第36話【大海原、 再び】
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「……シュラスさん……やっぱり転移は駄目ですか? 」
「駄目だ……」
海のど真ん中、 船の上でエル達は何やら困っている様子。
こうなったのは数十分前の事……
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エル達はエルンソアから再び港街まで向かう為、 馬車に乗っていると
「よぉシュラス、 どうやらそこの猫を取り戻せたようだな」
「うわぁ! ジーラさん! 突然現れるのは止めて下さいって……」
「な、 何だお前ぇ! ? 」
突然現れたジーラにシュラス以外の一同は驚く。
「何の用だ……呼んでもいないのに」
「お前は相変わらず連れねぇ奴だなぁ……」
相変わらずそんなやり取りをする二人にフェミルは怒鳴る。
「おぉい! お前は一体何なんだよ! 」
するとフェミルに気付いたジーラは笑いながら
「ハハハハッ! お前がこの猫の妹か! 姉妹揃って間抜け面してやがる! 」
そうか……フェミルちゃんはジーラさんに会うのは初めてだっけ……
出会って早々にバカにされたフェミルは怒る。
「間抜け面とは何だ! 私をこのバカと一緒にするな! 」
「ひどっ! 」
フェミルの言葉にルーミはショックを受ける。
そんなルーミもお構いなしに二人の言い争いは続く。
「だって本当だろ? この猫が死んだ時なんてよぉ……『お姉ちゃん』とか『私を置いて行かないで! 』とかガキくせぇ事言っててよぉ、 思わず笑っちまったぜ! 」
「なっ! ? 何で知ってんだよこの野郎! ! 」
フェミルは顔を赤くしながらジーラを殴ろうとする。
当然ジーラは軽くあしらった。
そんな事をしているとシュラスが止めた。
「おい……もうその辺にしておけ……話が進まん……」
「おぅ、 そうだった……今回俺がお前らの前に現れたのは他でもねぇ……」
「急いで砂漠へ行かねぇと時間が無い……」
それはジーラからの警告だった。
何のことか分からずにいるエル達を余所に話を続ける。
「あの魔王……元々お前らを砂漠から遠ざける為にあんな辺境におびき寄せたみてぇだな……」
「そうだな……お陰で面倒な事になった……だが俺は極端な転移は使わんぞ……」
頑なに空間移動を使おうとしないシュラスにジーラは呆れる。
「相変わらずの堅物ぶりだな……まぁだからこその俺なんだがな……」
「どういう意味だ……」
するとジーラはエル達にある提案をしてきた。
「俺がテメェらを砂漠の方まで送り出してやるってのはどうだ? 俺はシュラスみてぇなルール厳守なんてしねぇ立だしよ」
え……それって……ジーラさんもシュラスさんみたいな事ができるって事! ?
今までジーラの事を怪力だけが得意な者だと思い込んでいたエルにとってそれは驚きの事実だった。
まぁ……確かに思い返してみればジーラさん、 突然私達の前に現れたりしていたし……出来るのは当たり前か……
ジーラの提案に一同は何も反対しなかった。
勿論、 シュラスも……
「……はぁ……まぁ今回はいいだろう……時間が無いのも事実だからな……」
「それじゃあ決まりだ! 早速行ってこい! 」
そう言うとジーラは指を鳴らす。
「……ん……おい、 お前砂漠の座標が正確に分かってるのk……」
指を鳴らす瞬間、 シュラスはそんな事を言おうとしたが間に合わず。
エル達は転送されてしまったのだった……
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そして現在……
「まさか……転送先が海のど真ん中だとは……」
「思わず力を使って船を生成してしまったが……仕方あるまい……」
そう、 エル達は砂漠ではなく海のど真ん中に転送されてしまったのだ。
もしかしてジーラさん……私が思っている以上に大雑把……?
