第35話【戻り来る力】
前回、 エルンソアにて一段落したエル達は次の目的地であるデイダール砂漠へ向かう準備をしていた。
「なぁ旦那、 次に向かうデイダール砂漠ってどんな場所なんだ? 」
旅の支度をするシュラスにフェミルは聞いた。
「果てしなく続く砂の海、 喉も焼ける灼熱の空気に全てを奪い去る大砂嵐が渦巻く……要は並大抵の生物では生きられぬ場所だ……」
「うへぇ……そいつはすげぇや、 このサーベルの水でも蒸発しちまうだろうな」
……デイダール砂漠……確かそこは殆どの生き物は三日もしない内に死んでしまうと言われている危険な大砂漠……魔神戦争の時代、 砂漠の大精霊が魔神軍からその地を守る為、 魔神の軍勢を砂の海に埋め、 灼熱の太陽となってその地を焼くようになったのが砂漠の始まりであり、 後に大精霊はその地に住む民の為に砂漠の中央に巨大なオアシスを作り上げた……ていう伝説があるんだっけ……
エルは以前よりデイダール砂漠の事を知っていた。
なぜなら……
ヴィアレ先生が言ってた……そこが私の出発点になるって……
ヴィアレからそのような予言を聞かされていたからだ。
そんな事を考えていると
「ねぇねぇ、 エルちゃん……」
「……え……あ、 うん……何? 」
ルーミがエルに話し掛けてきた。
「エルちゃん……何だか魔力弱くなった……? 」
ルーミの言葉は図星だった。
「……うん、 ちょっと色々あってね……今は氷も炎も使えないんだ……」
「……何かあったの? 」
そうだった……ルーミちゃんには話してなかった……
するとシュラスは言った。
「支度はしてやるから、 話すべき事は話しておけ……」
そう言われてエルはルーミを連れて宿の外へ出た。
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街の広場にて……
エルはルーミに今まであった事を話す。
「……そうだったんだ……私がいない間にそんな事が……」
「でももう大丈夫……シュラスさんがある程度封を施してくれたから、 暴走する事は無いって……」
「そうなんだ……」
話を聞いたルーミは何だか納得の行かない様子。
するとルーミは言う。
「エルちゃんは……本当にそれでいいの? 」
「え……? 」
「神様から授かった力なんでしょ? そんなに無理やり抑え込んで……いいのかなって……」
……私は望んでこんな力を授かった訳じゃない……こうしている方がずっといいに決まってる……そう……皆を……傷付けない為に……
実のところ、 エルは自身の力を無理に抑える事に疑問を抱いていた。
エルまだ自身がその力を手にした理由も分からないまま、 恐れを抱き、 見えないふりをしている……エル自身もそれが正しいのかは分からないが、 トルムティアの事もあってどうしても思い切れない部分があった……
「仕方ないよ……私にはこの力は大きすぎるから……こうして使えないようにしておく方が皆が安心でしょ? 」
「……エルちゃんは皆を守りたいんだね……でも、 そんなエルちゃんに神様の力が宿ったのにはきっと理由があるはずだよ」
「理由……か……それもずっと考えてきてるんだけどね……」
すると何に対しても曖昧な答えしか返せないエルに痺れを切らしたのか、 ルーミはエルの頬をつねった。
「もぉ! エルちゃんは考え過ぎだよ! もっと簡単に考えようよ! 」
「簡単に考えるって言ったって……」
なおも態度が変わらないエルにルーミは指を指す。
「エルちゃんのいけないところはそういう所だよ! 答えなんて案外簡単な場所にあるんだよ? 」
「簡単な場所……シュラスさんはすぐには答えは出ないって言ってたけど……」
「……それはシュラスさんの考え方! エルちゃんはエルちゃんの考え方だよ! エルちゃんは一度、 自分がこうしたいっていう心に従ってみるべきだよ! 」
心に従う……?
