたけど……案外いける! 」
「おぉすげぇぞ船長の姉御! あの魔法使いの嬢ちゃんが作った氷を利用してやがる! 」
その様子を見ていた海賊達は歓声を挙げる。
『ぬぅぅ……小賢しい真似を……』
「私とエルちゃんの連携技! 名付けて……」
『氷牙鎌鼬! 』(ひょうがかまいたち)
ルーミは風のように早く動き回り、 超高速で攻撃を繰り出し続ける。
しかし……
『ぬぇぇぇい……! ! 』
謎の人物は両手を広げると凄まじい衝撃波が発生し、 氷の壁が粉砕し、 ルーミは船の方まで吹き飛ばされた。
「ルーミちゃん! 大丈夫! ? 」
「いてて……大丈夫! それよりあいつ……殆ど攻撃が通じない……もしかしたら魔王かもしれない」
やっぱり……ティルディールが何かして過去の魔王を呼び出したんだ……
そんな事を考えていると二人の元にシュラスが来た。
「二人ともよくやった……しかしやはり倒せないか……流石魔王と言ったところか……」
「やっぱり魔王なんですね……」
「あれは『復讐の魔王』……ヴィデルア……俺が過去に葬った魔王だ……」
「やっぱりティルディールが……」
「この現世に呼び出したと見て間違いないだろう……俺達を近付けさせない為に……」
謎の人物の正体は復讐の魔王、 ヴィデルアだった。
そしてヴィデルアはシュラスの姿を見ると仮面を外す。
その顔は女性のような美しい容姿をしていたが、 顔の片方には火傷のような大きな傷が入っており、 片目から見える瞳は月明かりで反射し、 銀色の光を放っていた。
あれが……復讐の魔王……
その姿を見たエルは体が硬直する。
『ようやく会えたな……紅月の夜……悪いが召喚主の命により、 お前を排除する……』
「やはりティルディールが呼び出したのか……全く面倒な事を……」
するとヴィデルアは更に空高くへ飛び上がり、 両手を広げ、 魔法陣を展開した。
しばらくすると黒い雲が徐々に集まっていき、 空全体を覆い隠した。
次の瞬間
『ピシャァァァンッ! ! ! 』
激しい閃光と共に雷が鳴り響き、 大嵐が巻き起こった。
荒波が船を激しく揺らし、 雷が船の側まで落ちてくる。
凄い力……こんな大嵐を起こせるなんて……
船が揺れて身動きが取れないエルとルーミ、 そこに……
『ヴゥ~~……』
船の甲板に何かが上がってきた。
それは骸骨の魔物だった。
その魔物はサーベルを持っており、 ボロボロになった衣服を身に纏っている。
「魔物まで出てくるの! ? 」
骸骨達は海賊達を襲う。
幸い海賊達は武器を持っており、 応戦する。
しかし船が揺れて思うように動けない彼らは苦戦する。
……まずい……私達も戦わないと……でも船が揺れ過ぎて動けない……
『そのまま大人しく沈め……我輩の父のように……』
絶体絶命かと思われたその時
「うおらっしゃぁぁぁぁぁぁ! ! ! 」
突然蛇のようにうねる水が横から噴射し、 海賊達に襲い掛かる骸骨達を海へと吹き飛ばした。
何事かと海賊達は水の発生源の方を見ると
「何か騒がしいと思って起きてみりゃ……この騒ぎは何なんだ? 」
『船長! 』
フェミルがサーベルを持って立っていた。
「いいタイミングで起きてきたな……反撃開始だな」
そう言うとシュラスは剣を抜き、 骸骨達を次々と斬り刻み始めた。
「私も……! 」
ルーミもシュラスに続く。
エルは相変わらず船が揺れるせいで全く身動きが取れない。
うぅ……嵐さえ収まれば……嵐……そうだ!
何か思い付いたエル、 するとエルは両手を構え、 炎の球を作り始めた。
あの魔王がやったように……魔力密度を極限まで高める……それを空高くまで打ち上げれば爆発が起きて雲が吹き飛ぶはず!
そう考えたエルは力を火の玉に込め始める。
……でも時間が掛かる……皆に時間を稼いでもらわないと……
「皆さん! 少し時間を稼いでいただけますか! 」
エルは全員に呼びかける。
「エルちゃん、 あの火の玉で何かするつもり……? 」
「エル姉さんの事だ、 この状況をどうにか出来るってことだろ! 」
「おっしゃあ! 俺らの腕の見せ所だ! あの嬢ちゃんを援護するぞ! 」
『うおぉぉぉぉ! ! 』
そして一同はエルの援護に入った。
続く……