「ジーラが後先考えずに行動する奴だという事を忘れていた……全くあの単細胞……」
珍しくイラついているシュラス。
そんな事をしている合間も船は海の上をただ浮かぶばかり、 時間だけが過ぎていく。
すると……
「……」
ルーミが耳を澄ませていた。
「何してんだよ姉貴、 今は波の音を聞いてる場合じゃ……」
「静かに……」
フェミルが文句を言おうとするとルーミは何時になく真剣な様子で言った。
そんなルーミに圧倒されて静かにする事数分後……
「……こっちだぁぁぁ! 」
「うわぁぁぁ! 」
突然大声を上げるルーミ、 それに驚いたフェミルがルーミの頭を殴った。
「馬鹿野郎、 急に驚かすな! ! 」
「ッてて……ごめんごめん、 それより向かう方向が分かったよ! 」
「本当に! ? 」
実はルーミは幼い頃、 漁師であった父に風や波の音で陸地がある方向を聞き分ける技を教わっていたのだ。
獣人族の者は聴覚や嗅覚が人間よりも発達しているが故の成せる技である。
「でかしたぞルーミ、 早速その方向へ向かうとしよう」
そしてエル達はルーミが指した方向へ進んだ。
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船を進めている時、 エルとシュラスは話をしてた。
「……シュラスさん……」
「何だ……」
「私……私って……人に従い過ぎなのでしょうか……」
それは突然の質問だった。
シュラスは珍しく少し考える。
「……それは分からん……お前は時として感情的に人の言う事を無視する……そして普段はただ人に付いて行くだけ……答えは曖昧なものだ……」
「そう……ですか……」
普段の私……やっぱりそんな感じなんだ……
エルはシュラスの言葉が心に刺さる。
「だが今のお前は変わりつつあるのかもしれない……他人ではなく……自分を信じる心が見え隠れしている……」
……
エルは自分の変化に不安を抱えていた。
このまま私は変わってもいいのかな……もし自分勝手にやって、 またあの時みたいなことがあったら……魔神戦争の魔神みたいになってしまったら……
異質な力を持つが故に、 彼女はまだ自分を信じる事が出来なかったのだ。
シュラスは話を続ける。
「……恐れるなとは言わない……生きとし生ける者とは変化を恐れるものだ……だが……それでも前に踏み出してみる勇気を持て……」
「でも……私なんかが……こんなにも大きな力を正しく使えるかどうか……」
するとシュラスは言う。
「勇気とは……恐れを持たぬ事ではない……恐怖をしつつも、 何かの為に前へ進まんとする意志の事だ……勇気を持てとはそういう意味でもある……」
何かの為に前へ進む意志……勇気……
エルはフェミルの事を思い出す。
フェミルちゃんは……魔王に乗っ取られておかしくなっちゃっているかもしれないルーミちゃんに……恐がってはいたけど、 確かにここまでついてきた……
「私にも……本当の勇気を持てる時が来ますか……? 」
「……知らん……それはお前の意志次第だ……何者にもその時を決める事は出来ない……」
「……」
それを聞くとエルは静かに遠くの水平線を眺めた。
……そうですよね……これは私が決める事……シュラスさんもルーミちゃんも……誰にも決める事は出来ない……
そんな事を考えていると
「エールちゃん! 」
ルーミがエルの背後から飛びかかってきた。
「まぁた暗い顔してぇ……大丈夫だよ、 魔王なんてシュラスさんがやっつけてくれるから! 」
「いや……そういう話じゃ……」
……いや……もしかすると、 私はこれからの事にも不安を持っているのかもしれない……魔王を直接見て感じた……あの圧……魔神はあれ以上……勇者でもない私が……そんな戦地で立っていられるか……
エルの心にはいくつもの不安があった。
しかし
「そんなに怖がらなくても、 案外何とかなっちゃうものだよ」
「その通りだぜエル姉さん! 怖がってばっかじゃ何も始まらねぇ! たまにはこのバカを見習ってみなって! 」
「いやバカは余計でしょぉ……」
ルーミとフェミルがエルを元気付ける。
「……ふふ」
その様子にエルは思わず笑う。
そうだよね……恐がってばっかりじゃ何も変わらない……これからあるであろう戦いに備えて、 私も変わっていかなくちゃ……
そんな事をしていると……
「……む……あの小島……」
シュラスが何かを見つける。
それは一つの小さな島だった。
草木も無く、 岩の山だけがぽつんとある島だ。
シュラスはその島に異様な気配を感じた。
「あの島がどうかしましたか? シュラスさん」
「……複数の人間の気配を感じる……それもかなり混乱しているようだ……」
「え、 もしかして……海賊か? 」
この世界で海賊は珍しくない。
しかし海賊と言ってもならず者ばかりという訳ではない。
海で起こる犯罪、 すなわち密猟や密航などを国の代わりに取締り、 生計を立てている……言わば海の冒険者なのだ。
ただ海賊は正式な冒険者のパーティではなく、 個々で活動をしているため、 時として荒々しい事をするのもしばしばあるそう……
関われば命の危機とは言わないが、 かなり面倒な事となる。
それを知っていたエル達は
「……迂回した方がいいですかね……」