イマイチ意味が理解できないエルにルーミは言った。
「私が死んじゃった時、 エルちゃんはどんな思いでシュラスさんにお願いしたの? 」
……どんな思い……そういえば私……あの時何も考えずにシュラスさんにお願いしてた……
エルは過去にも感情的に動いていた場面に遭っていた……しかしそれは本人では自覚してはいなかった……
「きっとエルちゃんに足りないのは、 自分の心に従う事だよ……たまには何も考えずに行動してみるのも悪くないよ? 」
ルーミの言葉には不思議な説得力があった。
エルはそういうルーミを何度も見てきたからだった。
「何も考えずに行動か……うん……やってみるよ」
「そうそう! それじゃ早速二人で街の観光だぁ! 」
ルーミがそう言った瞬間、 ルーミの頭に拳骨が落ちた。
いつの間にかシュラスがそばまで来ていたのだ。
「シュラスさん! ? いつの間に……」
「阿保が何かしでかしてないか見に来てみれば……支度を怠けて何を遊び回ろうとしているんだ全く……」
「ッ~~~~~! ! シュラスさんもうちょっと優しくしてよ! 首を痛めたらどうするの? 」
「傷はもう完全治癒してあるんだから痛める訳無いだろうこの阿呆、 さっさと宿へ戻るぞ……」
そう言うとシュラスはルーミを引きずっていった。
「……エル……」
宿へ戻る途中、 シュラスはエルに話し掛けた。
エルは何かとシュラスの方を向くと
「……」
シュラスはエルの額に指で何かをなぞった。
するとエルの中で何かが解き放たれた感覚がした。
「え……まさかシュラスさん……?」
「念のためとお前に掛けていた封を消した……力はもう安定してきているし、 解除しても問題ない……」
「どうして急に……」
「……エル、 お前には謝らなくてはな……俺は無意識に自身の考えを押し付けてしまっていた……すまなかった……」
シュラスさん……話、 全部聞いてたんだ……
「お前はお前のやりたいようにやってみろ……もう過去に囚われるな……毎度言うように、 お前は成長しているんだ……勇気を持って進め……」
そう言うとシュラスはエルの頭を撫でた。
シュラスの言葉を聞いたエルは自分の中で何かが変わる感覚を覚える。
勇気を持って進め……か……
「……はい、 ありがとうございます……でもシュラスさん……」
「なんだ……」
「今の私になれたのはシュラスさんのお陰です……どうか謝らないで下さい」
「……そうか……」
そう言うシュラスは仮面で顔が隠れていて表情は見えなかったものの、 少し照れくさそうだった。
……そう言えばルーミちゃん、 ジーラさんと似たような事言ってたなぁ……何て言うか……兄妹みたい……
ルーミの言葉を思い出しつつエルはそんな事を思った……
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翌日、 エル達はいよいよエルンソアへ旅立とうとしていた。
「今回はお疲れさん、 今度は観光で街にきてねぇ~」
ウェヴィーラが街の出入り口まで見送りに来ていた。
「随分騒がせたな……」
「またいつか絶対来ます」
「本当に私のせいでお騒がせしました! 」
「ホントうちのバカ姉が済まなかったな」
そして一同は挨拶を済ませると馬車に乗り込み、 街を後にした。
…………
馬車の中にて……
「そう言えばルーミちゃん、 妹がいたんだね」
「あぁうん……まぁ……手厳しい妹だけど……」
ルーミがそう言うとフェミルはルーミの耳を引っ張る。
「だぁれが妹をこんな性格にしたんだろうなぁ~? 」
「あいたたたた! 耳が! 耳がもげるぅ! 」
「……ふふっ」
二人のやり取りを見てエルはつい笑ってしまった。
ルーミちゃん、 シュラスさんだけじゃなくて妹にも怒られてばっかりだけど……とても楽しそう。