「おいおい海賊に絡まれるのは御免だぞ……? 」
かなり警戒している。
しかしシュラスは
「いや……あの島に上陸しよう……」
何と、 その島へ上がろうと言い出した。
「でも海賊だったら面倒な事に……」
「それこそシュラスさんが嫌う面倒事になるってものですよ? 」
「いや……一度あの島に行く……否、 避難と言うべきか……見れば停泊する船が見当たらない……なのにも関わらずあんな孤島に人が上陸するはずが無い……という事はここ周辺で何かが起き、 船が沈められ、 あの島に難破したという可能性が高い……船を沈める程の何かとは知る由も無いが、 俺達もここにいるのは危険かもしれん……一度あの島に行って何があったのかを聞くべきだ」
確かに……このままだとどのみち危険かも……
そしてエル達は島に上陸する事にした。
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案の定、 島には何も無い……が……
「……この洞窟……怪しいですね……」
島の真ん中に小さな洞窟があった。
シュラスは洞窟の入り口周辺の地面を探る。
「……煤が落ちている……船の残骸から松明を作ったか……この洞窟にいると見て間違いないだろう……行くぞ」
「もし荒くれ者の海賊がいたらどうします? 」
「そん時はそん時だ、 旦那が何とかしてくれんだろ! 」
「あんたは相変わらず大雑把ねぇ……」
三人が不安を感じているのを余所にシュラスは洞窟の奥へと進んでいった。
…………
洞窟の中は薄暗く、 天井から滴り落ちる水滴が不気味な音を辺りに響かせている。
……人の気配がしないけど……本当にこの島に人がいるのかな……でも洞窟の入り口に煤が落ちてたという事は必ず人がいたって事だし……
奥に進むに連れて冷たくなる洞窟の空気にエルは身震いをする。
すると……
「……止まれ」
シュラスが不意に三人を止める。
同時に洞窟に入る時に点けた明かりを消した……
「……人……ですか……? 」
「静かに……油断したか……挟み撃ちにされた……」
「え……」
シュラスがそう言った次の瞬間、 洞窟内に複数の足音が鳴り響いた。
足音はあっという間にエル達の方に近付いてくる。
「三人とも耳を塞いで! 」
ルーミは咄嗟にそう言うとポシェットから何かを取り出し、 地面へ叩きつけた。
次の瞬間、 強烈な閃光と共に辺りに金切り音のような不快な音が鳴り響き、 煙幕のような何かが噴出した。
エルとフェミルはその煙にむせ返っているとシュラスが手を引き、 猛スピードで洞窟の外へと駆け出す。
四人はあっという間に洞窟の外へ抜け出し、 襲撃を回避できた。
「ゲホッ! ゲホッ! ルーミちゃん今のは? 」
「あれは私が作った特性コケ脅し玉! 光や音で相手を怯ませる事も出来るし、 煙である程度距離が離れている相手もかく乱する事が出来る代物だよ! 」
「ゴホッ……そんな物いつの間に作ってたんだよ……突然の出来事だったからびっくりしたぜ……」
「不利な状況からは脱したな……にしても相手はあんな暗い場所でどうやって俺達の場所を特定した……と言っても、 可能性は一つしかないか……」
そんなやり取りをしていると洞窟から複数の人間が飛び出してきた。
ルーミのコケ脅し玉のせいか、 全員むせ返っていた。
「ゲホッ、 ゲホッ! 何だ今の! ? 」
「煙玉か! ? 」
「煙玉があんな音や光を出すかよ! 何者だあいつら」
その正体はエル達の読み通り、 海賊だった。
それに普通の人間ではない、 ルーミやフェミルと同じ、 獣人族だ。
あれって……獣人族だよね……それにあの服装はどう見ても海賊……
エルは海賊の姿を見て警戒する。
すると海賊はエル達に気付く。
「ん? あれってよく見りゃ冒険者じゃねぇか? 」
「かなり身なりがいいみてぇだが……魔術師二人……? に……シーフの娘と……ガキまで連れてやがるな……」
四人の姿を見た海賊は腰に掛けていたサーベルを抜く。
「テメェら何をしに来やがった……」
「仲間が船がここに近付いていると言って警戒していたがまさか冒険者とはな……」
「俺らは冒険者ってのが大っ嫌いなんだ……悪いが無事では済まさねぇぞ」
海賊のあまり歓迎していない様子にエル達は慌てる。
「ま、 待って下さい! 私達は別に何も……」
エルが事情を説明しようとするも海賊はサーベルを収めようとしない。
両者ともに睨み合っていると
「だぁぁシャラくせぇ! まとめてぶっ飛ばしてやらぁ! ! 」
フェミルはそう叫ぶとサーベルを抜き、 思い切り振り回した。
次の瞬間、 サーベルから大量の水が噴射し、 蛇のようにうねりながら海賊を次々と巻き込み、 吹き飛ばした。
「……ヘヘン! どんなもんよ! 」
海賊達は全員戦闘不能状態になり、 フェミルは自慢げにサーベルを担ぐ。
「話し合いでも何とかなりそうだったんだが……まぁこれでも良しとするか……」
シュラスは呆れながらも倒れる海賊達の方へ近付く。
「……うちの者が突然済まんな……だが先に剣を向けたのは貴様らだ、 これでお相子だ」
「ッつつ……わーったよ……お前らがつえーのは分かった……強者に従うのが俺らのモットーだ、 もう手出しはしねぇ」
あれ……意外と潔い?