「……お姉ちゃんに会えて良かったね、 フェミルちゃん」
「バッ……その名前で呼ぶんじゃねぇよ! 」
本名で呼ばれたフェミルは顔を赤らめながら怒る。
「フェミルは私達獣人族の言葉で『愛の花』って意味なんだ。 本当に相変わらず自分の名前が恥ずかしいんだねぇ~、 かわいい奴めぇ」
ルーミはフェミルをからかうとフェミルはルーミの両耳を引っ張った。
「だぁぁぁぁぁ余計な事言いやがって! 耳もがれてぇかこのバカ姉! 」
「うあぁ~! 耳が! 耳がぁぁぁぁぁ! 」
「騒がしくなったものだな……」
「あはは……」
…………
その頃……
『……シュラスめ……まさか死者を蘇生できたとは……甘く見ていたようだ……』
ティルディールが隠れ家でエル達の行動を監視していた。
(ここも既にバレているようだな……時間が無い……早急に準備を進めなくては……)
追い詰められて焦りを見せ始めるティルディール……するとそこに二人の人物が現れた。
両者共に肌が青白く、 生気をまるで感じられない。
『我らを呼ぶとは何事かと思えば……お主、 まだ諦めてなかったのか……』
『もういい加減に辞めにしないか……? 我輩達は戦争に負けた……神々は我らの思いよりも人間達の繁栄を選んだのだ……我輩達がどれだけ絶望しようと、 もはや受け止めざるを得ない運命だ……悪い事は言わぬ……アルガノーグの解放は止めておけ……』
二人はティルディールの知人であろう様子を見せる。
そして二人はティルディールの計画には賛成していない様子……
しかしティルディールは
『黙れ……亡霊共……私は諦めん……どれだけ諭そうと最早止まれぬのだ……』
怒り紛れにそう言うと二人の人物は無言でその場を立ち去る。
二人がいなくなるとティルディールは逆さ星の仮面を外す。
その容姿は女性であり、 それがティルディールの本当の顔だった……
その青く澄んだ瞳と雪の様に白い髪からは魔王とは思えない美しさを醸し出していた。
『……戻れぬ所まで来てしまったんだ……どれだけ後悔しようと、 どれだけ恨まれようが構わない……だから貴様らを呼んだのだ……』
『復讐の魔王』、 『強奪の魔王』……
そう言うティルディールの目から一滴の涙が零れ落ちた……
(あぁ……『紅月の夜』……シュラスよ……出来る事なら……私を止めて欲しい……今……ここで……)
心の中でティルディールは密かに助けを求めていた……
…………
一方、 天星騎士団は……
「シュラス殿一向が出発したようだな」
「私達もデイダール砂漠へ向かいましょう! 」
キューサスとミュリアは相変わらずエル達を追跡しようとしていた。
そんな二人にジーラは言う。
「一応言っておくが、 あいつ等の邪魔はすんなよ……俺はこれ以上面倒な事に巻き込まれたく無いんでな」
「全く相も変わらず貴方と言う人は……」
相変わらず身勝手な振る舞いをするジーラにミュリアは呆れ顔。
(私だって陛下の命令でなければこんな事……そもそもシュラス様さえいれば問題ないのに……陛下は心配し過ぎなのよ……)
心の中でぶつぶつと愚痴を垂れ流すミュリア。
「ミュリア殿! さぁ我らも行くぞ! 」
「あっ、 はい! 」
そして天星騎士団もエル達を追う形でエルンソアを出発した。
惜しくもティルディールを逃がしてしまったエル達……
しかしルーミの救出に成功し、 妹のフェミルはようやく再会する事ができた……
これはまだ新たな冒険の序章に過ぎない……彼らが待ち受けるものとは何なのか……それは運命のみぞ知る……
いずれ終わりもやってくる……深き影が……世界を覆い尽くす時に……
この物語の結末とはどのようなものとなるか……それは運命をも知るよしもない……
その結末を創るのは運命ではなく……この世に生きとし生ける者達だから……
続く……