あっさりと和解? が成立してしまった状況にエルは少し困惑する。
そんな事がありながらもエル達は海賊達から事情を聞くことになった。
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洞窟内のキャンプ地にて……
「……という訳よ……まっさかあんなことになるとはなぁ」
話によるとその獣人族達は昔から海で海賊として生活をしているようで、 時には盗みなどを働くも海における犯罪を取り締まり、 国から多少の報奨金を貰って生活をしていたという。
そんな彼らに数日前、 アルドーラへ向かっていた時にある一人の男に船を襲われ、 この島に難破したという。
そのある男の正体は海賊達にも分からないが、 とてつもない魔力を持っており、 あっという間に船を海に引きずり込む程の大嵐を生み出したという。
「……」
話を聞いたエルはある考えが浮かぶ。
もしかして……その男って……
エルはシュラスの方を見る。
「エルの思っている通り……逆さ星の類かもしれんな……」
「どうして逆さ星が彼らを……? 」
「……恐らく手当たり次第にアルドーラへ渡ろうとする船を見つけては沈めているんだろう……俺達を近付けさせないため……」
「じゃあ……他にも……」
エルの言葉にシュラスは頷く。
それを聞いた海賊は言う。
「逆さ星って……あの大犯罪組織だろ? 何でったってアンタらを狙ってんだ? 」
「狙っているというより……警戒しているのだろう……奴らにとって今や俺達は最大の弊害でしかないからな……」
「何が……あったんだ……? 」
聞いてくる海賊にシュラスは今までの経緯を話す。
話を聞いた海賊達は皆動揺する。
そりゃ驚くよね……世界が滅亡するかもしれない出来事が起きようとしているんだから……
「そうかぁ……あの魔神が復活するかもしれねぇのか……」
「嬢ちゃんも大変だったなぁ……まだこんなにも若いってのに……」
エル達の事情に巻き込まれたのにも関わらず、 海賊達はエル達に同情した。
この人達……海賊だと少し怖がってたけど……凄く優しい……自分たちは他人の争いに理不尽に巻き込まれたのに……
エルは海賊の意外な一面を感じた。
「……まぁとりあえずそうだな……急いでデイダール砂漠へ向かう方がいいな……」
「だがいつ奴に襲われるか分かったもんじゃねぇな……どうするよ? 」
「無論、 それでも行くしかない……」
心配する海賊達にシュラスはそう言うと
「……なぁ、 俺達もアンタらの航海に連れて行ってくれよ! 」
「もし奴にまた会ったら今度こそ返り討ちにしてやる! 」
「護衛と言っちゃ何だがよ! このままここにいてもいずれ飢え死にだしな! 」
海賊達は立ち上がり、 エル達に付いて行くと言い出した。
勿論、 彼らが戦力になるとは思えなかった……しかし彼らは本気だった。
……この人達……凄い闘志……流石海賊と言うだけあるなぁ……
その様子にシュラスは小さくため息をつくも
「……分かった……お前達をこのまま野垂れ死にさせるのも後味が悪いからな……アルドーラまでは連れて行ってやる……」
そう言って海賊達を一緒に連れていく事にした。
それを聞いていたルーミは
「またまたぁ……本当はこの人達を助けたいんでしょう? 相変わらず素直じゃないなぁ~」
シュラスをからかう。
するとシュラスはルーミにいつもの拳骨を入れた。
「姉貴……ホント懲りないのな……」
その様子を見ていたフェミルは呆れ顔。
かくしてエル達は海賊と出会い、 海で危険な存在を知った。
そして難破した獣人族の海賊団と共に航海を再開する事となった。
続く……




